一陽来復・泥船渡河
一つの指示書を見て目を細める。ファデュイの精鋭部隊の新人に対する戦闘指南の指示がそこには記載されており、は考えるよりも先に、上司である公子に『渡さない』書類として振り分け、次の用紙へと視線を向けた。
「あれ?戦闘訓練の指示書なのに俺に渡さなくていいの?」
暇だからと彼女を膝に乗せての髪をみつあみにしていたタルタリヤは、他の書類ならば口も出さなかっただろうに目ざとく紙を取り上げた。眉根を寄せて面倒そうにしながら、はそれを取り返す。
「今回は術師の方ですので。蛍を操って攻撃させる、というような戦い方は、わからないことはないでしょうがあまり公子の得意分野でもないでしょう?私は経験もありますから」
「……は精鋭出身だったの?」
初めて知った、とばかりに目を丸めた。
「…貴方がどこまで私の経歴を把握しているかは知りませんが。計算だけする事務員でもない限り─いえ全員がそうではないでしょうが、ファデュイに入ってまず所属するのは先遣隊ですよ」
「へぇ、そうなんだ」
「先遣隊では邪眼をもらえますから、良くも悪くも多くはそこ止まり。私は元々神の目を持っていたので、淑女様の元に転属することが最初から決まっていた、ただの下積みでしたけど」
そもそも先遣隊は、全てではないにしろ、本人の意思とは関係なく徴兵された者たちだ。神の目を持たないただの人間に、模した邪眼を持たせ兵士とする。彼らに役職以外の名はないし、過去は抹消され、邪眼の代償として未来も訪れない。ファデュイ執行官というのは、有望な人材が引き抜かれてなるものだ。…少なくとも、知られている公子の成り行きを見る限りでは。
「じゃあ俺がを─…いや、それは駄目か」
「はぁ?」
「俺が塩を贈っても面白くない」
独り言のように頷くタルタリヤに首を傾げ、は机へと向き直す。残り数枚の書類を確認し時折ペンを走らせつつ三つの山に振り分けたあと、立ち上がって二山を抱えた。
抱えた山の一つはエカテリーナたちからデットエージェント達へ渡り、一つはが処理するもの。一番数の多い山が残され、タルタリヤは素直に顔色を変えた。
「サインをするだけです、よろしくお願いしますね」
「そのサインが面倒なんじゃないか…」
「私はエカテリーナ達へこれを渡した後、件の戦闘訓練へ向かいますので。公子もサインが終わったら自由にしていいですよ。あ、でも片付けておいてくれると嬉しいですけど」
ドラゴンスパインへ向かうのだろう、普段は外しているケープを羽織り、は足早に執務室を去る。
面白くなさそうに見送った後、タルタリヤは息をついてペンを手に取った。
ドラゴンスパインでテントを作り駐屯している先遣隊の元へ行く、とは言っても、璃月港からすぐに着くは場所ではない。人目を忍ぶ目的も含め、が目的地へ着く頃には日も落ちてとっぷり暗くなっていた。温暖な気候の璃月とモンドの間にある不自然な雪山では、例え真昼の晴天でも吹雪のせいで薄暗くなるが。
そんな景色に吐息を漏らす。冬国生まれだからといって極寒に耐えうる肉体を持つわけではないし、寒さが好きなわけでもない。それでもついこないだ本国に戻ったばかりだというのに、はなんとなく、この肌を刺すような寒さに愛おしささえ覚えていた。
件の新人先遣隊員が数名、整列して並んでいる。本来ならばタルタリヤの言うように、執行官自ら新人の実力を測るのも仕事のうちではあるのだが、今回は少し事情が違った。
元素を纏う蛍を操る術師が配属されており、どうにも─いわゆるおちこぼれ、というやつのようで。蛍を従えられない、という致命的な新人だった。これが単純な技術不足であれば、むしろタルタリヤに丸投げして経験を積ませるだけなのだが、蛍術師の経験があるには、邪眼の欠陥品に当たってしまったか、ただ使い方を理解していないか、という問題である可能性が見えた。無論、本人の素質が合ってない可能性も十二分にあるが、前述の理由である場合、道具の使い方の話であればタルタリヤよりの方が適任だろう。
新人先遣隊員たちの動きを見て、分かるところは適宜アドバイスを伝える。そしてやはり問題の術師は、邪眼の種類が合っていなかったようで。氷蛍を扱うもののはずが、雷蛍を扱うものと間違っていたようだ。
「こちらをどうぞ。私が過去使っていた氷蛍を操るものです。担当部署には私からきちんと報告しておきますので、今までの評価もやり直してもらえるでしょう」
「あ、ありがとうございます、様!」
きちんと正しいものを手にしたところ、新人術師はすぐさま氷蛍を精密に操れていた。元々筆記面での成績が優秀な新人なので、実技で上手く行かず苦労したことだろう。
深く被ったフードの下で嬉しそうにしていた術師は、ふとの背後を見て硬直した。後退り、指を向け。
