Origin out of control



01



「か、関係者以外ははいらないで!」

 忙しいのだとフラフラの状態で一人何処かへ行こうとしていたをジュードが引き止めて、仮眠室もあるのだしとジュードたちの研究所までやってきた。そこでは研究者であろう男が一般人である俺たちに向けてそう叫びながら駆け寄ってきた。
 しかしジュードとを見ると驚いた顔をして、状況を説明しようとしていた。

「ダメだ、完全に警備システムを抑えられてる。俺一人じゃどーにもならな―…おっと。こりゃまたいいタイミングで」
「アルヴィン!」

 頭を抱えながらやってきたアルヴィンと呼ばれたスーツの男は、ジュードたちをみるとニヤリと笑う。どうやらこの人も知り合い―基、一年前の旅の仲間らしい。

「ローエンとレイアまでおそろいか。しかも、行方不明だったちゃんまで」
「…何が、あったの?」

 改めてそう問うと、アルヴィンは頷いて簡潔に説明してくれた。
 またあのテロ集団アルクノアが、警備システムを制圧。見学に来ていたリーゼ・マクシアの親善団体が中に取り残されているという。その案内をしていた例のバランも一緒。 覚えのある名前に、エルが助けないと―と俺を見た。

「手伝ってくれるのか?」
「僕達、バランさんに用があるんだ」

 そういうジュードになるほどという顔をするも、リーゼ・マクシア人ではない―アルクノアと同じエレンピオス人だということに気づいたらしいアルヴィンは眉根を寄せて、しかし冷静にこちらを向く。

「ルドガーだっけ?これはアルクノアのテロだ。俺、元アルクノアなんだけど。信用してくれるか?」

 挑発的に少しだけ笑いながらアルヴィンは言う。…散々な目に遭う原因だったアルクノアの元構成員だというのは見逃さざるをえないことだが、信用出来ない人物ならばわざわざそれを言うだろうか。
 きっとジュードたちとの旅では何かあったのかもしれないけど、それは終わったことだし俺には関係のないことだし。
 信用できるか、の問いに答える理由をそれだけ考えて、俺は頷いた。

「なるほど、ジュードの友達って感じだな」
「アルヴィンはジュードの友達じゃないの?」

 アルヴィンに酷くバカにされた気がしたけど、エルの言葉に彼は視線を逸らして苦笑した。次にエルに疑問の瞳を向けられたジュードは、可笑しそうに小さく笑いながら「友達だよ」と頷く。

「なんか信用できなそう…」
「子供の目はごまかせないな」
「…アルヴィンの自業自得、なんでしょ。とにかく状況を確認しよう、急がないとその親善団体が危険だわ」

 遮るように疲れた顔のがいう。
 現在、おそらく開発棟の屋上付近―とやらにバランと親善団体は囚われている可能性が高い。警備システムの制御室は研究棟の最上階。それらを確認した後、ローエンが即座に指示を振り分けた。

「では、二手に別れましょう。制御室は私とレイアさんで十分でしょう」
「待ってローエン、アルクノア相手に二人っていうのは…」
「ジュードさんは、さんを見張る必要があります。そして親善団体の皆さんを安全に誘導する役割を考えると人数は多い方がいいでしょう、守りながら進むのは非常に困難ですから」
「わ、私は…」
「では、行って参ります」

 が言い返せないうちに「バランさんのことは任せたよ」というレイアとローエンは研究棟へと走りだした。
 不満そうだが、確かに体調が悪そうなのも含めてジュードがを見る必要が―…そう考えると、二人はどういう関係なのか少し気になるところだ。
 前線へ立って戦う役はおそらく俺とアルヴィン、親善団体と合流後守りながらここまで案内するのにジュード、―エル、と言った所だろう。

「天気も悪くなってきた。ちゃっちゃと済まそうぜ」

 装備の確認をして、俺達は開発棟へと向かった。

























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02


 部屋の場所や通り、作りについて詳しいジュードを案内役に、バランを含めた親善団体を探し廊下を進む。途中俺に新しい武器―銃を届けに来たイバルと一悶着あったが、それ以外はさしたる問題もないように見えた。
 見張る必要が、と言われていたも変な動きはしないし、体調が著しく悪くなるようなこともない。
 暫くいろんな扉や階段を越えると、T字の通路の右角から制御を失った自動装置が忍び寄っていた。武器を構えようとした時、反対側の通路から黒紫の光が勢い良く襲いかかり、自動装置を破壊した。

「もう…いませんね?」

 そんな幼い声が聞こえて、俺は唖然とする。攻撃の光が放たれた方からは、金髪の髪をツインテールにした可愛らしい少女が歩いてきていたのだ。この非常事態に怯えるでもなく、怒るでもなく。

