5
エドワードと共に行動していたリンが”人柱”ではないという理由でグラトニーに捕食されそうになっていたところを、謎の男はかつてエドワードたちと遭遇したホムンクルス『グリード』を注入した。「人間という資源は無駄にするべきではない」という人を馬鹿にしたつぶやきはあったものの、ホムンクルスとなったことでグラトニーらから狙われる理由はなくなったということだ。
しかしグリードを―賢者の石を注入するということは、身体に馴染むまで肉体の破壊と再生を繰り返すとてつもない痛みを伴い、試しても大半は耐えられず死んでしまうという。エドワードとアルフォンスの二人はエンヴィーの巨躯に押さえつけられながら、それを眺めていることしかできなかった。
目の前ではリンが、いつもとは違う笑みで立ち上がった。―どうやら賢者の石に馴染んでしまったらしい。本人が望んだこととは言え、みすみす知人がヒトならざるものになるのが歯がゆかった。
「グリードうまれたーおめでとーよろしくー!おでグラトニー!あっちエンヴィー!」
「暴食に嫉妬…なるほどね。よろしくな、魂を分けた兄弟さんよ。それと親父殿、生んでくれて感謝する」
リンーグリードは、親父殿と呼んだ例の謎の男の前で片膝をついて一礼した。男は「うむ」と感情の感じられない返事をこぼす。
「残りの兄弟は追々ーいや、そうか、兄弟…もう一人いたな。ちょうどいい、目も覚めたようだし紹介しておこう」
男はつぶやき宙へ視線を投げる。次は何が起こるのかと警戒を露わにするエドワード達の前に、しばらくの時間を置いて―一人の少女が、奥から姿を現した。その人物を見て、エドワードもアルフォンスも目をひん剥いて息をのんだ。他の誰よりもここにいるはずのなかった人物だからだ。
白い髪に白い肌。左肩にはゆるい三つ編みがかかり、薄汚れたボロ布のようなものを纏っている。表情は死んだように取り去られており、濁った瞳で虚空を見上げていた。
「―…なんで」
「なんでお前がここにいる、!」
二人を抑えていたエンヴィーは彼女がここにいる事情を知っているのか、「ああ」と愉しそうな声をあげる。「俺がさらってきたんだよ」リゼンブールのオートメイル屋から。その言葉を聞いてエドワードの背筋に悪寒が走る。自分たちの故郷であるリゼンブールの、彼女―のいるオートメイル屋なんて一つしかない。ウィンリィは今セントラルに来ていたからいいものの―ピナコは。街の人達は。確かめたいことはたくさんあった。だがその前に―…。
「は、一体…?」
「元々その女は賢者の石で生かされていた人間さ。どういうワケで賢者の石を入れられて精神を保ってたのか知らないが、お父様に賢者の石を増量されて―まぁ、今はただの、歩く賢者の石だな」
「一応は私の『憂鬱』として生み出したが…さしたる強い感情でもなし、『人造人間メランコリア』としての自我は目覚めなかったようだな」
溢れ出る知られざる情報に息を飲む。しかしエドワードにとっては思い当たる点があったのか憎々しげにを見つめていた。一方その傍らで、アルフォンスが少しでも彼女に近づこうとエンヴィーの足元でもがいていた。
「!―くそっ!離せエンヴィー!」
「無駄無駄、とっくにそんな魂死んでるよ」
「うるさい!勝手にに賢者の石を…っ」
「ああ、自分たちの身体を取り戻すためにあれを使う?まぁ二人分くらいならお父様も怒らないでしょ」
鼻で笑うように受け答えするエンヴィーに歯痒い思いをしながらも、アルフォンスはひたすらにへ呼びかける。グリードの近くで佇んでいる顔そのは、俯いているせいかよく見えた。
「!っ―――…」
「…アル?」
「…くそっ!」
何かに気付いたのか、アルフォンスは両拳で地面を殴りつけた。
§
その後アルフォンスを見かけて追って来たというスカー、シン国の王女の一人だというメイ・チャンがやってきたことで危機的状況をなんとか打開することが出来た。お父様が何をしたのかエドワードとアルフォンスは錬金術が使えなくなってしまったものの、スカーとメイは術を行使することが出来たためだ。しかし敵の力の程も知らないままでは不利に代わりはない。
