重なる熱



 最近、身に覚えのない淫蕩な情景が頭に浮かぶ。
 脳裏のおぼろげなウツシエを思い浮かべたまま、自身の熱を収めるために右手を動かした。粘着質な水音に眉根を寄せ、どうにかそれらしい箇所を親指でこする。摩擦による熱なのかそうでないのかはもはや明白だ。なかなか冷めないことに苛立ちを覚えながら、強めに刺激して白濁を吐き出した。

「……、……はぁー……」

 本当に身に覚えがない、彼女のあられもない様子。衣服をはだけさせて、熱っぽくこちらを見つめ、俺の名を口にする。瞳は濡れ、─こちらを求めている。
 これは、なんだろう。噂に聞く健全な男子の妄想というものなのだろうか。
 そういうこと、というのは、百年前に話の流れで、からかい混じりにウルボザに教わったくらいだ。それどころでなかったというのはあるけれど、ウルボザが言っていたとおり『強い男』を求めるゲルド族の女性にとっては俺は高嶺の花ながら人気だったようで、機会は探さずともいくらでもあったのだろう。しかしそんな情欲を抱いたことはなかったし、剣を振り回していたほうが気分がいい。
 …初対面での一糸まとわぬ姿を目撃した時も、特に、何も。
 ……今それを思い出すと、うん、また再熱してしまうけれど。
 ここ数日そればかりで、朝目覚めてがいない隙に何度か処理をする羽目になっていた。本当に困る。処理も面倒だし何よりに申し訳ない。勝手に卑猥な妄想をしているのだ、軽蔑されてもおかしくはない。

「っは、ぁ……」

 片手は口元を抑えながら、自分の熱を丁寧にしごいた。過去になんやかんやで教わってなかったら、不用意なところで暴発してリーバルに腹を抱えて笑われていたか侮蔑されていたか、を穢していたかだ。
 の肌を思い出す。なめらかでしっとりしていて、俺の骨ばったかたい感触とは全然違う。細くて俺より頭一つ分小さくて、力を入れたら折れてしまいそうなほど儚い。華が咲くような笑顔はあまり見られないけれど、恥ずかしそうに微笑むのはとても愛らしい。ゼルダやウルボザのように肉付きは良いとは言えないが、腰は更に細く扇情的で、膨らむところは膨らんでいる。
 …その彼女が、ベッドの上で瞳を潤ませ、頬を真っ赤に染めて息を荒げさせる。切なそうに俺の名を零し、唇からあかい舌が覗く。
 ……思い当たるところは、なくもない。どちらにせよ俺には縁のないはずの妄執だ。
 身を屈ませて腕の動きを速める。こんなとこに体力消費してどうすんだ。ハイラルにはまだ魔物が蔓延っているのに。そんな僅かな理性もなんのその、頭の中ではが俺の名を呼ぶ声が何度も蘇る。─小さく小さく無意識のうちに呟きながら、濡れそぼる肉塊の世話を続けた。
 と、その時。がちゃりと家の扉が開き硬直する。驚きなのかタイミングなのか、無情にも再度の白濁が勢いよく飛び散った。

「リンク、起きてる?ご飯できたよ」
「っっっっ!!」

 先程までの興奮が嘘のように血の気が冷めていく。俺の身じろぎが聞こえたのか、はゆっくり階段を登り、こちらに近付いているようだった。考えるより先に布団をひっぱり頭までかぶる。汚れるとか知ったことじゃない。後で洗うか燃やすかしよう。

「…?リンク?」
「……お、おはよ…」
「うん、おはよう。いい天気だよ。今日は鹿のお肉分けてもらったの、美味しく出来てると思う」
「そ、そっか…すぐ行くよ」
「うん。……大丈夫?体調悪い?」
「いや、すっごく元気。すぐ行くから、鍋のところで待ってて」

 布団をかぶったままそう急かせば、はためらいながらも踵を返したようだ。

「本当に…?困ったことがあったら言ってね」
「─うん、ありがとう」
「…私にできることならなんでもするから。…気負わないで、ね」

 声が少し沈んだ。おそらく俺が何も答えないために、彼女こそ気負っているのだろう。いやしかし。

のせいなんだよな…」
「え?」
「えっ」

 沈黙。階下へ向かおうとしていた足音も止まり、外の鳥の鳴き声が何故かよく聞こえる。

「……私がかけた呪詛が、まだ何か影響を?それなら、すぐにでもゼルダ様に、」
「いやっ違っ、悪い意味じゃなくて!」

 泣きそうな、震えた声になった気がして、慌てて飛び起きに駆け寄る。下半身が肌寒いのも気にせずの腕を掴んで顔を見た。ばちりと目が合うけれど、彼女はすぐに俯いて視線をそらしてしまう。言葉を迷いさがしていると、は次第に顔を真赤に染め上げていた。