「エリーゼ!」

 ジュードが笑顔になって言うと、少女ことエリーゼも咲くように笑顔になった。

「ジュード!」
「アルヴィンも…もいる!」

 エリーゼのすぐとなりで浮遊するしゃべるぬいぐるみに俺は直りかけた顔をまた唖然とさせる。まさか親善使節って…と武器を仕舞いながら問うアルヴィンに、エリーゼは頷いた。エリーゼの通う学校が使節として選ばれ、ここへやって来たらしい。
 少女がエリーゼ、浮いてるぬいぐるみがティポ。ジュードに紹介してもらって、思わず一言「可愛い子だな」呟くと、エリーゼは頬を赤らめ照れながらにこにこと笑った。後ろにいたエルに変な目で見られているのに苦笑して、俺もエリーゼ達に自己紹介した。
 先ほどの黒紫の光はやはりリーゼ・マクシア人特有の精霊術というやつらしく、エリーゼはまた少し特殊でティポと近くにいることで幼いながら強力な精霊術を行使できるという。どういう経緯があったのかはよくわからないが、たまたまそのティポを連れていたおかげで、今回こうして立ち向かう事ができ尚且つ他の使節の子供達を安全な部屋に避難させることが出来たのだと聞いて俺は感心する。

「バランて人も?」
「バランさんは、私達を逃がすために囮になって…」
「開発棟の上の方に残ったんだー」

 ―子供達は避難させたものの、バランは未だ囚われている。助けを呼びに行くため、不安ながらもティポと二人で動きまわっていたらしい。

「…エリーゼ、もう大丈夫。一緒に行きましょう。案内頼んでも大丈夫?」
「もちろんです!」

 がエリーゼにそう微笑みかけたその時だ。棟と棟の渡り廊下であるこの場所は、屋根がなかった。空から直接けたたましい雷鳴が響き、俺も多少突然の騒音に驚くものの後ろでとんでもない顔をしていたエルに視線を向けた。

「…雷、怖いんですか?」
「べ、べつに!」

 ぷい、と拗ねるように顔をそむける。何かに気づいたらしいが空を見上げて、焦った顔をしてエルを見る。
 しかしその時には―先ほどよりも大きな雷がもう一度鳴り響く。耳を塞いでしゃがみ込むエルの悲鳴とともに、空間が歪んだ。

























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03


「…なんか、今…」

 エルの悲鳴があった瞬間の違和感にアルヴィンがきょろきょろと辺りを見回しながら怪訝な顔をする。俺はどう説明したものかと頭を掻いていると、縮こまるエルのそばに寄ったエリーゼが元気づけるように優しく声をかけた。しかしエルはつんとした態度のまま立ち上がって「今のウソ!」と胸を張る。

「雷なんて、ただのデンキだし」

 そう言ってエルは拗ねたまま歩き出した。…けれどエルが向かったのは反対方向で。エリーゼが控えめに呼び止めていた。
 間違いに少し顔を赤くし、踵を返して走りだす。するとエルは盛大に足を引っ掛けて床に滑りこむ。俺は即座に駆けより抱き起こすとエルは泣くのを我慢しながら口を真一文字に結んでいた。頭を撫でると、静かに立ち尽くしジュードたちが追いつくのを待った。

「…アレ。は?」

 エルと並んで振り返れば、先ほどから一緒にいたはずのメンバーの内一人足りない事に気づいて思わず声を上げると、エリーゼの周りに浮かんでいたティポが近づいてきて。

なら、エルがしゃがんでた時にどっか走っていったよー」
「ちょっとティポ!それ早く教えてよ!」

 早々に姿を見失ってしまったジュードは焦ったようにして追いかけようと通路を走るが、何処へ行ったのかまではティポも見ていないらしく分かれ角で交互に通路を見てうなだれた。

「とにかく行っちまったもんはしょうがねえ。こんな状況で一人飛び出すってことはある程度自信があるってことだろ、それにここは仮にもお前らの研究所だぜ、目的地までの行き方なんかはお手のものだろ」
「けどアルクノアや暴走した兵器がうろついてるのに」
「いざとなったらアイツが飛んでくるだろ。こっちがある程度余裕見せなきゃ振られちまうぜジュードくん?」

 俺達にはよくわからない話をしつつもジュードはひとまず納得せざるを得なくなったようで、溜息を付いて頷いた。



 屋上までたどり着くとそこには放電する大きな球体が浮遊していた。それを知っているらしいジュードたちは何やら苦々しい顔をして焦りを見せた。
 何より屋上にはすでにがいて、驚いた顔でこちらへと近づいてくる。