エドワードとアルフォンスは人柱―お父様たちにとって必要な人材であることから生命を奪われる心配はない。メイをかばいつつスカーを逃がすために通路まで走ると次々に異形の合成獣たちが襲いかかって来た。どうにかそれらを蹴散らしていると、スカーはふとアルフォンスに問いかけた。
「あの白髪の娘…知り合いか?他に比べれば天地の差だが、あれにも大量の魂の気配があった」
「……あのお父様に、無理やり賢者の石を注入されたんだ」
賢者の石の注入は肉体の破壊と再生を繰り返す。適性があったのか肉体はそれに耐えたが、自身―その精神は耐えられず、壊れてしまったとエンヴィーは語っていた。その話をすれば、スカーは合成獣を破壊しながらも沈黙した。
「は…父さんが拾ってきた子なんだ。瀕死のところを見つけたらしくって。だから僕達の義理のお姉さんみたいな存在かな」
「………そうか」
「僕達の…ううん。僕の、とても大切なひと」
端から見れば鎧の言葉など、さしたる変化はわからないだろう。それでもアルフォンスの声は確かに沈んでいた。わすかな機微にスカーは目を細める。
追いついたエンヴィーやグラトニーをかわしどうにかスカーを逃しメイをアルフォンスの鎧の中に匿ったあと、無事二人は外へ出してもらえることになった。
地下は案の定セントラルの軍中央司令部とつながっており、エレベーターで地上へ上がった後軍人へ変身したエンヴィーの案内でシャワーを借りた二人はそのまま大総統の執務室へと連れて行かれた。そこにはマスタング大佐もおり、多少の大総統の身の上話をされながら―要はお父様のやることの邪魔をするなという釘を刺されることとなる。エドワードがそんなことなら国家錬金術師をやめると口にすれば、今はラッシュバレーにいるウィンリィの名を出されてしまう。奥歯を噛み締めながら、エドワードは放り投げた国家錬金術師の証である銀時計をポケットに仕舞い直した。
「…は…」
「ん?」
「ウィンリィを人質にするなら、どうしては人質にされなかったんですか?確かに兄さんはを表では毛嫌いしてるけど、だって僕達兄弟にとって大事な人です。どうして…」
疑問に思っていたことを問うと、大総統は視界を巡らせたあと首を振った。
「そこら辺の思惑は私の知ったことではないよ。私はただお父様の指示通りに軍を動かすだけだ。だがまぁ、私が思うに―人質は複数いらん、管理が面倒だからな。それにその娘は新たな私の妹人造人間になったと言うじゃないか、お父様にとって有用な人間が複数いるなら、それぞれの使い方をするだろうよ」
鋭い眼光は収めぬまま淡々と語られる言葉にアルフォンスは膝の上で拳を握る。あの後も結局騒動の中は何処かへ行ってしまい、こちらへ連れてくることはできなかった。
歯がゆい思いは消えぬまま。もう一つ重要な―自分たちの身体を取り戻す旅自体は続けていいかという許可をもらってから、三人は中央司令部を出た。
6
司令部でマスタング大佐に小銭を借りた後、二人は大慌てで公衆電話ボックスに駆け込んだ。覚えているラッシュバレーのウィンリィの修行先の番号へかけ、ウィンリィの安否を確認したのだ。…の件は伝えなかった。アルフォンスはともかく、エドワードは間に一度リゼンブールでにひどい言葉をかけてそのままだったために彼女の名を出すことが出来ずに、そのまま通話を切った。
「そういう必死さが付け込まれるスキになるんだよなぁ!」
「ッッッ――――!!!」
ひとまずの安全を知って胸を撫で下ろしていたところに突如として聞こえた声はグリードのもので、敵側である彼の出現に二人は声にならない悲鳴を上げる。人質を取られたくらいで動揺し背後の確認もしないままその人質に電話をかけたことに、グリードは「こんな付け入り易いタイプはないわな」と薄ら笑った。