「………っ、」
?─!?」

 失神とまではいかずとも、はへなへなと腰を抜かしてしまう。どうしたことかと慌てていたが、そこで自身の下半身の状態を思い出した。彼女とは反対に俺は真っ青になって上着の裾を引っ張って隠し、素早く後退しベッドへともぐった。

「……ごめん」
「…ううん、いいの。…えっと…先にご飯、食べてる…ね」
「うん…」

 は静かに階段を降りて家の外へ出ていった。
 僕はといえばベッドの上でうなだれている。しばらく立ち直れそうにない。

§


 目の前ではプルアが腹を抱えて笑い転げている。比喩ではなく、狂った笑い声をあげながら転がっている。

「プルア…」
「あっはははははは!あのっ、あの英傑の中で一番の堅物のリンクが!各方面の女子のそれとなくないアピールに一切気づかず剣振り回してたリンクが!あはははは!」
「気付いてなかったわけじゃない…!」

 どうしてこうも笑われているのかと言うと。
 あの後どうにか何事もなかったような顔をして食事したのだが当然気まずいまま。そして何をどう考えたのか、はプルアへ相談したのだそうだ。…からプルアへ相談したというのはにわかに信じがたいが、そこの真偽は重要じゃない。何かしらの経緯でプルアへ事情が知られたのは事実だ。

「それでわざわざ呼び出してまで何の用」
「ああそうだった。巫女様が、記憶を失わせた呪詛のせいでリンクの下半身に何か後遺症があるらしいから診てほしいって」
「どうして…」

 どうしてそうなった。
 そもそも今日プルアに研究所へ呼び出され、開口一番に「巫女様と何かあったの?」だ。誤魔化そうにもプルアに口で勝てるわけもなく、今朝の状況を話すはめになった。そしてプルアが笑い転げた。

「下半身なんてピンポイントに言うから何事かと思ったよ。でも大体察した。うんうん、リンクもちゃんと男の子だったんだねぇ、安心したよあたしゃ」
「百二十歳児…」
「なんか言った?」

 顔をそらせばプルアは不満気な顔をしたものの、咳払いして話題を戻す。

「まぁ真面目に対処方法を提示するとすれば、あたしが筆下ろしするか巫女様といい仲になるかだけど」
「はぁ?」
「原因が呪詛かどうかはともかくとして、さすがに巫女様も何が起こってたのかくらいわかってるでしょ。その上であたしに相談してきたってことはそういうことじゃない?」

 頭を抱える。
 それはつまり、外で処理をして来いと…。

「王国亡き今のシーカー族の子は、裏仕事なんて知識くらいでしか知らないから、選り取り見取りってわけにもいかない。だからあたしか、あっインパのほうが燃える?」
「勘弁してくれ…」

 王国に仕えるシーカー族は、全員ではないが、国の暗部─裏仕事もこなしていたことは知っている。色仕掛けによる情報収集とか、暗殺とか、そういう。忠臣であるからこそ任されていたのだろう。なればこそ、私事で利用するわけにはいかない。
 というか若返ってるプルアはともかくインパは無理だろう。………いや、プルアも若返り過ぎているから無理だろ。

「じゃー巫女様一択でしょ。素直にヤらせてくださいって頭下げな」
「そんなわけにいかないだろ」
「いいじゃん別に、襲っちゃえ。男は狼だよ」
「女が言うか…」
「ここでゼルダ様の名前が出てこないあたり選択肢ないんでしょ。リンクのためならなんでもするって言ってるんだしダイジョーブダイジョーブ」

 出されていた茶を一気に飲み干して、早々に研究所を去った。睡眠薬と鎮静剤を渡されたが良くも悪くも使いたくはない。
 妙に体が興奮している。家に戻る前に山へ登って近くの魔物でも狩っていこう。

