常守朱は、とある病棟の一室の扉を開けた。
完全一人用、個室だ。幾つかの機材に囲まれて、とある女性がベッドの上で眠っていた。彼女の状態を調べ伝える機器は、正常な様子を見せていた。

「…まだ寝てるんですか、さん。いい加減、起きないとダメですよ」

独り言のようにつぶやいて、色素の薄い髪を撫でる。と、ふわりと彼女の瞼が上がった。奥に仕舞ってあった瞳がこちらを見て、大きく息を吐いてから、口を動かした。

「…あなた、だぁれ?」
「もう、常守朱ですよ。何度目ですか、いい加減覚えてくださいよ」
「つねもり…」

彼女ー小鳥遊は、言われた名前を小さな声で反芻すると、ああ、と思い出したようにして常守を見直した。

「あの人を、連れてきてくれるって言ったのに結局つれてきてくれなかった、あの子ね」
「あはは、そう言われると耳が痛いですね」
「…それで、その常守朱がどうしたの?」
「お見舞いにきたんですよ、私。すみません、中々来れなくて…そうそう、宜野座さんが執行官として、戻ってくることになったんですよ。それに、珍しいですけど、未成年の監視官登用が決まったらしくて」
「ぎの…ざ…。もど、って…そう、なの。ああ、じゃあ私もそろそろ仕事しないと。あの人は、私が、…私は?彼が…?」

天井を見上げて小鳥遊はつぶやいている。
常守は、花瓶に花を生けながら、黙って聞いている。

「彼は…__さんは、戻ってこないの…?」
「…そうですね。まだ、仕事には復帰できないみたいです」
「…じゃあ、私ももう少し寝ていようかしら…」

ほんの少しあげていた頭を枕に埋める。目を閉じ、すうぅ、はぁあ、と深呼吸して再度瞼を上げると、脇でりんごを剥く常守を見た。

「あなたは、だれ?」

彼女のサイコパスは、いたって正常値だ。