次の瞬間、真後ろから耳を裂くような雄叫びが響く。視線を流せば、臨戦態勢を取る巨躯のヒルチャール─霜鎧の王が、興奮した様子でたちを見下げていた。
「あっ、あっ…!」
「落ち着きなさい、」
あからさまに怯える術師には小さく息をついて、払うように脚を滑らせた。途端、霜鎧の王を取り囲むように地面から氷柱がせり出し動きを留める。
「…あの程度で怯えるようでは一人前とは言えませんね。持ち場に戻って蛍を扱う練習でもしていなさい」
「ですがっ、」
「私は足手まといを庇うほど、情に深くもありませんよ」
背中を押せば、術師は慌てて走り去った。
そうは言ったものの、戦闘における基礎─氷の神の目を扱うでは、相性が悪いどころの話ではない。僅かでも考えを巡らせて、駐屯地にいる炎銃を持った先遣隊員でも連れて戻ってくれればよいのだが─は首を振り、気を引き締めて霜鎧の王を見上げた。どんな状況であろうと、他者に甘えるわけにはいかない。
氷柱の牢を破壊する大振りな拳を軽々避けマーキングをつける。幸いなことに仲間をひきつれてはおらず、霜鎧の王は攻撃が判りやすい。問題は、名にもある霜の鎧と、ドラゴンスパインという雪山の寒さだ。吐息はすでに暖かさを見せておらず、手指も感覚が薄い。心なしか吹き荒ぶ風は勢いを増していた。
の主な攻撃は、せめて霜鎧を剥がさない限りほぼ無意味だ。霜鎧の王自身の肉体の熱があるからか、時間経過で鎧も剥がれて行くが、時間をかけていればまたすぐに鎧を纏ってしまう。であれば、おおよその霜鎧が解けたところで破壊し、一気に削り切るしかない。
の、だが。があの霜鎧を破壊するには、神の目の力ではおおよそ不可能だ。先ほど新人術師から受け取った邪眼をどう扱うか、霜鎧の王を見据えながら思案した。
今手元にある邪眼は、一言で言えば不良品だ。いくらスネージナヤといえど、それなりの量を生産していればいくつかの粗悪品は生まれてしまう。だから新人術師が氷を操ろうとしても出来なかったのだ。
逆に言えば、これは雷を操れる邪眼である。氷元素であれば万事休すだったが、この邪眼が、攻勢に出られる唯一の手である。
しかしそれは、霜鎧の王を倒すところまでしか結果の分からない手段だ。邪眼の使用は人体に負荷をもたらすし、何より氷元素を操る顔をしながら中の構造が違う粗悪品。通常よりも反動が強い可能性がある上、ここは強風吹き荒ぶ極寒の雪山。霜鎧を倒したところで、邪眼の反動により意識を失わずとも身動き出来なくなれば─寒さによって死ぬ。そんな無様はまっぴらごめんだ。けれど霜鎧の王によって擦り潰されるのはもっと願い下げ。
運良く大した反動が来ないことを祈り、は逃げ回っていた脚を止め、霜鎧の王へと向き直した。
霜鎧が綻びはじめたことを確認し、マーキングを頼りに座標を合わせる。雷元素を扱ったことはないためどこかで見たような使い方にはなるが、誰が見ているわけでもないのでいいだろう。霜鎧の王が大きく跳躍し、地響きと共に地面へ両拳を叩きつけたところへ
、は邪眼を開放し鋭い落雷を発生させた。
「──ッ!」
つんざくような咆哮。それよりも、の視界が揺れた。血の気が下がり、薄気味悪い感覚が体内で回る。ふらつく脚をなんとか踏み留まるものの─の視界の明滅が収まり顔を上げた時には、霜鎧の王はいつの間にやら、万全な外殻を纏っていた。
こちらを見下げる魔物の王に息も忘れ、ああ死んだな、と。漠然と心に浮かんだ。
目を瞑って痛みに備えることも出来ないでいると、何処かから風を切り裂く音が聞こえた気がした。霜鎧の王の身体には見覚えのある印が浮かび、同時に凍てつき硬直する。次いで取り囲むように紫電の輪が霜鎧の王を捉え、先ほどが邪眼で再現したものとは比べ物にならないほどの稲妻が、巨躯の脳天を穿いた。
凍結が砕け、傾き倒れゆく。トドメとばかりに凝縮された一筋の激流を受けた霜鎧の王は、背を雪原に預けるより先に水しぶきと共に塵となって消えた。
「この程度の魔物も一蹴出来ないなんて、俺を殺すなんて夢のまた夢だね」
「…、ぁ…──」
聞き慣れた声はとても愉しそうに近付いて来る。振り向いて、その人の顔を確認しようとして─は意識を失った。
むずむずとした体内の疼きに意識を浮上させる。手足は酷く冷えているが、身体はそれなりにに温かい。どうにかまぶたを持ち上げれば、見慣れた装飾の天井が視界に広がった。
「ああ、ようやく目が覚めた?大変だったね、ホットミルク飲む?」
「…、こ……」
「まだ副作用と低体温が収まっていないね」