「逃げて!」
がやったの!?最近姿を見せなかったのは、まさか一人で源霊匣ヴォルトを…」
「そんなワケないでしょう!いいから逃げて、ヴォルトが暴走して―」

 源霊匣ヴォルト、というらしい球体は落雷を起こすように周りに放電した。雷は俺たちのすぐ近くにも落ちてきて―ルルに直撃し、ルルはぐったりとその場に倒れこんでしまった。はしまったとばかりに悲壮な顔をして駆け寄り治癒術をかけると再び俺たちに「逃げて」と告げた。

「そんなこと言って!ヴォルトの暴走を一人でどうするつもりなの!?」
「増霊極もあるもの、やろうと思えばどうにでもなる!…ジュード達を巻き込めない」

 の言葉にジュードはひどく不愉快そうに眉根を寄せて拳を握る。
 ジジ、ガガ…と音を出すヴォルトは今度こそ"暴走"モードに入ったらしく、的確に俺たちの元へ雷を落として来た。大したダメージはないものの、積もり積もれば体力も削られしびれも残る。結局は全員でヴォルトに対し武器を握った。

 何度も死にかけたもののどうにかヴォルトが十分な活動ができないほどに力を奪うと、まるで幻聴に苛まされるようにヴォルトは何かを呟く。

「ジジ…エラー… タマシイ…オセン…シンコウ…」

 エラー。魂。汚染進行。ジュードが言葉を反芻して目を細める。

「コントロール…フノウ!」
「ルドガー・ウィル・クルスニク」

 ヴォルトが叫んだ時、俺のすぐ傍で聞いたことのある声がした。ばさりと布がはためく音が聞こえ、少女の手が俺に触れている。俺は"あの時"のように腕に鋼殻のような物を付け、手には例の槍を握っていた。何かを考えるまもなく俺の体は動いていて、槍でヴォルトを貫いた。槍の切っ先にはまた歯車のようなものがあって、それが散るのと同時に―世界が、壊れた。

























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04


 急に視界が変わって、屋上に居たはずの場所も変わっていて。けれどこの感覚は、俺にとってはすでに知ってはいるものだった。

「…まさか、クレミアか?」

 何を話すよりも先にアルヴィンが呟く。知らない内に―ヴォルトを貫く時辺りから増えている一人の少女を見下げると、視線が合ってにこりと笑まれる。小学生くらいに見える体躯だが、ずいぶんと貫禄のある目つきをしていた。

「いやはやさすがクルスニク。言わずともその使命を遂行するとは―それにしても、クルスニクに遭遇しているのなら教えてくれればいいものを。そんな体調で無理をするものではないぞ」
「ちょーっとまてよクレミア。なんでそんな姿かなんてのはこの際どうでもいい、今まで何処行ってたんだとかいろいろ聞きたいことはあるが、何よりさっきのはなんだ!?」
「そうだな、そんなことよりバランを助けに行くほうが先決じゃあないか?」

 肩を掴んで詰め寄るアルヴィンにクレミアはニヤリと笑って躱す。俺たちも最初の目的を思い出して仕方なく移動する。先ほど通った道を進みながら初めての場所のはずなのに慣れた足取りで屋上へ向かう。…先ほどは、ずいぶん迷ったが。は先ほどから少し体調が悪そうになっていて、途中の部屋で休む事となった。しかし事態は急ぐため、俺達はそのまま屋上を目指している。

「…誰もいない…」

 再びやってきた屋上には、放電する源霊匣ヴォルトもアルクノアも、バランも居ない。
 辺りを見回した後、「出てこいよバラン」とアルヴィンが強く声を張り上げると、この屋上よりも少しだけ高い隣接する建物の方にいた。
 バランが降りてきて訝しげに俺を見る。俺やエルが自己紹介した後、ジュードはまるで怒ったようにバランに詰め寄る。源霊匣ヴォルトについてだ。俺は正直あまり詳しくないためその重要性やら危険性がわからないのだが―いや、先ほどのヴォルトの暴走を考えれば、危険性は理解できる。

「源霊匣ヴォルトなんて作ってないし、作る準備もしてないってば」
「…じゃあ、が一人で進めていたんですか?」
「そんなのやってたらいくらなんでもわかるよ。そもそも彼女はここ暫く研究所にすらいなかったじゃないか。…大体、が作成した物以外の源霊匣そのものの制御がうまく行ってないのに、大精霊クラスなんて無茶過ぎるだろ」

 けれど、実際に俺たちは源霊匣ヴォルトと戦った。だからこそ、そんな不安を抱えているのだろう。
 …だが、今はそれよりもバランに聞くことがある。そもそもバランを目指す理由はそのためだ。俺はユリウスの名を出すとバランは首を傾げていた。今指名手配されているユリウスのことを聞かれ、俺のことを怪しんでいるらしい。ジュードが俺がユリウスの弟であることを明かすと、なるほどとバランは笑った。