「何の用だ!」
「ん。リンっつったっけ?おめーのダチに頼まれてよ…こいつを待ってる女に渡してやってくれとよ」
「…どこにいるのか知らねぇよ!」
「渡してくれって。あと―俺からのお近づきの印だ。あそこのホテルのロビーにいるから、早めに迎えに行ってやれとよ。まったく注文の多い野郎だな、このリンって奴は」
遠くに見えるホテルを指してからやれやれとばかりに肩をすくめ、手を振って踵を返していった。顔を見合わせて何事かと逡巡するが、『迎えに』という言葉にハッとして、二人は走り出した。
§
覚えのあるホテルにたどり着きキョロキョロと目的の人物を探す。「あ!」というアルフォンスの声に振り向けば、すでにアルフォンスはソファーの並んでいる一方に駆けていた。地下で見たときと変わらず虚ろな目で正面を見据え、ピクリとも動かないままソファに座っている女性―だ。肩を掴んで顔を覗き込み、何度も呼びかけるがそれらしい反応はない。
促せば行動はできるようなので、とにかく状態を診てもらうため―そしてずっと鎧の中に匿ったままだったメイを診てもらうために、司令部で小銭を借りる時に一緒に聞いていたノックス医師の住所へむかって移動した。
「瞳孔の変動は有り…少ないが瞬きもあるな。脈拍類に異常もない。目に見える怪我もない…こりゃお手上げだな、医者にはどうにも出来ん」
適切な処置をしてもらうも、の表情は変わらなかった。ノックスは首を振った後取り急ぎ目に見える怪我をしているメイや、元々お世話になっていたランファンの診療に戻ってしまい、リビングに三人が取り残された。
エドワードは過去の暴言が気まずいせいか遠巻きに見ているだけで、アルフォンスは顔を覗き込んだり眼前で手を振ったりと色々試すも効果は現れずため息を付いた。
「……に関しては、ずっと気になってたところなんだ」
「兄さん?」
「は俺達の家に来て目を覚ましたあとからは、一度も病気や怪我をしたことがなかった。…一度屋根修理してて上から落っこちたことあるだろ。痛がって泣いてたわりには、どこも怪我をしていなかった…俺たちみたいに鍛えていたわけでもないのに怪我をしていないというのはおかしい。あの時は何も思わなかったけど」
言われて幼いころの記憶を呼び起こす。目覚めてからは自分たちの姉のように仲良くして過ごしていたは、本来男がやるべきだろう仕事も率先してやろうとする性格で、ホーエンハイムが外出中に雨漏りを直そうとして屋根に登り、足を滑らせて転落したことがあった。姉のようだと言ってもまだ子供で大泣きしていたのだが、服が少し破れたり汚れていただけでどこにも傷はなかったのだ。怪我がないならよかった、とその場はそれだけですましたのだが―。
もし当時から彼女が賢者の石を保有する人造人間であったのなら、それも不思議ではなくなる。だが人間ベースの人造人間となると、目の前でリンが”そう”されたように多大な痛みが伴うもの。大きな野望やら覚悟やらがあったリンでさえ、悶絶し絶叫していたほどなのだ。
「……そんなの、が耐えられるとは思えないよ…」
「でも現実、はそうしてここにいるわけだろ」
「エンヴィーは、の魂は死んでるって言った。元から賢者の石が入ったいたせいで、あのお父様に賢者の石をいれられても肉体は耐えたけど、その痛みに…」
「痛みに耐えかねて、自衛のために心を閉ざした、ってところか」
いつかのの言葉を思い出す。失った記憶を断片的に思い出しそうになった時、『痛い、怖い』と言っていた。彼女はきっと兄弟たちのように、痛みに耐性がない。
―戦いというものを知らない、か弱い存在だ。
「……兄さん、は僕が見てるから、兄さんはもう休みなよ。グラトニーに飲み込まれて、大総統と面談して疲れてるでしょ」
「アル、……わかった。頼んだぞ」
口をつぐんだまま、俯いたまま宙を見ているを見て、エドワードは悔しげな息を漏らしリビングを出ていった。ノックス医師に適当な部屋を借りて眠りにつくだろう。
