風采迎合、怯懦蹂躙の恍惚

傍目八目・そうじゃない




 ぐちゅぐちゅと淫靡な音が耳に響く。湿った息を漏らしながらも歯を食いしばり、は必死に声が漏れるのを我慢していた。
 北国銀行の執務室。執務室ではあるものの、今の部屋の主がさほど書類仕事を担当していないためその机の上はせいぜい飲み物の入ったコップが置かれているだけだ。整理された棚の本や書類も、どちらかといえばが使用することが多い。
 そんな部屋の唯一の椅子に座り、今は自分で自分を慰めていた。目の前では楽しそうなタルタリヤがしゃがみこんで見上げている。
「ほら、早くイくか素直におねだりしないと帰れないよ」
「うる…っさい…っ!誰が…!」
 こんなところでこんな痴態を繰り広げているのももちろんこの男の指示だ。今日一日外に出ていたタルタリヤは、執務室を執務室として使用していたのもとへ戻って早々にそんなことを言い出した。戦闘が物足りなかったからヤらせろ、と言われるのは嫌々ながら慣れてしまったが、そう来るとは思っていなかった。
 出来れば行為をしなくてもいいようにタルタリヤの仕事を増やしたくても、そう毎日都合良くあるわけではない。契約通り、人前ではの尻に敷かれているかのように振る舞うし、いわゆる業務時間中であればよほど手を出しては来ないが、課せられた仕事が終わると途端に従順な犬から獰猛な狼のようになる。早く事を終わらせられるように、も恥を忍んで男女の行為、男の喜ばせ方について学んだりもした。
 だというのにこれだ。これまで必要以上に触れたことのない場所をいじれと言う。手をこまねいていれば片足ずつ椅子に縛りつけられてしまい、大きく足を広げた状態で拘束されていた。
「…っはぁ…あ、ん……っ」
「変に焦らすより気持ちいいところちゃんと触ったほうが早くイけるよ。気持ちいいところ教えてあげようか」
「……さ、わらないで…っ」
 見られている羞恥からか、それほど刺激を与えていなくとも蜜壺は十分なほど濡れている。くちゅくちゅと淫猥な音を鳴らしながら指を動かしているが、決定的なものはない。
「…というか、いままで自分で慰めたこともないんだね。お硬いなぁ、今はこんな卑猥な格好してるのに」
「それは…っ貴方が…」
「まぁいいや、貸して」
 何を、と思っていれば。の手指を引き抜き絡みついた蜜を舐めとると、腕を掴んだまま秘所へと顔を寄せる。何事か分からぬまま目を丸くするをよそに、タルタリヤはべろりとそこを舐め上げた。
「……っ、……?」
「暴れない暴れない」
 逃げようと腰を引くも、椅子に縛られていて動く事は出来ない。羞恥と困惑に震えるの様子を見てその赤い舌で陰核を絡め取り、唇を押し付け溢れる蜜を吸う。先程よりも粘着質な水音が小さく響き続けた。
「……っ、は、あっ、やめっ、やだっ」
「キリがないくらい溢れてくる、こういうの好きなの?」
「ちが、ひぅ、んっ!」
 舌が内部へと侵入した。指で責められるよりもどかしく、けれど熱くて頭が朦朧とする。拘束していた腕を離し、いつの間にやら男の指が陰核をつまみ内部を擦っている。快感を得てしまう場所を知り尽くしたように責められ、自分の手で蓄積させていたものがみるみるうちに溢れそうになっていた。
「んぐっ、ひっ、あ、あ、やめ、」
 目の前がちかちかと明滅し、口を塞ごうにも両手は男の行動を止めさせようとタルタリヤの髪を握っている。
「ん、ん…っ、………、……?」
「言ったろ?自分でイくかおねだりするか、って」
 あと少しで絶頂を越すというところでタルタリヤは顔を離した。自身の手についた蜜を舐めながら愉しそうに笑んでいる。
