風采迎合、怯懦蹂躙の恍惚

軽挙妄動・好転もある



「…………、………」
 執務室。は一人頭を抱えていた。机の上に置かれた大きな包みを凝視しながら、必死に考え込んでいる。
 は本日、本国スネージナヤから璃月へと戻ってきた。いつも本国へ帰った際にタルタリヤから家族への手紙を預かり、璃月へ向かう際には家族からタルタリヤへの手紙を預かっている。それが今目の前にあるものだ。時折こうして手紙だけでなくなにかしらのアイテムを預かることもある。中身はが凍らせた野花だ。の手を離れれば溶けてしまうが、それでも弟たちの思いをタルタリヤに届けることは可能だろう。
 しかし問題はそこではない。これを受け取る際に交わした言葉が問題だった。
「今度ね、お兄ちゃんの誕生日なんだよ」
「…誕生日?」
「うん!それでね、プレゼントを色々考えたんだけど、お兄ちゃんは大人だからほしいものは自分で買えるでしょ。お姉ちゃん、どうやったらこのお花をお兄ちゃんに届けられるかな?」
 中々帰って来られないタルタリヤに、故郷の花を。は微笑んで頷き、氷の元素力で凍りつかせた。自然だけの力ではそれを維持することは不可能だろうが、これから肌身離さずいればいい。
 ……これもまた、頭を悩ませた理由ではない。
「それでお姉ちゃんはどんなプレゼントするの?」
「え?」
「お姉ちゃんの誕生日だったら、お兄ちゃんは豪華な食事とか素敵な夜景とか、色々用意すると思うけど…でもお姉ちゃんが用意したものならお兄ちゃんはなんでも嬉しいと思う。お兄ちゃんが喜ぶ顔見れないのは少し寂しいけど、お兄ちゃんも寂しいだろうから僕は我慢するよ。お兄ちゃんの寂しさはお姉ちゃんが埋めてくれるよね」
「…えっ…ええ…そ…うですね…」
 ……と。
 それ以来は頭を悩ませている。
 タルタリヤをよく知る人物から聞かされたタルタリヤの意外な一面やら、肯定した手前誕生日プレゼントを用意しないわけにはいかなくなったこと──何を用意すればいいのか、とか。
 今でもタルタリヤのことはわからないことが多い。趣味嗜好、プライベートは特に。自分なんかを好き好んで抱いている時点で理解が追いつかないのだが。それも案外丁寧。性欲を発散させたいだけのはずなのに妙に優しく抱くものだから、最近のは絆されかけている自覚すらあった。
 がうっかり感情のまま罵ってしまった際はおそらく怒っているし、そうなった時多少しつこくなるくらいで、そうでなければまるで恋人との蜜月を過ごすようだ。…一番最初の覆しようのない強引ささえ棚に上げれば、だが。
「んん……」
?帰ってきてたんだね」
 一人悩んでいれば時間も忘れ、外出していたらしいタルタリヤが執務室へとやってきた。怪我は見当たらないが衣服の乱れからして戦闘帰りだろう。
「こっ…公子、………ええと」
「うん?」
「………ご家族から、です」
 言葉が見当たらず、とりあえず机上の包みを差し出す。戦闘が物足りなかったのかさほど機嫌が良いようには見えなかったタルタリヤの表情が一瞬で喜色に満ち、そわそわしながら受け取り包みを開き始めた。
 花の上に置いてあった手紙をじっくり読み、ただ嬉しそうに口角を緩ませている。そうして花を手に取ると、を振り向いた。
「ありがとう、
「………いえ。それで、その、ええと」
「まだ何かあるのかな」
「…………私も…何か贈れと、テウセルくんたちに言われた、ので。…ですが、その…考えている暇がなくて」
「この花はが凍らせたんだろ?テウセルたちの無茶なお願いを叶えてくれただけで十分だよ。これはにしか出来なかったことだ」
 …本当に、嬉しそうに。タルタリヤは目を細めていて。
「………ばっ」
「ば?」
「馬鹿なんじゃないですか?そんっ、…そんなことで誤魔化さないでください!」
「誤魔化すって、何を」
「花を凍らせたくらいで…っ!」
 俯いて、咄嗟に背を向けて叫ぶように吐き出した。
「それはあくまでも輸送のためにっそうするのが最善だと思っただけで!テウセルくんたちの気持ちに寄り添っただけです!」
「うん、だから」
「テウセルくんたちの贈り物だからそうしただけで私の意思は含まれません!貴方のためにしたわけじゃないんだからっ!わっ私じゃ貴方が喜ぶものを用意できないとでも?」
「うん…?」
 きょとんと、タルタリヤは僅かに困惑を見せる。の言葉を飲み込んで、少し考えた後──耐えられなくなって、盛大に笑い出した。
