Fate:Catalfining
フェイト・カタルフィニング

 




「ひとつ、よろしいでしょうか、ハクノ」

そういって律儀に手を上げて会話を持ち出したのは、昨日―精神的な扱いでだが―にBBの魔の手をより解放し、私達の味方となったラニ=[だ。
かまわないとうなずいて続きを促せば、ラニはメガネを直してから話し出した。

「今この状況で、こんな話をするのは適切ではないと認識していますが。あなたのサーヴァントについてです」
「おや、白野さんのサーヴァント・・・プリーストがどうかしましたか?」
「私は現在プリーストの真名、つまり正体に当てをつけています。ですが、その予想が当たっていた場合いくつか確認したいことがあるのです。彼が、表の聖杯戦争に関係ないというのなら、ぜひ正体を明かしてほしいのです」

プリーストの、正体。私が聞いても教えてはくれなかった。呼び名ですら、呼びなれただけという名称だ。
私がマスター契約したせいで、弱体化しているから不安なのだろうか?

「いえ、そこではありません。弱体化していても、あの赤いランサーとの健闘ぶりは目を瞠るものがありました。しかし―そうですか。ハクノは真名を知らないのですか」
「ラニ。どうせプリーストは霊体化してそこにいるはずでしょ。直接聞いたら?」

それもそうだ。軽く辺りを見てプリーストに姿を現すように伝えれば、すぐに言うとおりその場に現れた。
プリーストの口は笑みを崩さないが、少々面倒そうにしている。

「仮にも英霊を相手に、大変失礼なのは承知しています。しかし、私たちが無事月の表側にたどり着くには、何より信用が重要になるかと思うのです」
「うーん、大体なにを言おうとしているのは分かるんだけどさ、はっきり言わないと、僕が分かっても他の子がわからないと思うよ」
「・・・では、単刀直入に言わせていただきます。プリースト、あなたは、かつて自分の国を滅ぼした暗君と名高い王ですね?」

暗君。それは確か、王として才能がないことを罵る言葉であったはずだ。今までの戦いでも、私のミスを覆うように適切な判断を促してくれたこのサーヴァントが?

「ああ、そうだよ。僕は悪名高い王だ」
「・・・やはりそうですか。ならば、あえて言います。私は、このサーヴァントを信用できません」

突然何を言い出すんだ、ラニ・・・!
ラニだって、ランサーとの戦いや迷宮攻略中の判断を評価していたではないか!

「だからこそです。私は彼の逸話を知っています。戦いしか能がなく、政治手腕も何もなく怠惰で、その愚昧のせいで一番近くにいた部下の謀反に気付けず国を滅亡させるに至った。そんな人が、戦い中のことについてはともかくとしても、あれだけ適切な判断ができるとは思えないのです」

ラニは淡々と語る。思うところがあるのかラニ以外の全員が気まずそうな顔で黙り込んでいた。言われっぱなしのプリーストも真面目な顔でそれを聞いている。

「それで、つまるところ何が言いたいのでしょう、ラニ」
「彼は元々表側の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントではないと言います。その真義は置いておくとしても、どちらにせよ彼がわざわざ私たちの手助けをする理由がないのです。つまり―」

そこで一度言葉を区切りラニは息を吸う。

「憶測ですが、もし彼がBBから遣わされたスパイだとしたらどうでしょう。作戦等において、彼が適切な判断をできるのにも説明ができます。彼も仲間として桜に認識されている今、もしBBの援護を受けられるとしたら弱体化していてもガヴェインやカルナ、アンデルセンに魔術師である私達を一気に相手にしても勝率はある」
「・・・なるほどね。確かに、その可能性も捨てきれないわ。どうなの、プリースト?」

凛が納得したようにプリーストに視線を向ける。私の一歩後ろの位置で佇んでいた彼は、浅く長い息を吐き出すと再度口角をもちあげ笑顔を見せた。その様子に、全員が警戒の色を露にする。ガヴェインは武器に手をかけながらプリーストを睨んでいる。

「まず、ラニ。君の推測は素晴らしいものだ。様々な可能性を捨てずに、危険な選択肢を確認に来たことはとても評価できる」
「・・・・・・」
「しかし、僕はBBの仲間ではないよ。まぁこんなメンツと比べて、あんなかわいい子に仲間になってほしいと言われれば、なびかないとも言い切れないけど」