§


 日も落ちてきたころにようやく家への帰路につく。実際問題今日もあの淫夢を見てしまうのなら、いつまでも剣を振り回して誤魔化すのは難しいだろう。しかしヤらせてくださいなんて頭を下げるのは、俺のプライドなんてどうでもいいがに対して失礼どころの話じゃない。いずれそういう関係になるとしても、順序を。段階を。
 悶々としながらハテノ村に辿り着く。相変わらず庭で屯してるサクラダさんたちは、俺を見つけると慌てた様子で手招きした。何事かと足を速める。

「アナタが出て行ったあとちゃんが具合悪そうに帰って来たのよ。顔真っ赤でフラフラして。声かけても大丈夫しか言わないから、早く看病してあげて」
「…!」

 サクラダさんの報告に走って家へ入り二階へかけ上がる。ベッドの上では着の身着のままなが力尽きたように倒れていて、急いで顔を覗き込んだ。
 呼吸は荒いが短くはない。ベッド下には上衣が抜き捨てられ、ソックスも片方脱げていた。

、大丈夫?」
「……へいき」
「……本当に?」

 既視感。目は開けなかったが意識はあるらしく、想定よりすぐに返事が戻ってきた。唇を噛み締め
確認の言葉に対し僅かにまぶたを持ち上げ、疲れ顔で微笑む。

「辛いと思うけど、大丈夫なんだね?原因はわかる?」
「…プルアの……、ううん、なんでも…ないわ。最近天気が不安定だったし、…それで体調を崩したの、かな」

 どうしてそこでプルアの名が。首を傾げながらも背負った武器を乱雑に置き、階下のキッチンで適当な布を濡らして絞る。再びベッド脇へ趣きの汗を拭こうと濡れ布を持った手を伸ばした。

「んぅ…っ!」
「っへ」

 思わず情けない声が出てしまった。
 髪を除けようと指が触れた瞬間、から妙な声が漏れる。
 …その時の、表情が。声の甘さが。……ここ数日夢に見ていた中のそれと、酷似していた。

「……大丈夫、だから。ごめんなさい」

 真っ赤な顔。申し訳なさそうにしているが、その表情はどうにも淫靡で。
 俺がプルアに呼ばれ、研究所へと家を出てから、具合悪そうに帰って来たという
 いつもならプルアは茶なんて出さないのに、今日はひっそりと出されていたお茶。
 飲んだ後研究所を出て、数時間魔物狩りして収めた妙な熱。

「…プルアァ…!」
「ち、違うの、私が…変なこと言った、から…プルアは」
「…っ、」

 苦しいだろうに身を起こしてまで庇うことはないのではないか。沸きかけた怒りはすぐに霧散し、代わりに剣を振り回して収めたはずの熱が燻った。
 上衣を脱いでいるせいで、普段見えないところまで体の形が見えている。誤魔化していた熱が、一瞬で沸騰に至った。
 彼女に伸びそうだった手で咄嗟に自分の頬を叩く。驚きに目を丸めたをよそに、小手やら剣帯やらを外していった。

「り、リンク…?」
、」

 英傑の服を脱ぎ捨て、肌着を脱ぎ捨て。乱れる呼吸を抑えながら、困惑しているに詰め寄るようにベッドへ膝を乗せた。それほど広いベッドでもないからか後ずさることはない。強張らせている肩をぐいと押し、ベッドに横たえさせる。は真っ赤な顔でこちらを見上げていて、熱がさらに昂ぶるのがわかった。
 ぐっと顔を近付けて、手のひらで頬を包むように触れた。は唇を噛み締め息を飲んで肩を揺らすと、泣きそうな顔で視線をそらしてしまう。強請るようにまた顔を寄せ口付けた。頬に、瞼に、耳に、首筋に。柔らかくて、しっとりしていて、甘い匂いがする。夢中になって唇を這わす。汗か涙か、肌を伝う雫を舐め取れば、は大袈裟に体を震わせ、ようやくこちらを見た。
 ここぞとばかりに唇を奪う。顔を掴んでそらせないようにして、何度も唇を合わせる。食いしばっていたものの、物申そうとしたのか開いた口にすかさず舌を潜り込ませれば、熱と熱が絡んで目の前が少しぼやけた。
 拒む挙動は俺を拒否しているわけではない。はず。薄目に彼女の顔を覗き見れば、夢に見たような蕩けた瞳がそこにあった。

