Fate:Catalfining
フェイト・カタルフィニング

 
 
03:34:28



 そこにあったのは絶望だけだった。求めていたものの果てがそれなのだと気づかされて、その事実に首を振る。何も言えずにただ呼吸をしてあたりを呆然と見ていると、その脇に一人の女が立っていることに気づく。足を見つけて、その上へと視線を移しその人物の正体に気付くと、振り絞るように声を出す。

…!お前はこの結末を変えに来たんじゃないのか!」
「誰がそんなこと言ったのよ。自分ができないからって人に押し付けないで」

 地面に手をついて、砂ごと手を握り締める。
 間もなく、の隣にもう一人誰かがやってくる。マントをなびかせるその人は、彼女のサーヴァントであるプリーストだ。

「すまない。被害をこの地に抑えることで手一杯だった」
「…そう。じゃあ仕方ないわ、とりあえず火を消して行って」
「ああ」

 プリーストが踵を返そうとする。自身からしての奥にいた切嗣に気付くとばったりと視線が交わる。微笑んだプリーストに、切嗣は言いようのない怒りが口から飛び出た。
 この状況で笑えるその気が知れない。立ち上がり胸倉をつかみそう叫ぶもプリーストはただ笑んでいるだけだった。

「そんなことを言われてもなぁ…。私は後ろは振り向かないことにしているんだ」
「何故だ!後悔をしないのか、お前は…!」
「後悔をするのは人間だけだ。そしてそれを踏み台にして進めるのもな。…お前はこれを消化できないのか?」
「できるはずがないだろう!」

 切嗣はまた嗚咽をこぼしながら膝をついた。そして呟く―「僕は正義の味方になりたかっただけなのに」。

「…正義の、味方。だと?」
「僕はただ…っもう誰も、血を流さない世界をと、願っただけなのに…!」

 切嗣のその願いにプリーストは口を真一文字に引き締めた。涙を流すその男に、ただなにか言いたげに息を吐く。
 詳しく、血を流さない世界とはなにか?プリーストはふと考えた。そしてあたりを見渡して、苦しげに切嗣を見た。

「まさか、この惨状…貴様のせいじゃないだろうな」
「僕はこんなこと願っちゃいない!違う…違う…!」
「…正義の味方になりたいという夢が、何故誰も血を流さない世界を願うことになる?正義の味方を間違えていないか?」
「ああそうさ!僕に正義の味方を名乗る資格なんてない!」

 プリーストの言おうとしていることとは違う答えを切嗣は叫ぶ。

「正義の味方を名乗るのに資格なんていらん。必要なものは守るなにかだ。他のすべてを犠牲にしてもかまわないと思うほどの大切な存在が、貴様にあったのか?」
「大切な…?そんなもの、多くを救うのに、必要ない」
「なるほど貴様は不特定多数を救いたいとのたまうか。―まさか己に人の命を天秤にかける資格があると思ってはいまいな?」

 不思議そうに顔を上げる切嗣の目に入ったのは、無表情に腕を組み自分を見下ろす女の姿。
 そんなもの、あるとは思っていない。呟くように返せばプリーストは嘲笑とともに言葉を吐き出した。

「愚か者が。守りたいものがないのなら一体何のために救うのだ?誰かの命を背負わない者が誰かの命を奪えると思うな。多くを救い多くの命を天秤にかけてもいいのは人の上に立つ者だけだ。救うために滅ぼすのは人の王だけだ!」
「なら僕はどうすればよかった!僕がやらなければ…!」
「お前がやらずそうなったならばそれが運命だったというだけのこと。命を奪う暇があるなら何故助けない?」

 そんな簡単なことじゃない。切嗣は首を振って訴えるがプリーストは冷たい視線を向けるだけだった。そんな様子に痺れを切らしたのか、様子を見ていたが言葉を差し入れた。

「…それこそ、こんなところで討論している暇があるなら、生き残っている人を探せば?」
「―!」

 切嗣はばっと顔を上げて、ふらつく足のまま走り出した。その背を見送りながら、プリーストは深く長いため息をつく。

「意地悪ね」
「正義の味方の定義は様々だ。だがどんなやつも必ず、国だったり恋人だったり子供だったり、守りたいなにかがあるから力を貸してくれと願うのに…」
「命を奪うだけなら機械にだってできる。あの人は、機械になれるほど欠陥品じゃなかったのね」

 は笑う。そして話を変えるように、この後どうするかと聞いた。

「…私は"あれ"を迎える準備をしなくては。任せたぞ、我がマスターよ」
「任されたことはやるわ。―ありがとう、プリースト」

 無言でうなずいて、プリーストは空へと飛び上がった。



  
 
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「ロードは、戻られたのですね」
「ええ」
「…この地に、そんなものが…」

 聖杯戦争が終わった後の、褒美の一つとして与えられた大層な家の中。
 慣れた手つきで差し出された紅茶を一口飲んで、ほうと息をつく。

「どれくらいかかるかわからないけど…。早々に準備をしなくちゃね」
「準備…?」
「ロード様から直々に頼み事をされたのよ」

 ランサーは首を傾げる。そんな様子を一瞥して、は再び紅茶を飲み込んだ。


  
 
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「お姉さん、誰?」
「……」

 公園で遊ぶ少女に、思わず目を奪われた。
 決して少女趣味だとか、見惚れたとかではない。
 おおよそいたいけな少女がするようなものではない瞳に、ちょっとした既視感を感じたのだ。

「…私は。あなたは?」
「わたしは、巳祈」
「一人?お父さんとお母さんは?」
「…いないの。この前、刃物を持った男の人と、へんないきものに、ころされちゃった」

 言葉を失う。刃物―そしてへんないきもの。なんとなく嫌な予感というか、申し訳無さというか。

「…今は、どこに住んでいるの?」
「冬木の教会。わたしを助けてくれた妖精さんが、そこに行けって」
「妖精さん?」
「つよくて、かっこよくて、キラキラした女の人。わたしもいつか、いつか…あんなふうに、なりたかったなぁ」

 悲しげに少女が笑った。

「…なれるわよ。あなたなら」
「本当に?」
「本当に。あなた、私に似てるもの」
「…髪、白くないよ」
「見た目じゃなくって。その気になったらいらっしゃい」


 場所は、冬木の森のどこかにあるわ。





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