「、」
鎧の手で恐る恐る、彼女の頭を撫でた。確かに生きている。問題なく呼吸しているし、目の前に差し出せば水も飲む。けれどやはり、ピクリとも表情は動かない。膝の上で拳を握り、助けられなかった自分の不甲斐なさを悔いた。
―それでも、あの地下で初めて彼女を見た時、必死に名前を呼んでいた時。間違いなくの唇が動いたのを見た。『あ』と『う』の動きをしていたあれは、きっと自分を呼んでくれていたのだと。
「…。、もう大丈夫だよ、もう痛くないよ。だから…」
身体があったら、もしかしたらみっともなく泣き縋っていたかもしれない。そんなことを思いながら小さな声で彼女の名を呼び続ける。少しでも自分の声が、彼女に届いていることを信じて。
§
自分に注がれる紅い液体が、じくじくと体を蝕んでいく。たくさんの恐怖が、いくつもの憎悪が、私を囲んで取り込もうとしている。怖い、痛い、そんな感情のようなものが私を突き刺していく。皮膚は何度も焼け爛れては再生を繰り返す。いつかの自分自身の恐怖が蘇る。ああ、もう、私は―…。
「こちらへ」
「……?」
「私は君を閉じ込めてかばうことしか出来ない。君を戦わせてあげることは出来ない」
急に痛みがなくなったと思えば、見知らぬ老爺が目の前にいた。頬を伝った涙を拭って老爺を見上げれば、少し悲哀の見える、優しい顔でこちらを見ていた。
「あなたは…?」
「私はイスカリオット。…君が暴漢に襲われ瀕死になっていた時に、ホーエンハイムが君に与えた賢者の石だ」
賢者の石、というものがどういうものかは、名前しか知らない。エドとアルが自分の体を取り戻すために探し求めている、万能の物質だという―しかし、この老爺がその賢者の石だというのはどういう意味だろうか。首を傾げていれば、イスカリオットさんは小さく苦笑した。
「ここにいればしばらく大丈夫だろう。もう少し経って肉体が賢者の石に馴染めば、目覚めても構わない」
「…めざめ、る…」
目覚める、意識を取り戻すということは―あの恐ろしい人たちにまた会わなくては行けないということだ。それはいやだ。もうこれ以上、痛い思いはしたくない。もう二度と、あんな怖い目にはあいたくない。近くにはエドもアルもいない、ホーエンハイムさんもウィンリィもいない。ピナコさんだって無事でいるかわからない。
…恐ろしい現実を目の当たりにする勇気はない。
「…私、は…」
「………少し眠るといい。石が馴染むまでにもそれなりに時間がある」
そう言われるとどこか眠たくなってくる。…もう怖いことを思い出すのは嫌だ。もう痛い目に合うのは嫌だ。そう思いながら、瞼を下ろした。
7
日が変わってもは元の意識を取り戻さなかった。人を構成する肉体と精神、そして魂のうち、一番重要な魂が本当に死んでしまったというのなら、二度と元に戻ることはないのだろうか。夜中そばに居続けて、声をかけ続けた。初めて彼女がやってきた時も同じように四六時中様子を見ていた覚えがある。あの時は何をきっかけに目覚めただろうか。
「……。前に記憶を思い出しそうになるって言ってた時、痛くて怖いって言ってたよね。きっとすごく痛くて怖いことがあって、だからは痛いのが嫌いなんだよね」
「僕、ずっとはたくましくて強い人だと思ってたんだ。いつもにこにこしてて、母さんが死んだときも僕達を慰めてくれて。でも、本当はそんなことないんだよね。僕達よりずっと細い腕で、小さい手で、必死に僕達を守ろうとしてくれたんだ」
「今度は僕達が…僕がを守るよ。もう二度と怖い思いはさせないから…だから戻ってきて、」
返事はない。鎧が小さく擦れ合う音が静かなリビングに落ちるだけだった。
「…」
そっと、尖った鎧が彼女を傷つけないように。肉体がないために、彼女を抱きしめても温めることは敵わないけれど。それでもどうか、この思いが届きますように。
「……痛いよ、アル…」