「なに、なんでわらうんですか…」
「いや?君の怒りどころがようやく理解できたなと思って」
「別に、怒ってなんてません」
「そうだね」
 笑いを止める気配もないまま執務室の机にプレゼントを置くと、へ手を伸ばしてそっとキスをした。顔を真っ赤にして今にも泣きそうになっている彼女の表情にまた角度を変えて何度も口付けていると、混乱が沸点を超えたのかは呆然とタルタリヤを見上げていた。
 溢れる唾液を舐めあげて、舌は首筋へと滑る。少しずつ服を開き、直接肌に吸い付いて赤い華を散らすと、小さな肩がぴくりと揺れた。行き場に困ったらしいの手はタルタリヤの服を掴み、妙に大人しく愛撫を受け入れている。その表情は苛立たしそうに眉根を寄せてはいるが──そうでないことは、もはや分かりきっていた。
「…し、執務室では、」
「今したい。俺の誕生日プレゼントなんだろ?」
「誰もそんなこと」
「俺はがほしい」
 瞳が揺れる。先程からお得意の鉄仮面は機能しておらず、羞恥や困惑が簡単に見られた。
「あ、…痛っ」
 がぶり、首筋の赤い花を切り取ろうとでもするように強く噛み付いた。僅かに滲んだ血を舐め取り、傍では乳房へと手を伸ばしている。
「可愛がらなくても顔を出すようになったね」
「な、にが」
「ここ」
 やわらかな胸の突起をつまみながらにこりと笑えば、不快げに眉を顰めたもののは何も言わず顔を背けた。
 タルタリヤの手にも余る乳房を揉みしだき、再びキスを繰り返す。ふと彼女の目に困惑が見え──すぐさまを抱き上げ、執務室の机へと押し倒した。プレゼントは丁寧に端へ寄せ、それ以外は何も置かれていない、今まで何度か縫い止めた机だ。
 肩で呼吸するをよそに、震えていた両足を開かせる。靴と下着を脱がせれば、そこは珍しいと言いたくなるほど濡れていて。
「随分キスで感じてたんだ」
「うる、さいっ」
「言葉にも迫力がないよ。ほら、こんなに垂れてる」
 身を屈め、舌を伸ばす。蜜が溢れるそこを舐めあげれば、は大袈裟な程背筋を引つらせた。そらしてばかりだった視線をタルタリヤへ向け、頬を赤く染めながら睨みつける。そんな視線を軽々と受け流し、陰核をつまみ上げ入口を拡げて届く所まで舌を滑らせた。
「それ…っ嫌い…っ!」
「そう?気持ち良さそうにひくついてるよ」
「…そんなとこ、口をつけられるなんて、ふ…不潔です」
「君も俺の舐めるだろ。それにはしっかり手入れしてるから綺麗だ」
 立場やら性格やら、は容姿に関しても自分磨きを怠らない。当然、見えないところまで。靴や手袋に隠れる爪先も、本来誰にも見せない下着のさらに下も。
「そんなこと褒められても嬉しくないっ」
「俺が勝手にありがたがってるだけだよ、女の性器なんて別に舐めたいものじゃないからね」
「なら、」
「でものここは綺麗な色で─何よりそうやってすぐに恥ずかしがって、挿入れてる時じゃ分からないじれったい腰の動きが分かりやすい」
 強く陰核を吸えば、は大袈裟に腰を揺らした。ぴんとつま先を伸ばしどうにか逃げようと腰をひねるも、タルタリヤはがっしりと脚を抱き込み逃さない。
「っあ、いや、やだぁっ…」
「とても物欲しそうにしてる」
「ちがっ、ちがうぅ…っ!やだっ、やだ…っあ、ン──ッ」
 ほんの少しだけ歯を立てると大きく体を揺らして絶頂した。遅れて荒い呼吸をして、舌なめずりする男を忌々しそうに見上げる。タルタリヤはその視線に笑みを返し、膣へ指を挿し入れてゆっくりと掻き回した。
「ほら、こんなにキツく俺の指を締め付けてさ」
「…っ」
「素直になりなよ、気持ちいい、って。もっと俺を求めて、…」
 まぁ、素直に好きになってもらえるとは思ってない。恋人同士だからとべたべた甘えられたいわけでもなければ、尽くしてほしいわけでもない。
 むしろがすぐに甘い瞳を向けるようになっていれば、タルタリヤはあんな強硬手段はとらなかったし、そもそもここまでて心を砕いてもいなかっただろう。せいぜい数度抱いて終わっていた。どれ程体を重ねようと彼女はそっぽを向いてしまうから、意地になってしまって。
 が振り向いた時、果たしてタルタリヤの情はどう変化するだろう。そう考えついて言葉を止めた。自分より弱いくせにタルタリヤの体を慮り、自分より弱いくせにタルタリヤを殺してやるなどと言い。苛立たしそうにしながらも契約関係になってからは素直に応じるようになって、馬鹿正直にそちらの知識も学んでいて。それらは決してタルタリヤのためということではなく、挑発に対する奮起でしかないけれど。