思ったよりも唇は動かず、まともに声を発することもできなかったが、タルタリヤも冬国出身の者であるため凍えた場合の対処の仕方はよく知っている。自身は一枚脱いでから部屋の暖房を強め、が横たわるベッドに腰掛けるとカップのミルクを口に含んだ。首の下に手を入れ少し持ち上げて、深くキスをするように温かいミルクを流し込む。ゆっくりと、けれど着実に繰り返しやがてコップが空になると、礼を強請るように舌を絡め始めた。
「やっと唇に体温が戻ってきたね」
「…あつい」
「あつい?手はかなり冷たいけど…」
まだ冷えているのに暑がるのなら重症である。手を握り、血流を促進させるように緩く揉む。枕に頭を下ろしたをよく観察した。
が執務室を出たあと、最初は面倒くさがりながらのんびり書類を片付けていたタルタリヤは、自身がきちんと理由を語っていたとはいえ何故『戦闘訓練』という仕事を自ら請け負ったのか気になっていた。手を動かしながらも考えた末、何やら嫌な予感がして、慌ててドラゴンスパインへ赴いたのだ。
そこでは氷元素に大きな耐性を持つ霜鎧の王と対峙するがいて、どういうわけか紫電を操ったと思えば足元も覚束なくなって。近接武器であれば到底間に合わなかっただろうが、苦手を無くすためと携えた弓でどうにか事なきを得た。
しかしは不良品である邪眼を無理に使用した上、極寒により体温が下がりきっていた。体力を回復する術を持っていたために紙一重で事切れずに済んだが─炎銃を持った先遣隊員が戻ってこなければ、近くの篝火が霜鎧の王に破壊された場でタルタリヤも立ち往生するところであった。
どれほど凶悪な魔物でも、自身の操る元素が効かない相手であればタルタリヤでさえ多少苦戦することにはなるだろう。そんな場合のために多種の武器を扱えるよう、それすら無くともいいように鍛えているわけだが、は本来戦闘員ではない。余分に戦闘力を高める必要はないのだ。
「んん…っ」
「?」
「あつい…っ、なんか、へん…です」
うなされているのか、身を捩りながら小さく声を漏らす。呂律が回りきっていない言葉で症状を話すが、どうにも低体温によるそれではないらしい。…の表情が、どうにも。情事の最中に見せるものと同じのように感じて。
「……、………」
「んっ…はぁ…。なにか…波があって…、おなかが、ぞくぞく…する…」
「……少し、脱がせるね。寒かったりしたら教えて」
今は病人だと理性を持ち直して、布団を捲りの服をはだけさせていく。数秒おきになにか刺激が発生しているらしく、肌に布が擦れるだけでもぴくりと体を震わせていた。
「……───、」
の白い肌、ヘソより下の腹部に、何やら見覚えのあるものが浮かんでいた。それは─そう、タルタリヤが戦闘の際、敵にマーキングとしてつける印。ファデュイのマークとも似た、三つどもえの。
必死に思考を巡らせる。何故これがについているのか。…先の霜鎧の王との戦いで、意図せず着いたのだろう。味方と共闘することなど滅多にないし、今までにと共に戦った時は大抵後方支援を務めているのであの水しぶきが当たることなどなかった。
なるほど、当たれば移るのか。自分が意図してやっている機能が正しく動作しているだけの話ではあるが、それでも首を傾げる案件だ。
「はっ…ぅ…」
「…えーと…、どんな感じ?」
「わか、らな…っ!や、さわら、ないで…っ」
普段敵にダメージを与える印は、人差し指と親指で作った輪に収まる程度に小さなものになっていた。もしかして大きさに比例して発生するダメージというのも小さくなり、それこそくすぐりを受けているような感触になっているのかもしれない。意識を失っている間に溜まった感触が、開放されるでもなく体内に残り続けていて─それも、下腹部だ。
「…あー…?楽になりたい?」
「…は…ぁ…っくすり、でも…あるん、ですか」
「それはないけど。まぁ、原因はなんとなくわかったから」
病人である、などという考えは、目の前の美味そうな食事を見てしまえば風前の灯だ。何より愉しそうである。に媚薬でも盛ればさぞ愉しいだろうと考えたことは何度もあるが、それをするとまた嫌われていくだろうし、そろそろも壊れてしまうかもしれないと用法容量を吟味していたところだ。
まぁ、壊れたとしても本国に送り返して家族たちと仲良くしてもらうだけなのだが。
「原因…?なんですか」
「んー、口で説明するには面倒かな」
腰掛けていたベッドに乗りに跨った。普段ならば睨みつけて来るところをぼんやりとした目で動きを追っているあたり、やはり本調子ではないのだろう。跨ったまま見下ろしていれば、やがて不審そうに目を細める。
「……人が弱っている時くらい、優しくしてくれるものと期待していましたが。やっぱり最低ですね」
「優しいだろ?素肌で温めてあげる上に、不調を改善してやろうとしてるんだから」
「っん!」
先ほど何度か絡めた舌を味わいながら素肌を指でなぞれば、はわかりやすく紅潮した。波調ごとにびくびくと震え、僅かながら腰を浮かしている。