 ぐっと唇を噛んで顔を背けるに、「今自分で触ればすぐイけるんじゃない?」と声をかけるが、は目を合わせようとしないままだ。それも当然だろう、おねだりにしろ自分で触れるにしろ、従えば快楽に興じたことになる。
「…あ、なたこそ…どうなんですか」
「うん?」
「ずっと…見ていて、あなたこそ…い…いれたいんじゃ、ないですか」
 目は合わせないままぼそぼそと呟かれた言葉に、タルタリヤは少しの間を置いて笑い出した。
「はは、いや、まぁね?うん、それも気持ち良さそうだけど。俺は別に自分で処理できるし、入れなくても射精は出来るんだよ?」
「……っ」
 笑いをこらえながら、椅子に固定していた拘束を解く。力の抜けたの体を軽々持ち上げて机に横たえさせると、脚を揃え太ももをぴったりとくっつけて、その付け根の隙間へ露出させた陰茎を挟んだ。
「こういうことも出来る。俺は気持ちいい」
「…っ、………っ!」
 散々に弄んで潤ったそこを掠めながら腰を前後させていれば、直接的ではない刺激にもどかしくなったのかの目尻に雫が溜まる。指を噛み声を抑えながら、涙を振り払うように顔を背けた。
「ああ、ほら。ほしいならほしいって言わないと。こっちは物欲しそうに吸い付いてくるよ」
「き…っもち、わるい…ことを…っ」
「素直じゃないなぁ」
「んっ、く…ひぅっ?」
 にゅる、と。一瞬だけ陰茎が侵入する。わざとだったのか、タルタリヤはニヤニヤとを見下ろしていて。思わず出た声に悔しげに睨み返した。
 何も懇願がないまま、タルタリヤは行為を続ける。ゆっくりと、けれど強く押し付けて動かしていれば、陰核に触れるせいかもじわじわと登りつめていき、けれど理性がそれを押し留めていた。ゆらゆらと腰が揺れていることには気付いていないのだろう。
 羞恥と快感に惑いながら否定し拒絶し、泣きそうになっても耐えようとしている。そんな中恨みがましく見上げてくる瞳に、タルタリヤはごくりと喉を鳴らした。
「…仕方ない、なぁ。今回は俺の負けでいいよ」
「ふぁっ、ん、はっ──…ぁ、」
「ン…っ」
 その顔に弱いんだ、という言葉は、果たして喉から出ただろうか。
 両足を肩に担ぎ、勢いよく己を突き入れた。奥を叩きつける強い衝撃にの意識がわずかに飛び、体感で遅れてゾクゾクと快感が駆け巡る。身を抱き締めて耐えようとする彼女に口付けて、律動を始めた。
「ァ、あ、まっ、まって、いま、いまいってる、から、」
「すごかったね、俺も持っていかれそうだったよ」
「ん、くぅ…っ!は、あ、やめ、やめて…」
「おねだりも出来ないのに我侭は言うんだ、そんなので止めると思う…?今君とてもいい顔してるの、自覚あるのかな」
 普段なら絶対に見せない、蕩けた表情。眉の間のシワは消え、肩で呼吸をしながらぼんやりとタルタリヤを見上げている。そんなを愛おしそうに眺め、身を屈めて深く深くキスをした。珍しく反抗的な目もしない様子に笑みを隠しながら、何度も自身を押し付け止まない収縮に搾り取られるように白濁を吐き出した。
「つくえの…」
「ん?」
「机の、下の引き出し。薬、とって」
 若干嫌そうに眉を潜めたものの、放心に近い状態で成されるがまま椅子に座り直される。そうして出された指示に己を仕舞いながら従えば、不卜盧の薬包紙がいくつかあった。受け取って水もなく口へ含んだを見ていればじとりと睨み返される。
「それ何」
「何って…避妊薬以外に何があるんですか」
「……ふぅん……」
 面白くなさそうに声を漏らしながら、がたがたと机の他の引き出しを開け、ちゃっかり用意された清掃道具で散った体液を拭き取り始める。
「…
「なんですか」
「やっぱりそういう気の抜けたところは直した方がいいよ」
「はぁ…?」
 自分がそういう目で見られているという自覚があるのか。…その防御が緩いところにつけ込んでいるので、文句は言えないのだが。