「…、……!?」
「うん。…おはよ、アル」
肩を掴んで顔を近づけ、少し疲れた様子で笑うに本当に異常がないかを確認する。「メランコリアだったりしないよね!?」と最悪の可能性を聞けば、は首を傾げた。そんな様子からして間違いはないだろうが、もしもの事を考えてエドワードやアルフォンスたちしか知らないことを問う。
「じゃあ、えっと…の名前は?」
「…」
「……よかった」
喜びを表現するために力の限り抱きしめてしまいそうになるのを必死にこらえて、アルフォンスはない胸をなでおろした。他に言葉も思いつかずただよかったよかったとこぼす。そんな彼を見て、はくすりと笑った。
「ありがとう、アル。ずっとアルが呼びかけてくれたから、私あそこから出る勇気がでたの」
「あそこ…?」
「私を最初に助けてくれていた…賢者の石。イスカリオットっていう人が、私を護ってくれていたの」
あの魂の世界のような場所で起こったことを話せば、アルフォンスは「そっか」と彼女の無事を喜んだ。
「本当に良かった…エンヴィーがの魂なんて死んじゃったっていうから…本当に…」
「……アルは優しいね。ウィンリィみたいに何の役にも立てない私を、そんなに心配して」
「そんな言い方しないでよ。はずっと、僕の大切な人なんだ。僕の好きな人のことを、そんなふうに卑下しないで」
さらりと口から出た言葉に、アルフォンスは沈黙する。―今自分は、何かとんでもないことを言ったのではないか。も言葉の意味を理解できていないのか、目を丸くして呆然としている。
しかしすぐに状況を飲み込んで烈火のごとく顔を赤く染め上げた。「あ、えっと」と視線を彷徨わせた後、顔を手で覆いながらうつむく。
「……ううん。うん、私はアルの義姉さんだもん。そういう…ことだよね」
「……………もう、今はそれでいいよ。体を取り戻したら、ちゃんと言うから」
「………ありがとう、アル」
羞恥が過ぎて目尻に涙を溜めながら、微笑んだ。
7
体を取り戻すまでにいろんなものを失った。けれどその分いろんなことを知って、多くのものを得た。今までの旅は、求めた賢者の石は国家の安寧を揺るがす大変なものに繋がったけれど、自分も兄も決して後悔はしていない。
数年に渡って何の運動もしていなかった元の身体は少し歩くだけで疲れてしまったけれど、大総統が戦いの末亡くなったことで国主やら軍備やらでてんてこ舞いのセントラルである程度のリハビリを行った後、兄弟二人は幼馴染の待つリゼンブールへと帰郷した。
「そうだ、」
「……?」
「身体を取り戻したらちゃんというって言ったよね」
エドワードは屋根の修理に向かっている。昼食の準備をしている時、ふと思い出したように切り出した。手を拭き首を傾げるに、咳払いをしてからその手を取った。
「…実は僕も、結構前からのことは兄弟だとは思ってないんだ」
「え、」
「だから、その。…僕の、恋人に…なってほしいん、だけど」
水仕事をしていたせいで少し冷たい手に、緊張するアルフォンスの手の熱が伝わっていく。呆然としているの顔を見るのは何度めだろうかなどと考えながら、どくどくと早く鳴る鼓動に落ち着けと念じた。
「…………え、だめ?」
「……でもわたし、だって…賢者の石…」
「もう少し体力がついたら、合成獣を元に戻す方法を探しにシンへ行くんだ。その知識は、きっとの体に関しても役に立つ事があると思う。が若い姿を保ちたいっていうなら、まぁ…止めないけど…」
唇を噛み締めて、泣きそうになるのをこらえながら俯いた。「だって」「けど、」と言葉を紡ごうとするが結局は何も言えないでいた。
「私も…アルと一緒に歳をとりたい」
「…うん。うん。大好きだ、。ずっと、これからも一緒に」
手を解いて、そのかわりに彼女の小さい体を強く強く抱きしめる。鎧の鉄で傷つけることはない。彼女を温めることもできる。
「うん。ありがとうアル。ありがとう、私も…」
大好き、と彼の胸に囁いた。