「…
「ん、…?」
「やっぱり好きだなぁ」
「………はっ?」
 戦闘狂いのタルタリヤにだって、家族という安息はある。弟たちと、自分と、がいる様子を思い浮かべて、いいなと思ったわけで。
 一人考えこんでいたタルタリヤの視界に、目を丸くして顔を真っ赤にしているが映る。
「な、なん、なっ」
「どうかした?」
「どうかしたのはあなたでしょう!と、突然何ですか、一体!」
「…俺何か言った?」
 これまでとはどこか違う、泣きそうな赤い顔では言葉を失った。不思議に思いながらも愛撫を再開する。
 ぐちゅぐちゅと音をたてながらがよく感じるところを重点的に攻め、どうしてかいつものような拒絶の言葉を吐き出さない唇を放って首筋に痕を残した。とろけた顔が視界に入り、己の昂りがそろそろ耐えられなくなって、ようやくタルタリヤは身を離して自身を取り出した。
「やっ…ま、まって」
「やだ」
「あ、やあっ、い、今はだめっ今いれたら、」
 ぴとりと性器を重ねたところでが息を吹き返すように首を振る。いつもならば早く済ませろと大人しくしているのだが。
 切っ先をゆっくりと嵌め込み少しだけ前後させた。は自分の体を抱き込みながらずっと首を振っている。
 衣服がなければ爪が食い込んで血が出そうなほど強く固まっている腕を解き、タルタリヤの背中へと回させた。屈めた身でキスをしてゆっくりと奥へ進みやがて密着すると、は歯を食いしばりながら身をよじる。
「気持ちいい?」
「…くっないっ…きもちくなんて、ない…っ」
「そう、じゃあ俺ももっと頑張らないとね」
「っ、あっ、ぁあっ!いみわかんない、やめて、ばか、ばかぁっ」
 強がりな彼女がこれほど泣きべそをかいているのが愉しくて、愛おしくて。の反抗的な発言にいつもは皮肉を返していたのだが、それは彼女の愛しい表情を見るのには大いに間違っていた。
 挑発に挑発で返すよりも、受け流して可愛がった方がいい表情をする。それを今日ようやく理解した。
 が天の邪鬼であることがわかれば。今までのほとんどの─タルタリヤが無理矢理事を起こした時は本気の軽蔑だったろうが─発言や反応が、言葉通りでないことが分かれば。下手な駆け引きをするよりずっと簡単だ。
「ぁんっ、ひ、いや、いやぁ…っ」
「何がイヤなのかちゃんと言ってくれる?」
「ひぅっ…!や、ぁあっゆらさないで…っ」
「動かさなきゃ気持ち良くなれないだろ」
「なりたくないっ!なりたくないっ…っ」
 ぴったりと密着したまま、抜き差しは最小に最奥を擦るように身を揺する。一突きごとにの体が震え、きゅうきゅうと雄を締め付けられ、タルタリヤの欲も限界が近くなっていた。
 の頭を抱きこむように身を屈めて涙を舐め取る。軽く口付けながら律動を強めれば、背中に回させた彼女の手が力を込めて衣服を握り、太腿はタルタリヤの腰を砕かんばかりに挟み込んだ。
 歯を噛み締めて僅かな呻きと共に熱を吐き出せば、も遅れて大きく深呼吸を繰り返した。
「…は、ぅう……」
「よくない、って言う割には満足そうだね」
「……、………」
 ここでまた違うと返したら再開される事を懸念したのか、は顔を背けて無言を返した。
 余韻を落ち着かせようとしているを眺め、前髪を掻き上げてからキスを降らせる。額から目元、頬、唇、顎と渡ったところで、面倒そうな不機嫌な視線を向けられた。早くどけ、とでも言いたいのだろう。

「はは、可愛い」
「………馬鹿じゃないですか。睨んでるんですけど」
「照れ隠しなんだろ?それ。そもそも睨まれても少しも怖くない、顔真っ赤にして目も潤ませて。むしろ興奮する」
「気持ち悪いこと言ってないで早く抜いてくれませんか」
「んー、ならもう一回する?」
「しません!」
 引き抜くついでに少し刺激してやれば、はあからさまに息を呑んでまたタルタリヤを睨みつける。けれど顔は赤いままで、妙にそわそわしているのがどこか愛らしくて口付ければ、今度は甘えた─タルタリヤはそう感じた─表情で男を見上げる。すぐに視線をそらしてはまたちらりと見てを繰り返し、衣服を整えはじめたタルタリヤは自然と首を傾げた。
「…何?」
「……なんでもないです」
 散らかしたものを片付け、いそいそと現状復帰を目指す。誕生日だからといいものが見れたな程度の気持ちでいるタルタリヤにとって、自身の覚えのない一言で今後の態度が変わるのかは、想像もしていなかった。