「っは…ぁ、な、なに…」
「ほら、ここ。辛いんじゃない?」
胸をあらわにさせれば、いつもタルタリヤが引っ張り出す乳首が存在を主張している。指で弾けばもはや泣きそうな顔で唇を噛み締め、信じられないとばかりに顔を背けた。
「…っ、……っ!っや…!なに、なにした、の!」
「俺も詳しくはわからない。でも、今とても気持ちいいだろ?」
「よくっ、な…!あ、ぁ…っ!」
「ほんの少し触っただけで足擦り合わせて、本当に気持ちよくないの?」
服の前を全て開きドロワーズも脱がせ、強張る両足を力ずくで開かせた。最後の砦でもある絹の下着は、見てわかる程に湿潤し蒸れた匂いを垂れ流している。
「ちが、ちがう、私じゃない…」
「原因はともかく、こんなことになってるのは間違いなくだと思うけど」
嫌がる手足の抵抗も弱々しい。下着を脱がせて濡れたそれを見せつければ、はぼろぼろと涙をこぼし始めた。普段あれ程強気で冷静な彼女が、こんなことですぐに泣き出すのが愉しくてたまらない。
早々に張り詰めた陰茎を取り出しの太ももを叩けば、それだけでまた背筋を震わせていた。
「…なんで、なんでっ!こんな…やだぁ…っ」
「あはは、、可愛いね」
「ちがうっちがう、ちがう…わたしじゃない、こんなのわたしじゃないっ」
「どうかなぁ」
興奮で体温も上がってきたのか、高い室温もありの肌に汗が滲む。陰茎を蜜口に擦りつければ、の体は大袈裟な程に跳ね、伸びたつま先は少し間を置いて弛緩した。
「…もっ、いや、いや…!いいかげんにして、一人にして!」
「?」
「さいてい、きらい、あなたなんてきらい!なんでっ…地位も金も力も、
家族だって持ってるあなたにこんな…!わたし、には…もう、この身一つしかないのに…っ」
両腕で顔を隠しながら吐露された言葉にタルタリヤはふと手を止めた。
「自分のために…まもってきた、ものを…っなんで、こんなに馬鹿にされなきゃいけないの…っ」
「……、」
「がんばったのに、ずっとずっと頑張ってきたのに!ぜんぶぜんぶ、こわされて…っ」
嗚咽を無理に抑えようとしながらも、は堰を切ったように言葉を垂れ流す。
結局はタルタリヤを恋人とは思っていないし、絆されてもいない。ただ─まだ途上の少女だ。無理矢理体を暴かれ、自分から言い出したとはいえ心を許してもいない男と連日情を交わし。
強がりで、弱音を見せることが出来ない─見せられる相手がいない、あるいはそう思い込んでいて。
は決して強い精神を持つわけではない。そうありたいと願い努力し、表面上はそうだと認められているだけ。愛らしいものに焦がれる心もあるし、全て投げ出したくなる時だってある。それでも憧れのために我慢して生きている。崇高なる女皇陛下のようになりたかったから。
それが、若いながらもファデュイ執行官に選ばれるような男に捕まってしまった。力も、財力も、権力も、何一つ勝てる要素がない相手だ。機嫌を損ねれば簡単に殺される。だからは自らを差し出し生き残る道を選んだ。あの時の提案は多少頭に血が上ってはいたかもしれないが、後先を全く考えない短慮からではない。失ったものにこだわるほどの余裕はないし、一度も二度も一緒だと─やけくそではあったけれど。
しかし蓋を開いてみれば、まるで恋人かのように甘く優しくて、ただただの心が乱されるだけだった。契約を結んで以降は、よほど昂ぶった時でなければ愛撫も十分だったと思うし、どうしても足らないときはきちんと薬を使ってもいた。
意地悪な発言になるのは、先にが混乱と憤りのまま彼を罵っていたからで、それでも語気を荒げて手を上げるようなことはなかった。
本当に疲れている時は労ってくれた。軽いキスや体温を重ねて抱きしめるだけの時もあれば、食事に誘ったり、任務で出た先の土産を持ってくる時もあった。
からかって遊んでいるのだと、そう思うには献身が過ぎている。磨き上げたの玉体を好き勝手貪っているのだからそれくらい尽くしても足らないと断じることは出来たし、何かの目的のためにそうしているのかと探りも入れた。
けれど分かったのは、彼の弟たちからすれば、タルタリヤは『大切な人にはそれくらい優しい』ということだけ。ファデュイ執行官としての外聞と、弟たちから聞く兄の事と、自分が見聞きしたタルタリヤの印象がバラバラで、何を信じればいいのかもわからない。そんなぐちゃぐちゃの頭で自分よりも自分の身体を知り尽くされては─もうどうしたらいいのか、思考が止まりかけていた。
どれほど詰っても、罵っても、泣いても喚いても、何をしても、タルタリヤは愉しそうに舌なめずりするばかりで。どれほど首を振っても、の身体は彼の手に快楽を得るようになってしまった。それがただただ、腹立たしい。