「ユリウスとは半年くらい会ってないよ。列車テロのニュースを聞いて驚いてたとこさ」
「行き先に心当たりはありませんか?」
「…カナンの地、とか?」

 エルの言葉に、それまで我関せずを貫いていたクレミアが顔を上げた。驚いたような顔をしてエルを見る。
 一方バランは腕を組んで思い出すように首を傾げた。

「カナン…そんなこと言っていたような。なんだか知らないけど」
「そうだ!クレミア、クレミアならカナンの地の事知ってるんじゃない?」
「カナンの地は、魂を浄化し循環させる聖地よ」

 思い出したようにクレミアを振り返るジュードに答えたのは、クレミアではなかった。清楚な女性の声がどこからか聞こえるが屋上の扉が開いたでもなく、俺達は辺りを見回す―そして上を見ると、幻想的な形の翼を背にした女性がふわふわと浮いていて、こちらを見てふわりと笑った。

「こんにちは、ジュード。お久しぶり、クレミア」

 エルは「何アレ!?」と大きな手振りで驚きを現す。…そういえば、実際に空を飛んでいる人間なんて早々いないのだから、驚いて当然だ。エルの問いにエリーゼとティポが答えてくれた。彼女は精霊で名をミュゼという。そして、ミラのお姉さん。…ミラとは誰だろうか。エルも知らないようで首を傾げていた。

「どうして人間界に?」
「ミラがいなくなっちゃったの。魂の浄化に問題が起きたと言っていたわ。私の力を使って精霊界を飛び出した後、連絡がつかなくなっちゃって」
「…人間界に来てるの?」
「そのはずだけど…会ってないのね。無事ならあなた達と一緒にいると思ったんだけど…クレミアもなかなか連絡が付かなかったし…あら」

 ちら、とミュゼはクレミアを見る。しかしなにか驚いた顔をして、唖然と開けた口を隠すように手をやった。

「そういえば、クレミア、そのお姿は一体?」
「わざわざ説明をさせるな、ミュゼ。お前ならわかるだろう」
「いえ、ふふ。ジュード達も不思議がっているだろうからと思ったのですけど。まぁ、そちらにはそちらの順序があるものね。…それじゃあ、みんな。私はミラを探しに行くわ」

 そう言ってふわふわと飛んでいってしまった。
 場を支配した沈黙を壊したのはジュードだった。怒ったような表情で、少女の姿のクレミアに詰め寄る。

「それで、どういうことなのクレミア。その姿もだけど、をこき使ってまで今まで何してたの」
「そう怒らないでくれジュード。が体調を崩すまで顧みなかったのは悪いと思っている」
「…ッは自分のこと言わないから、そこはクレミアを責めない。けどそう無理をしなきゃいけないものなの?」

 クレミアはジュードを一瞥して、悩むように手を顎にやる。

「そうだな。事は一刻を争う」
「ミラが精霊界を飛び出したのも同じ理由?」
「…おそらくは」

 二人はほんの少しの間無言で見つめ合った(目つきは睨んでいるようだったが)あと、ジュードは諦めたように溜息をついた。
 俺達は全然話に追いつけなくて、エルと見合って首を傾げたりしていたのだがようやく終わったようだ。

「あーッ!クレミアだ!なんか小さいけど…何かあったの!?」
「おや、エリーゼさんも」

 見計らっていたかのようなタイミングでレイアとローエンがやってきた。よう、とクレミアが片手を上げて挨拶して、エリーゼたちと挨拶したあと「は?」と首を傾げる。
 俺が途中で倒れて仮眠室で休んでいると説明すると、次にジュードがエリーゼに会った経緯、そしてクレミアに会った経緯、更には先ほどまでミュゼが来ていたことを話した。かと言ってもクレミアが"この姿"なのも、ミラという人が何処へいるのかもわからないので、現状しか説明できないのだが。
 そっか、とレイアがひと通りを聞いて頷いた直後、俺のGHSが鳴る。相手はヴェル―ビズリーの秘書だ。ユリウスの目撃情報が入ったらしい。

「場所はイラート海停です」
「…?」
「リーゼ・マクシアにある港ですよ」

 知らない名称に首を傾げればエリーゼが教えてくれた。

「別の探索エージェントも急行していますので、お急ぎを」

 GHSの通信が切れる。次の行き先が決まった、と意気込む反面ユリウスが未だ指名手配されているという現実をつきつけられて何ともいえない感情を持っていると、

「またお金返さないとだね!」

 …というエルの言葉に、低空飛行ながら浮いていた俺の気分は地へと叩きつけられたのだった。