風采迎合、怯懦蹂躙の恍惚

巧言令色・やめておけ



 ぼんやりと気配を感じて目を覚ます。けれどいつもの事ながら腕の中にあの子の姿はなく、妙な消失感と共に身を起こした。自分の感覚からすると妙に広く感じる最上級の一室で、タルタリヤは頭を掻きベッドの上に座り込む。
 そうしていると、誰かの気配に気がついた。ひょっこり壁から顔を出したのは紛れもなくあの子─だ。
「何ぼーっとしてるんですか。今日は働いてもらいますよ」
 両手に皿を一つずつ携えたは、怪訝にしながらタルタリヤに差し出す。茹で卵と野菜のサラダだ。
「同じ白駆逆旅でもグレードが違うと設備も違うんですね。私の部屋はシャワールームはついてますけど、キッチンはありませんから」
「…璃月の富豪は年単位で借りる、…というか住んでいるからね。ありがとう、美味しそうだ」
 礼を言うとは思っていなかったのか目を丸くして、は居心地悪そうに肩をすくめてベッド脇の椅子に座る。丁寧な仕草でサラダを口へ運んでいるのを見ながら、タルタリヤも大口で野菜を平らげていく。これといって調理の手間がない料理ではあるが、気にしていなかった冷蔵庫の中にあったもので作られたことを考えると、きっちりとした加工が成されているのはよく理解出来た。
「いいお嫁さんになりそうだね」
「突然なんですか、気色悪い」
 そんなことよりも、と一足先に食事を終えて今日の予定を話し始めたの言葉を耳に通し、皿の底に溜まったドレッシングを絡めながら残り一口の野菜をつつく。
 この関係にも慣れたのか、特に思うところもなさそうに淡々と告げていくに対して、その能面にも見える表情の下で、タルタリヤは湧き出る感情を必死で抑え込んでいた。
 ─…この子が朝ここにいる時点でかなり嬉しい。
 いや、確かに顔を真っ赤にしながら恨みがましい目で睨まれるのも、征服欲が湧いて大層興奮するのだが。別に体だけの関係みたいになって虚しいとかそういうのではないのだが。
「…聞いてますか」
「うん。遁玉の丘だよね?」
「天穹の谷です。天穹の谷にいる先遣隊です」
 まったく、と呆れるの表情はずいぶん感情が出ているように見えて。
「何をニヤニヤしているんですか、気持ち悪い」
「散々俺に啼かされたくせによく言う」
「なっ…かされてなんて、ません」
「昨日はとても気持ち良さそうだったよ?」
 素直に可愛かったと言えばいいのだろうが、そこで素直になれれば苦労はしていないし、実際可愛いと言ってもは怪訝にするだけだろう。いや、何を言っても嫌な顔をされるが。
 空いた皿を取りキッチンへと運ぶ。また居心地悪そうな視線を送られつつ、慣れた手付きで皿を洗い片付けた。気付けばは少し後ろでそわそわとタルタリヤを見上げていて、振り向けばぱちりと視線が合う。
「……ねえ、
「今度はなんですか」
「舐めてくれる?」
 それまでの困ったような顔から一転、至極嫌そうな、基軽蔑の眼差しをタルタリヤに向ける。もう慣れたものだ。
 頭痛を抑えるようにため息を付きながら、は膝立ちになり、タルタリヤのルームウェアの下をずり下ろす。すでに勃起したそれに眉を潜め、そろりと指先で触れた。
「朝から盛って恥ずかしい人ですね」
「まぁ、うん、ごめんね」
「……やけにしおらしくて気持ち悪いです」
 怪訝にしつつも丁寧に手でさすり唇でなぞる。はじめはひたすら困惑を見せていたのにずいぶんな成長だ。特に教えてはいないのだが、彼女は勤勉だからどこかで学んだのだろう。本来ならタルタリヤが教え込むものなのだが、あの反抗的な目を見るとどうにも昂ぶってそんな余裕がなくなってしまう。
 そんなは最近、舐めてくれという要望に対しては嫌そうな顔をするものの従順に従うようになっていた。前は臭いだの汚いだの気持ち悪いだのと散々な言いようだったのだが──閑話休題。