思考がすっきりしないまま、は収まった嗚咽に深呼吸した。期待もしていないが、吐露した言葉にタルタリヤからの返答はない。
「落ち着いた?」
「………。本当に…最低…」
「泣きじゃくってる子供は、一旦泣き疲れるまで置いておいた方がいいんだよ」
むしろ『無関心』から『嫌い』になったのは、進歩とも言えるだろう。そんなタルタリヤの考えを知るはずもなく、は奥歯を噛み締めながらタルタリヤを見上げた。
「……おねがいします、本当にもう…今日は一人にしてください。明日には…全部元通りにしますから」
「あのさ、俺さっき原因は分かったって言ったよね」
「説明する気も対処する気もないんでしょう。私の感覚が鋭敏になっているのをからかうんですから」
「からかうっていうか、まぁ愉しそうだなとは思ったけど」
疲労気味に視線を逸らすは、一つ細い息をつく。やっぱり馬鹿にしている、と、失望に似た感情を抱いた。
「…ねえ、見てよ。散々嫌いなんて言われれば普通萎えるものなのに、ほら、全く」
「あたまおかしいんじゃないですか」
「俺もそう思う」
先ほどまでのの拒絶も無視して、タルタリヤは昂りが冷めないそれをゆっくりと挿入しはじめた。
いつもより窮屈で、熱くて、絡みつくようにぬるりと包まれる。唇を噛み締めて声を抑えようとするを見下げながら着実に腰を押し進めていれば、少しずつの声も艶やかさを増して溢れていた。
「俺、前に君のいろんな表情が見たい、って言ったよね」
「はっ…ぁ…?」
「冷たい顔して俺に見向きもしない君が、こうして甘い声出して、口では嫌って言いながら気持ちよさそうに腰揺らして。俺も男だから、やっぱりそういう顔に興奮して、ついついそうしちゃうんだけど」
言葉休めに一つ二つとキスを降らして、タルタリヤは場の空気も読まずにこりと笑う。
「嫌われていようと君と恋人同士みたいなことが出来て満足だし。…好きになってくれとは今更思わないし、俺はのものだしは俺のものっていう関係を手放す気はないよ」
「……どう、して…っそこ、まで…」
「どうしてって、」
タルタリヤにとっての家族という安息は、冷徹非道と言われるファトゥスにとって弱点であることは間違いない。地位があるからこそ自由に─失わずにいられるが、いつ切り捨てなくてはならなくなるかもわからない。目の前の戦いに気を取られ、きっとタルタリヤは家族よりもそれを取る可能性があることも自覚があって。
例えばが、彼女が慕う淑女のような人間であれば─淑女はすでに全て失っているからというのもあるが─家族など捨ててしまえと嘲笑したことだろう。手紙を届けることもしない、兄が不在である弟たちの心の寂しさを埋めてくれることもない。
だから。深淵を覗いたタルタリヤに僅かに残る人間の心が、を見初めた。
「好きだよ」
「…っは、?なに、とつぜ…」
「好きだよ、好き。俺も頭いいわけじゃないから色々間違ったなぁとは思ってる─反省も後悔も別にしてないけど」
呆然と目を丸めるに、身を寄せて奥へと切っ先を擦る。
「ぬいぐるみと一緒に寝てるとことか、地声がかわいいとか、我慢してる顔も可愛くていじめたくなるくらい好き。執務室で書類弄ってる時に掃除を言いつけた俺のこと忘れて鼻歌歌い出すとこも」
挿絵3
「な、なに、え、え?」
「意識して細めてないとまんまるい目も可愛いよね。髪がふわふわで毎朝苦労してるのも面白いし、ちゃんとやることこなせば褒めてくれたり、優しいところも好きだよ」
「は、ッあ…?」
「エージェントたちからの食事の誘いはちょくちょく受けたりしてさぁ、でも慣れてそうに見えて男に免疫ないよね、処女だったし。エージェントたちからだとそうでもないけど、意外と俺が褒めると頬が緩むの、見てて可愛い」
ゆっくりと抽挿をしながら、タルタリヤは女の耳元で囁くように言葉を連ねる。あれだけ出し渋っていたものも、一度溢れてしまえば驚くほど簡単に舌を滑った。
知られていると思っていなかった事柄も重ねられ、は与えられる快感のせいもあり意図を図ることも出来ずに、困惑の声は嬌声へと転じていた。
「セックス、勉強してこいって言ったら本当に春本買って読んでたよね。真面目だけどちょっとズレてる、俺に聞けばいいのに、あれは少し妬ましかったな」
「なに、ぁんっ、なんでっ、」
「─好きだよ、。ははっ、罵り合うより、こうやって愛を囁いたほうが、なんだろう…っ、心が満たされるみたいで、気持ちいい、ね…っ?」
いつもより確実に快感の溜まったの身体と、緩慢とした動きに決定的なものが与えられずあふれた先走りとで、普段よりもぬるついてあたたかい蜜壷にタルタリヤもすでに登りつめていた。
「っ─いまさら、そんな事…言われても、許せるわけないでしょう…っ!」