「ん、んっ…、リ、」

 息苦しそうだと直感し、キスをやめて頬を擦り合わせる。そのまま目先にあった耳に噛み付いた。

「っひゃっ、う…!」

 反応が愛らしくて、形を確かめるように食む。俺の肌に爪を立てながら、は必死に唇を噛み締めている。それが気に食わなくて親指を彼女の口に突っ込んだ。歯を撫でれば閉じることも出来ず、荒い息と甘い声が漏れ出していく。

「リ…、リン、ク」
「かわいい」

 つぶやくように率直な感想を吐き捨てて、愛撫を再開する。どこもかしこも柔らかくて気分がいい。
 の今の衣服はボタンも紐も無いので脱がすことができないが、まぁいいだろう。隙間から手を差し込んで引っ張れば、ふくよかではない乳房が顔を出す。キスをして舌を絡ませながら、優しく指でつまみ転がした。擦れる度の体が震え、脚の間に陣取った俺の腰をその細い脚がしきりに挟んでくる。

「リ…リンクっ、も…やめて、」
「うーん」

 キスもいいが、やっぱり声が聞きたい。顔を離して腰を撫でる。
 両足の付け根はいつからかびしょびしょになっていて、触れていた俺のズボンにもしみていた。ああ、もったいない。鎖骨に口づけながら手早くズボンも脱ぎ捨てた。
 下着の中で元気に膨張しているのがから丸見えになってしまうが致し方ない。当のもそれに気づいたのか、さらに顔を赤くしながらも凝視していた。よし。
 少し身を引いてかがみこむ。の腰を持ち上げて、しとどに濡れるそこへ舌を滑らせた。

「……!!リ、ンク!?やっ、ぁあっ!」

 鼻や唇で膨れた突起を潰しながら、跳ねる体を適度に抑えつけて溢れる蜜をすする。伸ばせるだけ舌を伸ばして奥へも侵入を試みつつ、丁寧に舐め取った。俺の頭を押し除けようと触れた手はぴくぴくと震え、すでに目的を忘れて俺の髪を掴むだけになっていた。
 股の間からちらりと彼女の表情を覗けば、ほろほろと涙をこぼしながら首を振り、与えられる刺激から漏れる甘い声を必死に噛み締めている。しかし性感帯をつつかれるのはやはり気持ちがいいのか、大きなため息の度に高い音が溢れ、拒むようにぎゅっと目をつぶっていた。

「…っ、リンク…っ、も、もうやめて…っ、」
「ん、ぅ」
「リンク…!やだ、も、いやぁ…っ」

 痙攣の間隔が短くなる。髪を掴む手に力が入り、俺の頭を挟むまいと太腿が揺れる。

「やだっ、やだぁ…っ、あ、んぅ、ひっ、あァ──…っ」

 彼女の顔を眺めながら強く吸えば、背をのけぞらせながら足指を丸めた。びくびくと何度も震え、上げていた頭は枕に沈む。少しして脱力したのを見て、俺は口元を手首で拭ってから顔を寄せての蕩けた表情を目に焼き付けた。
 呼吸を多少整えたがこちらを見上げる。にこりと笑みを向けて頬を撫でた。傍ら、下着から陰茎を取り出し蜜口に当てる。すぐに挿入れてしまいたかったが、剣を振り回して収めたつもりだった熱は、多分すぐに果ててしまう。彼女が行為に嫌な思いをしないように丁寧に優しくシたいのだから、それは良くない。
 こういう行為のことさえ、もしかしたら過去の記憶の中にあるかもしれない。過去の勇者のほうが良かったとか言われたら心が折れる。

「……リンクも、プルアの…お茶、飲んだの?」
「っへ、あ、ああ。うん」
「…言ってくれれば…。処理、したのに」

 処理て。

「…こんな貧相な体、抱いても面白くないわ」
「ひん……そう……?」

 合点がいかない。いや、確かに─パーヤやゼルダあたりと比べれば胸部は心元ないかもしれないが。

「……声が聞きたい」
「え…?」
「夢を見るんだ。俺じゃない俺の名前を呼ぶ君の夢。俺は、俺を見て、俺の名前を呼ぶ君の声が聞きたい」

 淫らな様子であることは伏せて最近悩まされていた夢のことを言えば、はサッと顔を青ざめさせた。視線を泳がせて「そんなまさか」と考えを巡らせている。…からすれば、笑えない事象なのだろうか。
 何にせよ、俺から視線が外されたのが気に食わなくて、優しくしたいとかいっていた思考が何処かへ飛んでいった。の腰を掴んで、昂ぶる熱を突き入れる。