おどけた様子ながら出た言葉に、ガヴェインがついに聖剣を抜く。レオにたしなめられながらも、彼の警戒の目はより鋭くなっていた。
一方危機的状況とも考えられるプリーストは、武器を抜く様子もない。手を腰に当てて、口元を吊り上げ笑んで―?
確かに口元は笑んでいる。目を細めて、眉尻を下げて困ったように笑っているように見える。だが、これは・・・マスター契約をしてパスがつながっているからだろうか。感じられる感情が、"困った"ではなく"哀しい"だと思えるからだ。
彼らの話を耳に届けながらも、私は自分のサーヴァントを見定めるためじっと見つめた。

「最初君たちに説明したとおり、僕は表側の聖杯戦争で召喚されたサーヴァントでない。つまるところムーンセルの管理下の存在ではなく、それは岸波白野のサーヴァントでもなかったと言うことだ。
ここへ来た理由も話したよね、最初に召喚された場所でのマスターが変な人で、ここでの異常を嗅ぎ付けて僕をここへ飛ばした」
「・・・ええ、確かにそういっていました。凛、ラニを救出するまではこちらには駒がなかったため、藁にもすがる・・・と言う感覚であなたの協力を受け入れた」
「僕は好きでここに来たわけじゃないし、帰ろうと思えばいつでも帰れるんだよ。ここは裏側だろうと月、月を信仰していた僕としてはホームグラウンドなんだ。その気になれば何でもできる。
それはともかくとして、我がマスターの意向で君たちに協力しているだけだから、用無しとされればいつでも消えるよ。もちろん、自由に罵れ・・・扱えるサーヴァントを失って君たちがどうするかっていう初歩的なことなんて僕は保障できないけど、契約を切りたいなら切るといい」

もっともな意見だ。ラニとしてはBBの手先なのか否かと確認したかっただけなのだと思いたいが、さすがにプリーストも苛立つところがあったようで、いつもの軽い口調とは違いテンションが低い声だった。

「ああ、安心して。君たちにとって僕が要らないなら、すぐに帰る。君たちに怒ってBBの仲間になりにいく面倒なことはしない」
「お、落ち着いてくださいみなさん!そんな、プリーストさんからは敵意は感じられません。BBの手先なんて、そんなこと・・・」
「なんにせよ、プリーストに抜けられれば困るのは我々だ。どうする、レオ」

それまで黙っていたユリウスが呆れたようにレオに判断を促す。

「・・・手詰まりになるとしても、彼のおかげで凛とラニと言う新たな仲間が増えています。三人寄れば文殊の知恵、どうにかするしかありません。彼を信用するか否か―契約続行の如何については、マスターである白野さんに権限があります。押し付けるようですが、そこの判断はあなたにまかせます」

レオは神妙な面持ちでそうまとめて私に視線を向けた。
プリーストを失えば、目的への手段がなくなり手詰まりになる―それに関しては、どうにでもなるとレオは言っていたとしても、それはできない。
・・・だからと言って、それだけの理由で彼を使役し続けるのは彼に失礼だろう。仮でもなんでもなく、プリーストは英霊なのだから。
瞼をおろして腕を組み、静かに答えを待っている。諦めと言うのだろうか、やはりどこか哀しげだ。
そして答える。ラニ、お前の文句は最もかもしれない。だけど私を救ってくれたのは彼だ。凛とラニを救い出すことができたのも彼のおかげだ。彼を切り離すことは、誰がなんと言おうと頷かない。プリーストは、私の大切なパートナーだ。

「―・・・」
「先輩・・・」

全員が、私の答えに絶句する。いや、もちろん契約を切る雰囲気だったわけでもないから、そこまでおかしいはずもないのだが。
一番妙な表情になっていたのは、話の種であるプリースト自身だ。心底驚いた顔をした後焦りだす。

「・・・君、頭大丈夫?僕、BBの手先かもって言ってるのに」

記憶喪失は頭へのダメージはないし、 記憶はなくても支障はない。本当のことだろう?

「・・・・・・こっちのマスターは相当馬鹿のようだ」

その言いようは酷いのではないだろうか。
ああ、でも―少し、うれしそうにしている。