怖かった。あの日は本当に怖かったのだ。
逃げれば観衆の前で犯されたかもしれない。強く拒絶すれば殺されたかもしれない。犯されたことを誰かに吹聴されるかもしれない。何か変な薬でも使って頭をおかしくさせられたかもしれない。ただ怖くて、でも逃げたくはなくて、死にたくもなくて。
恐怖を押し殺し、まるでなんとも思っていないような顔で、自分を主導に契約を結んだ。
関係を絶対に誰にも知られないこと。仕事の邪魔はしないこと。仕事に影響するほどの酷使をしないこと。命じた任務は何であろうとこなすこと。他にも細々としたものはあるが─それらが守られるならば、性欲の処理をしてやる、と。
いつもいつも恐怖でしかなかった。薄暗い中で絶対に勝てない相手に組み敷かれて、乱暴でなくとも自分の急所を弄られる。まるで恋人のように撫でられるのもみじめで仕方がなかった。いっそ彼を好きなのだと思い込んだ方が楽になるだろうとも思ったが、結局タルタリヤの真意が分からないから、好きだと思い込んだ後に捨てられでもしたら─はもう、立ち上がれなくなっただろう。
それが怖くて、悲しくて。いつでも頼れと言ってくれた煙緋たちになんの相談も出来ず、自分が言い出した手前止めることも出来ず。
タルタリヤが歯を食いしばり、小さな呻きと共に白濁を吐き出した。押し上げるように奥を擦られ、思考は冷めていても熱の籠もった身体は強い刺激に否応なく絶頂を迎えさせる。
暖まった部屋に浮かんだ汗を拭いながら、名前を囁きまた深く舌を絡ませた。銀糸を舐めとる傍ら己を引き抜き、タルタリヤは何故か困ったように笑みをこぼす。
「許さなくていいよ。さっき言っただろ、反省も後悔もしてないけど、悪いことをしたとは思ってる。ごめんね。
本当に辛いんだったら契約を破棄して本国に帰ってもいい。でも、絶対に手放したりはしない、スネージナヤに帰る場合俺の実家で過ごしてもらう。責任はちゃんと取る」
「そんな、の…っ」
「死んでくれは無理だけど、後で好きなだけ殴ってもいい、甘んじて受ける」
あまりにも振り向かないものだから、タルタリヤにとっては、壊すのもありだと考えていた。恐怖やトラウマで壊れた者というのは、見栄というものを無くし本心が現れるものだから。現状中々スネージナヤに帰る機会がないとはいえ、家に帰れば弟たちと彼女が待っていて、テウセルの行動力があれば連れて来てくれるかもしれない、なんて考えて。
けれど。…ついつい愉しんでをからかってしまうのも間違いなく本性ではあるが─好きだよ、と何度も伝える度に、からも言われたい、という思いが浮かんだ。きっと二人が真面目な恋人同士だったとしても、が素直に言うことはないだろうが、きっと行動や発言の端に感じ取れるものが生まれるのだろう。タルタリヤにだけ向ける感情、というものが。……今は憤りや苛立ちくらいしか感じられないが。
「私にどうしろって言うんですか。あなたの何を信じて、どう応えろって」
「……」
「……、………好きだっていうなら、今日はもう帰ってください」
「、」
「絶対に許したりはしません、許せることじゃない。でも、……」
「……体調は、大丈夫そう?」
は小さく頷く。ならば、とそれ以上の言葉は交わさず粛々と片付けを済ませ、タルタリヤは部屋を後にした。
「……なんだかちょっとヘタレたな…」
欲しいものは何でも手に入れるファデュイ執行官が、好きな女一人虜に出来ないなんて、情けない。
翌日。妙に眠れなかったものの、タルタリヤはいつもどおりに北国銀行へ赴いた。最近では執務室でから仕事を言いつけられるのが業務の始まりになっていたし、そうでない場合は前日から伝えられている。そもそも今日が出勤しているかも微妙なところではあるが、出来るだけいつもどおりに過ごそう、と眠れなかった頭で思いついたのが先ほどだ。
旅行前に浮かれる子供のような心持ちで、タルタリヤは執務室の扉をノックし返事も待たず押し開ける。
「おはようございます、公子」
「……おはよ」
そこでは、いつもどおりに鋭い目付きでこちらを一瞥し、すぐ手元に視線を戻したがペンを走らせている。
あまりにも平然としていて毒気を抜かれてしまった。恨みを込めて睨んでくるわけでもなく、努めた無表情で机に向かっている。近付けば、はペンを置いて立ち上がり、タルタリヤの横を抜けて扉へと向かった。
ガチャリと聞こえた音は、鍵を締めた音だろうか。外へ出るでもなく扉の前で立ち止まった彼女は、また振り向いてタルタリヤの前へ立った。
「……ほら、しゃがんでください」
「は?」
「早く」
有無を言わせない声に大人しく視線を下げる。は右の手袋を外すと、大きく振りかぶった。
「歯を食いしばってくださいね」
「えっ、──ッ?」