 赤い舌を覗かせ、融けかけのアイスを舐めるようにぺろりと動かす。凹凸を確かめるように辿り、やがて亀頭を小さな口に咥えるとその中でぬるりと這い回った。
「ん…ぐ、ぅ…んん、」
「………、」
 頑張っては、いるのだろう。回数を重ねるにつれて確かに上達してると思えるし、傷つけないよう丁寧に、そして満遍なく触れている。嫌そうな顔でもタルタリヤの様子をうかがって探ってもいる。完璧主義な彼女らしい成長だ。そもそも無理やり奥に突っ込まれるのが嫌でそうしているのだろう、けれど。
 自分のために頑張ってくれているのだな、などとぼんやり思う反面、やはりどうしても、時折声を漏らした時に少し得意げになられると─加虐心が。湧いてしまう。そこを我慢して、素直に褒めれば好感度も多少上がるだろうことを頭では理解しながら、タルタリヤは目を細めて言葉を吐き出してしまう。
「下手くそ」
「……っな、んですか…突然」
「必死に学んでいるようだけど、全く上達しないね?」
「そ、……っ」
「何で学んでるのか知らないけどさぁ、俺を喜ばせたいなら俺に聞くのが手っ取り早いんじゃないかな」
 は目をそらして、「喜ばせたいわけじゃありません」と苛立ちを抑えたように返す。
「あくまでも、手早く…終わらせるための…」
「どれくらい時間かかってるか測ってる?早い人はそれこそ数分らしいよ」
「…貴方が遅漏なんじゃないですか」
「あれ、自分が上手いと思ってるんだ?」
 顔は背けたままだ。ひとつ息を漏らし整えの頭を掴む。
「先端だけ口の中いれても俺はさほど気持ちよくないよ。これがベッドの上で、君が恥ずかしがるのを見守るようなプレイなら、それでもいいんだけど─…丁寧に丁寧に俺のを愛でてくれるのは、とても嬉しいけどね?」
「愛でてなんか…っ!」
 羞恥と悔しさで声が上ずって、タルタリヤの愉悦に満ちた瞳と目が合いぐっと押し黙る。
 決して喜ばせるためではなかったが、男の欲を発散させるために恥を忍んで春本を入手したというのに、いったいどうしろというのか。
 男を喜ばせるのに、春本では、喘ぎ声を出すとか、気持ちいいと伝えるとか自分から腰を動かすとか─のプライド的にとても行えないものばかりで、そんな中唯一これなら、とちょっと真面目に取り組んだというのに。
「ああほら手を休めるなよ、いつまで経っても終わらない。それとも一日ずっと咥えていたい?」
「ふざけないで…!」
 ぺちぺちと陰茎を頬にぶつければ、恨みがましい目でタルタリヤを見上げてまた手指でそれを握る。荒い呼吸で口に含むのを見計らって、の頭を掴み勢いよく押し付けた。
「っふ、んぐっ、っ──!」
「素早く終わらせたいなら、上でも下でも好きに使ってくださいって言えばいいのに」
 好きな女に言う言葉ではないよなぁと頭の片隅では思うものの、悔しそうに涙を滲ませている顔がとても甘美に感じてしまう。いやらしい水音に場を支配させながら、の頭を前後させて喉奥を叩く。もはや恥などではなく呼吸のしづらさや喉を拓かれる不快感による涙だろうが、どちらであっても興奮を高めることに変わりはない。
 タルタリヤの服にしがみついてどうにか腰を抜かさずにいるが、いつその力が切れるかもわからなくなって。やがて口いっぱいになったそれがぶるりと震え、小さなうめき声と同時に白濁が注がれた。
 口の端から白く濁った体液がこぼれ床にぽたぽたと垂れていく。ずるりと引き抜かれるとはぺたりと床に座り込んだ。
 悔しさやら恥ずかしさやら苛立ちやら、綯い交ぜになったよくわからない感情に、口元を拭いながらも無意識に涙が溢れ始めた。
 口の中に残る苦い味を今すぐ吐き出したかったが、そうすると朝食ごと出てきてしまうだろう。
「…、──…」
「………」
 何かを言いかけて、口ごもる。は涙を零しながらも無表情に手際よく片付けを始め、タルタリヤはそれを静かに眺めていた。
 …しまった、つい。ごめんね。そんな言葉が喉から出てくることは、果たしてあるのだろうか。