「ひァぅ!?っあ、あ…!」
「俺を見ろ」

 顎を掴んで視線を合わせる。怯えが見えたが、視線が重なったのでまたにこりと微笑み、体を揺らしながら口付けた。

「ね、もっと名前呼んで」
「あっ、う、り、りん、くっ」
「もっと。もっと、呼んで」

 ぺちぺちと肌がぶつかる音が激しくなっていく。腰を掴んでいた手を片方、それでも声を抑えようと唇を噛むの口に指先を突っ込んで、ゆるく口内を撫でた。あられもない声は絶え間なく漏れ、俺の興奮も強まっていく。
 の腕をひいて俺の背に回させてから、胸板に押し付けるように強く抱き締めた。何度も何度も名前を呟いて、湿った吐息を耳に吹きかけてやる。その度にの腕に力が入って、俺の背中に爪を立てていた。

「っん、ぅう、」
…」
「あっや、いやぁ…っ!やっ、りんく、リンク…!」

 俺を見上げて、俺を見て、他の誰でもない俺の名前を叫ぶ。どくりと体が跳ねて、同時に射精した。

「っあ、あぁ─ッ…!」

 の両足が俺をこれでもかと強く挟み、細高い声が吐き出される。未だ脈打つ肉塊から精液を絞るようにの中が収縮し、情けない唸り声を漏らしながら、一息ついてに口付けた。再び舌を絡ませて、それから。

「っえ、あっ…?」

 体力尽きかけのには申し訳なさを感じつつ、抱き起こしていた彼女の体をベッドに沈め、腰を揺らした。

§


 体力回復が十分に出来る食事を用意しないと。そう思いながらも、とっぷり更けた夜を窓から見上げた。すでに朝方だろうか。帰って来てすぐし始めたので、夕飯も食べていない。それでも妙に活力があふれるのはのおかげかプルアのせいか。

「ん…、」
「…起こした?」

 最中に気を失ったの髪を撫でていれば、身じろぎして目を覚ました。ぼんやりしながら身を起こし、肌寒さに肩を擦る。ベッドの周りに散らかした俺の服を適当に拾って被せてやれば、ひとこと「ありがとう」と呟きまた船を漕ぐ。
 肩を抱いてもたれさせれば、そのまま瞼を下ろした。しかし眠ったわけではないようで、白い腕が俺の手に触れる。

「傷だらけ」
「…目覚めたときから…、百年しても治らなかったみたいだ」

 遠目には見えない小さなものばかりだが、体にはたくさんの傷があった。ほぼすべて百年前の傷だ。痛みはないがなぞられると変な感覚がある。はそっと傷を撫で、悲痛に眉根を寄せた。

のせいじゃないよ」
「……けど」
「あの時君が守ってくれなかったらこんな傷じゃ済まなかった」

 俺の肩に乗せられた彼女の頭に寄り添うように頭を傾けた。

「好きだよ、
「……わたし…」

 素直に同意の返事が来るとは思わなかったけど、少し気落ちする俺をよそに、は俯いた。

「何度後悔しても、やっぱり私は貴方を好きになってしまうの。…どうしようもなく」
「……」
「貴方も私を受け入れてくれる。…私にはそれが…不思議に感じるの」

 どういうことかと問えば、は顔を上げて俺と目を合わせた。

「呪詛を解いたこともそうだけど…だって本来、私たちには何の関わりもないはずなのよ。私だけが覚えている過去の縁を除けば」
「…それは…」
「…最初の私が…全ての始まりの時に、巡り合う呪いでもかけたんじゃないかって」
「俺の気持ちが、かつての君に植え付けられたものだと?」

 少しだけ声に怒気が籠もってしまった。は肩を揺らして身を小さくする。

「……かつての時に何かをしたのは、俺の方だと思うよ」
「え?」
「君は俺を拒絶出来た。呪いをかけて、俺から君の全てを消そうとした。…それでも俺は、君を思い出したんだ。執着してるのは俺の方だ」

 肩を掴んで身を離し、噛み付くようにキスをする。強張った体はすぐに脱力して受け入れた。角度を変えて、舌を絡ませて、収まったはずの熱に再び薪を放り込みながら、俺たちは夜を過ごした。


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