「ほら、フラついていないでください。もう片方も行きますよ」
構えている余裕もなく、今度は左の手袋を外し、強烈な平手をタルタリヤへと見舞った。
何が起きたのかと目を丸くしたが、昨日の自分の発言を思い出し素直に受ける。それなりに力を込めたのか口の中は切れたし、頬には見事な紅葉が咲いていることだろう。
「これで許したわけじゃありませんから。あなたの言葉が信じられるかの精査です」
「…あ、そう…」
手を振りやれやれと息をついて、手袋をつけ直すのを目で追った。
それからは急に無言になって、けれど何か言いたげに唇を震わせている。苛立たしげに眉根を寄せると、ばっと背を向けた。
「…抱き…しめて、ください」
「へ」
「…っいやらしく触れていいって意味ではありませんから!わ…私の、今の感情を、正しく汲み取って…相応しい行動が出来るか、どうか…っ」
ひりひりと痛む自分の頬を撫でながら一歩近付いた。気配に強張る肩に触れ、手のひらを滑らせて広げるようにゆっくりと抱き締めると、細い息と共にの力が抜ける。いつも昂ぶる欲望のままに抱いてたから気にも留めなかったが、情事中がすぐに泣いていたのは抑えられないほど怖かったからなのだろう。
「……今までごめんね。好きだよ、」
「…うるさい、」
「キスしていい?」
「駄目です」
少し声のトーンが下がったのは、空気を読まない発言にまた不快感を覚えたのだろう。普段ならば拒絶されても気にせず行動に移していたが、今は無理を強いるのは得策ではないことは解っている。昨夜の愛を囁きながらの行為は、口にした通り本当に気持ちよかったので。
鼻先をのうなじにこすりつけ、あまい匂いをいっぱいに吸い込む。それだけで彼女との情事を思い出し、身の内が滾るように熱くなった。
「もう離れてくださ…え、ちょ、ちょっと…っ」
「ん、少しだけ」
小さな体を軽々持ち上げ、応接用のソファになだれ込んだ。困惑と、見えるようになった僅かな恐怖に心の中で笑みを浮かべる。自身の前を開き、右手でそれを取り出しそろりと触れた。
目の前で息を呑む音が聞こえる。の首筋に唇を押し付けながら、皮を揉むように陰茎を擦り上げていれば、次第に先端から伝い始めた体液で淫靡な音が耳に届いた。
最近では滅多に自分で慰めることはしていなかった。欲が溜まるのはのせいであり、契約もあって二日に一回は抱くことが出来ていたから。
彼女が数日に渡ってスネージナヤに帰国しタルタリヤの側にいない時はさほど溜まるものもない。行為として最後までしない時は、つまりが口や手で処理してくれる時で。
武器を握らない柔らかくて細いの指と比べて、どうしても自分の手は堅い。自分で触る分気持ちいいところを直接刺激出来るが、が人の陰茎に真面目な顔を向けて触っているのを見ていた方がよほど興奮した。小さな口で頬張っているのも、苦しくなって涙目になっているのも腹にくるものがあった。
「…はっ、ぁ…ん、……、」
「ひっ…、な、なに、ですか」
「ん、、好きだよ」
「…わっ、わかったから!も、もう分かりましたからやめてください!」
いじめて泣かせたくなる欲はこれからも生まれ続けるだろうし、それを我慢出来るとも思えない。けれど多少は押し留めて、バランスよく扱うのがいいだろう。それこそファデュイが得意とする駆け引きだ─なんて、意識するわけでもないけれど。
「人のことすぐ遅漏とか言うけど、俺が一回射精しちゃうと君はもう終わった気になるだろ。体力の違いもあるし、仕方ないけど…さ、でも、たくさん君を味わいたくて、いつも我慢してるんだ」
「き、きもちわるいこと、言わないで」
「ほら、…見て、。んんっ…、君に少し甘やかされただけで、」
「や、いや、待っ、」
彼女の匂いを吸いながら、瞼の裏に情事中の姿を浮かべ、柔らかい手のひらと舌の感触を思い出し。少しだけ握る手を強めれば、呆気なく先端から白濁が飛び散り、重力に従って落ち否応なくの衣服を汚した。
ソファの背もたれにしがみついていた彼女の手を掴み、未だ芯を持ったままのそれを握らせた。小さな手越しに自分の手で包み、また上下する。興奮に少しずつ息が荒げて、先ほど拒絶されたというのに困惑と混乱で成されるがままのに無理矢理口付けた。
「ん、ん……っはぁ、ははっ」
「やだ、もうやめ…っ仕事、が」
「部屋の鍵締めたの君だろ?」
「こんなことするためにしたわけじゃ、ぁんっ、!」
ドロワーズのレースを掻き分けて、下着越しに秘所同士を擦りつける。目の前で痴態を見せられたからか、それとも昨夜の熱が残っているのか─大きく体を揺らし、反対の手で咄嗟に口を塞いだ。
「も、俺を見て…多少は、ね?」
「あ、ぁあなたを見て、た、わけじゃ…っ」
「じゃあ何か頭の中でイケナイ事でも考えてた?」
「ばか!」
