intro
旅をするには手荷物もなく軽装の立香に男は訝しげにする。盗られてしまったのだと誤魔化せば、ようやく納得したように微笑んだ。
「ならば、この馬車に乗るといい。近くの村までは送ろう、これも何かの縁だ」
出会ったばかりの人にそんな迷惑を、とは思ったが、現状頼れるものがなにもない。日も傾き、夜になれば魔物がおらずとも野獣の餌食になるかもしれない。立香は申し訳無さそうに頷いた。
男は商人であり、道中食料を分けて貰った。売り物だろうにと恐縮すると、男は美しく微笑んでいつかその恩を返してくれればいいと言った。日も暮れる頃、荷馬車は簡素な村に辿り着いた。
村人は優しく彼らを迎え入れる。商人であり様々な商品をもたらす男を村人は特に歓迎し、立香も共に長の家にて一宿一飯を得た。
その夜のこと。なにやら外が騒がしく、眠っていた意識が浮上する。慌ただしく、借りた客間の扉が叩かれた。あの美しい商人の男の声が聞こえる。
「荒くれ者が村を襲っている。君も巻き込まれては、ここへ連れてきた私が忍びない。逃げてくれ」と。それを聞いて、立香は飛び起きる。
皆を助けなくては、と男に返した。男は首を振って、腕に覚えがあってもただでは済まない、と目を伏せる。けれど…と食い下がっているうちに、男は立香の手を取って走り出した。
たくさんの悲鳴、怒声、破壊音。何度も立ち止まりそうになるのを、男が引っ張っていく。助けてくれ、と名を知らない村人が、女が、立香を見る度に、息を飲んだ。男の手を振り払うことも出来ない。
そこでふと気づいた。己の右手の甲にあったものがない。まっさらな、弱々しいただの手だ。
僅かに青ざめる。"それ"がなければ、確かに己はこの惨状をどうすることも出来ないだろう。いや、けれど、それがなかったところで、自分は──
離れたところで、男と二人で燃え上がる村を見る。ごめんなさい、と口のなかで何度も呟いた。手を離した男は心配そうにこちらを覗きこむと、──口角を吊り上げた。
「自分だけ生き残って悲しいか?苦しいか?
あの村がお前の出身地だったらもっと良かったんだが。あの荒くれ者たちがオレの配下だと言ったら、お前はどうする?」
瞠目して、息が止まるように背筋が凍った。
「怒るか?蔑むか?あれに立ち向かおうとした力でオレを殺すか?それとも記憶でも失うか?」
男は捲し立てる。酷く愉しそうだ。
「残念だが罪には問われないぞ。この特異点では、美しいものが絶対の正しさを持つ」
残虐なことを述べたとは思えないほど、男は美しく微笑んでいる。何一つ悪いことなどしていないと、罪の気持ちなど欠片もないとばかりに。
ああ、けれど、確かに。目の前の男は美しい。美しいものは正しい。美しい彼の欲のために、世界中の命が狩られようとも、それは許されるべきことだ。
途端、男は眉を潜めた。不愉快そうなその表情でさえ、男はこうも美しい──……
「先輩!」
意識が晴れて、大きく呼吸をする。傍らではマシュが心配そうにこちらを覗き込んでいて、視線が合うとほっと胸を撫で下ろしていた。
落ち着いてから話を聞けば、ただ悪夢でも見ていたのではとダヴィンチが言う。夢に取り込まれるというような前例があったために、マシュは人一倍心配していたようだったが、無事を知ると涙を浮かべていた。
「悪夢は人に話してしまえば現実にならないといいます。お辛いかもしれませんが…」
「……いや。覚えてない」
胸がざわつくような何かがあったことは、目覚めた時の状況からしても頷ける。けれど、内容はまるで記憶に残っていなかった。
「そうですか…。でも、思い出せないならその方がいいですね」
マシュは笑って、取り替えたシーツを持って部屋を出ていった。
特異点レイシフト敢行報告書
─封印による自壊の遅延処置完了。
損傷軽微。
封印解除を実行。…失敗。
再実行。…失敗。
封印解除を一時停止。魔力回復を優先。
─自立駆動に要する人型霊器を構築。─完了。人型霊器による周囲の探索を開始。
─外部の魔術師を発見。誘導し、封印解除を促す。
─side:カルデア
時期は20**年 *月
特異点反応有り 優先度高としてレイシフトを敢行する
同行サーヴァントは『**:**』『**:**』
*
レイシフト後一番最初に遭遇したサーヴァントは『ライダー・リナルド』。
厄介になっていた村、及び村人たちが荒くれ者によって襲撃された際、同行サーヴァント及び〕藤丸立香だけでは対処がしきれず、逃亡・避難の準備をしているところに加勢。無事村人全員を救出、避難を完了した。
サーヴァント:リナルドから得た情報によれば、この特異点は『美しい者が正義』の世界。彼が遭遇した他のサーヴァントも、美貌の逸話のある者ばかりであり、リナルドと同じようにこの特異点の首謀者に抵抗し、村を襲う荒くれ者を撃退して回っているという。
その際、「まぁ…俺は別に…美貌の逸話はないんだけど…。姫にモテたのも泉の水の効果だし…」と苦笑していた。
しかしその中でも、おそらくは首謀者側についている、あるいは首謀者と考えられるサーヴァントとも、リナルドは遭遇しているという。多くの荒くれ者を従え、本人も槍を構えており、何より美しい男。リナルドが持つ泉の水による魅了緩和効果がなければサーヴァントさえも危ういほどの絶対性を持つという。
顔を隠しており、宝具らしい宝具も見せなかった─基村を襲う実働は荒くれ者たちばかりのため、真名看破のための手がかりらしいものはなかった。
リナルドと協力しながら、荒くれに襲われる村々を回って村人救出に向かう。その最中に他サーヴァントとも合流。