握らされているものを押し退けようにも、変なところで優しさを見せ力を込めることが出来ず必死に唇を噛み声を押し殺す。布越しの普段とは少し違う感覚を八つ当たるようにタルタリヤを睨み付けた。
「だから、その目は、俺を興奮させるだけなんだって」
「泣いてもダメ、睨んでもダメ、ならどうすれば飽きてくれるんですかっ」
「んー…、君が至極冷めたマグロだったならあるいは?でもこんなに敏感じゃあ、ねえ?」
「あ、やっ、だめ、だめだってば!」
いつの間にやら下着は寄せられ、恥部は直接触れられている。抵抗を見せる口を塞いで、タルタリヤはあれよあれよと侵入を始めた。ちょろい。…こうやってなし崩しに事を成しているから好感度が下がるのだろうが、今更である。そんなことよりも今こうしての熱を貪る方が重要だ。
「やぁ、あ…っ」
「んんっ…は、はははっ!」
「なに笑っ、ん、んうっ」
いつもこの瞬間にだけ満たされる征服欲に堪えきれず笑みを零す。本来ガードの堅いを組み敷いて穿いている事実は、かつての怪訝な目ばかり向けられていた頃を思うと勝利の余韻さえ感じてしまう。…実際はボロ負け同然ではあるが。
「ね、…っ一度でいいから、名前、呼んで」
「っ、はぁ?」
「どうせ知ってるんだろ、俺の名前。タルタリヤでも公子でもない、」
キスの合間にそう強請れば、は僅かに瞳を揺らした。
─知っては、いる。スネージナヤで彼の家族と交流するということは、彼の家にも訪れるということだ。弱みでもないかと探った中でも、そもそも彼の家族からの話でも、タルタリヤの名前を耳にしたことは幾度もある。
けれど。
「いや、です。あなたの名前なんて、知りません」
「…へぇ、本当に?」
目をそらすは、忌々しげに目を細めた。
「私は、タルタリヤでも公子でもないあなたのことなんて、何一つ知らない」
「──……それは、」
名前だけの話ではないのだろうとすぐに思い当たる。タルタリヤ自身『公子タルタリヤ』と『×××××』を切り分けていたつもりはないが、なるほど。にとっては─いや、女性にとっては重要なことなのだろう。特別な関係になる相手との距離感が変わってくることだ。
顔を背けてソファに縫い付けられているを起こし膝に乗せる。埋め込まれたままの肉に声を漏らした彼女を丁寧に撫で、珍しく啄むようなキスをした。
「アヤックス」
「…は、」
「アヤックス。ね、ほら呼んで」
「─や、だ…ぁ、」
「強情だなぁ」
腰を抑えつけて体を揺らせば、やはりこの体位が苦手らしくタルタリヤの肩に突っ伏して声を殺している。
「は」
「な…に、」
「一体どんなものを贈れば、君は喜んでくれるんだろうね?」
彼女の小さな背中を抑えつけて抱きつかせる。浅い呼吸が耳元で繰り返され、タルタリヤの膨張に拍車がかかった。少しだけ腰を突き上げるとは身を震わせて静かに絶頂を迎え、その収縮にタルタリヤも欲を吐き出す。途端に頭の隅へ訪れる冷えを誤魔化すように、うずくまるにまたキスをした。
「今までの私に対する行動を思い返して、好かれると思ってるなら人の心理というものを学んだほうがいいです」
「いや、だから君、ほとんどプレゼントを受け取ってくれてないだろ」
執務室の椅子にふんぞり返って座るに、手に持った掃除道具を動かしながら言葉を返す。
タルタリヤがに直接手を出すより前は、タルタリヤなりに好感度を上げるため、贈り物をしたり食事に誘うなど、それらしい行動を取っていた。それがあまりにも効かないものだから、痺れを切らし──……。
この問答はこれまでに幾度もしたことがあり、その度は言葉に詰まって目をそらすのだが。
「普段我慢しているのに、欲しいと思っていたものを無条件に与えられれば、不気味だし腹も立ちます」
「…、……それは、プレゼントのチョイスは間違ってなかった、ってことだよね?」
「っ、知りませんっ!」
ぷいっと視線をそらし、引き出しを開けて書類を取り出す。ドラゴンスパインから帰って数日休んでいたこともあり、予定よりは仕事も遅れている。まだ顔色が良いとは言い難いが、もともと肌が白く判断するには紙一重だ。
「とにかく、散らかしたもの片付けてください。それから資料整理、必要なファイルも持ってきてくださいね」
「戦いは?」
「今はデットエージェントたちで事足りるものしかありません。暇になったら執務室の私物整理してくださいね」
首を傾げると、はちらりとこちらを一瞥した。「面倒なので説明はしません」とにかく目の前の仕事を片付けてからだ、とペンを握る。
「勤務時間が過ぎたら─…、ご飯でも奢ってください」
「……うん?」
「嫌ならいいです!はやくして!」
荒げた言葉も気にせず、の言葉をゆっくり飲み込んでから、タルタリヤは得意げに微笑んだ。