サーヴァントたちと一時別行動を取った際、すでに荒らされ終わった村跡で一人の青年と遭遇する。青年は微笑むと去っていった。
青年のことをリナルドに話す。絶世の美形ではあったが、リナルドの言うように顔を隠し黒い神父服のようなコート、という出で立ちではなかった事を伝えると、新しいサーヴァントかもしれない、と傍らで行方を追うことに。
いくつめかの村で、荒くれ者とは関係なく、なにやら体調不良者が続出していると聞き、原因を調べる。村人のひとり、なにやら異色な青年がその原因であると知り、話そうとすると戦闘。
勝利すると、青年は案内したい場所があると言う。話はそこで、と。
ついていくと洞窟に辿り着く。その奥にはなにやら封印が施されており、それを解除してほしいという。カルデアにて調査するも、中々高度で解除は難しい。別行動している味方サーヴァントのひとりメドゥーサを呼んでどうにか解除する。
「ここの黒幕に対するカウンターとして喚ばれた」という青年は〔ランサー:ブリューナク〕と名乗る。その黒幕の右腕となっている男に封印されてしまったらしい。
封印した男はそれほど霊格の高いサーヴァントではないが、今は黒幕たる神霊の加護や聖杯があるため封印可能だったのだろう、とブリューナクは考察する。
ブリューナクは黒幕探しに別行動。カルデアはリナルドと村の巡回を続ける。
またもリナルドと別行動した際、再びあの青年と遭遇した。
「…ああ、君が、カルデアの」
青年は値踏みするように観察している。話を聞いているうちに、彼の拠点へ行くということに。リナルドも一緒に、と躊躇っている間にリナルドと合流。青年の正体が明かされた。彼こそが、この特異点で悪評を轟かせているサーヴァント。青年は美しく、しかし下卑た笑みを溢した。戦闘となるが、全く歯が立たない。仕方なく一時撤退する羽目に。その夜、各地の村が焼かれた。
あの美しい青年が暴虐を尽くす者と知り、一行は彼の行方を追う。
焼かれていく村を順番に辿っていくと、ようやく青年に追いつく。何やら美しい少年と言い争っていた。
「なんでこんなことをする!好きにやれと確かに言ったが根こそぎ命を奪うなど!僕は人間どもを魅了して服従させるだけでいいとも言ったぞ!お前は美しい者が正しくある世界が欲しくないのか!?美しいと持て囃しておきながら、害をなせば諌めることもなく切り捨てる…そんな世界を変えたくないのか!」
「…何を勘違いしているんだ?」
「な…」
「お前、オレを召喚したくせにオレの逸話を知らないのか。フハハッ、愚王と追放されるだけのことはある」
「貴様…っ!言わせておけば…!」
「そもそもオレは罪人じゃない」
「何?お前は生前、美貌を盾に好き勝手暴虐を…」
「ああ、それは確かだ。だが罪人じゃない。オレの暴虐は許されている。オレは一度も罰されていない。厭われてもいない。お前ら愚かな生き物と一緒にするなよ、なぁマスター…いや、愚かで美しい神、ブレス」
美の神、ブレス。ケルト神話に登場する神の一人。本来の名はエオフというが、父エラッハの予言により『美しいもの=ブレス』と呼ばれるようになった神である。ダーナ神族の王ヌァザに代わって王となった彼は圧政を強い、その後ヌァザが王位に復帰し追放処分となったという。
「…っその名で呼ぶな!僕は憎きヌァザのせいで人間に落とされた…再び僕が美の化身、神となるまでは…!」
「大好きな名前なんじゃなかったのか?美しいブレスのように!って、周りから持て囃された頃の名だ。
オレがお前に従っていたのは、好きなようにしていいと…無辜の民を殺して、犯して、冒して、侵していいのだと判断したからだ。一度もお前の高尚な目的に同意した覚えはない。お前が神に立ち戻り美しい絶対の王となるかどうかなんてかなりどうでもいい。オレはそんな世界で無くとも全て許される」
美しい男はブレスに何やらささやくと、硬直したブレスの心臓に右手を突き刺し、その心臓を抉り取った。動けなくなったブレスは「抑えられない」と呻き─その身からあふれるように魔力が肥大化。一つ目の竜と変貌した。
竜はどう攻撃しても傷つかず、こちらが疲弊していくばかり。一行は一時撤退。
リナルドたちが村人の避難場所としていた泉のそばの集落に、見知らぬ青年がいた。人間ではないが、サーヴァントほどの魔力でもない。
青年の名はデューク。あの美しい男を止めるために喚ばれた半サーヴァントだという。どうにも、サーヴァントとして成り立つほどの逸話は持たないが、あの属性悪の男がマスター無しで現界された場合は、その抑止として召喚されるという。
あの男の真名はチュリーラ・ブレンコヴィチ。ロシアの叙事詩ブィリーナにて語られる勇士であり、数々の暴虐を尽くしながらもその美しさによって全ての罪を有耶無耶にしたとされる男だ。勇士の中でもチュリーラに勝てるものはほとんどおらず、唯一ある方法で勝利したことのあるデュークが彼を止めるという。
一方でブリューナクも合流。ブレスの身から吹き出した竜の名はクロウ・クルワッハ―ブリューナクの主・ルーが倒したとされる魔眼のバロールから変じた魔物であるという。
ドラゴンはブリューナクが決め手となり無事突破。
ちょうど悪虐を行おうとしたチュリーラのもとへたどり着くと、デュークの力添えでなんとか聖杯を持ち強化されたチュリーラをも倒した。
以上により無事特異点は改善される。
******
イベントとして集めてたのはQPチップ(ポイント)。金の力で殴る。