行雲流水・ほだされている
おかえり、と軽く片手を上げた男は、が持っていたいくつかの荷物を奪うように持ち去った。その中にはいくつかの手紙や書類、生活用品などが入っている。
「…お疲れ様です、公子」
声を返せば公子はを一瞥して微笑むと、隣に並んでゆっくりと歩き出した。今日はこのまま宿に向かい、銀行には顔を出さない。仕事の話は明日だが、プライベートのことは今のうちでもいいだろう。足を止めて荷物から目当てのものを取り出し公子に渡す。家族からの手紙に、公子は一層笑顔を見せた。そのまま伝言を渡せば、嬉しそうに「そっか」と零す。なんだか面映くなって、向けていた視線を正面に戻した。
宿に着き、扉の前で荷物を受け取る。言葉はなく、周りの喧騒が遠く聞こえるだけだ。そのまま背を向けて扉に手をかけた。
「」
無言のまま、扉を閉じようとして。熱っぽい声で名を囁かれ、がちゃんと鍵が締められた。
扉の内側では荷物を取り落とし、男に呼吸を奪われている。差を埋めるために身を丸め、後頭部をゆるく抑えて、タルタリヤは無心に唇を這わせた。薄く開いた口内に舌を割り込ませ蹂躙する。行き場に迷う手は困惑したまま、押し返すつもりで男の服に縋った。
「…は、ぁ、んっ…ん、ちょ、っと…さかり、すぎ」
「一週間は長い」
「めいわく、かけない程度に…好きに発散すればいいのに」
「いまさら以外を抱きたいとは思わないよ」
どういう意味か、などと聞く度胸はなかった。相変わらずこの男に乱されていると頭の片隅で思っていれば、黒の手袋に覆われた無骨な手のひらが次第にの衣服を解いている。まだシャワーも浴びていない─と困惑し、とっさに声を張り上げた。
「まっ、待ちなさい!」
「何、雰囲気読んでよ」
「こ、行為は、そんな、好き勝手に…っ」
「君が俺に預けた仕事はきちんと片付けてあるよ」
「確認してな、」
「今日はもう仕事しないんだろ?なら、一週間おとなしくしてた俺にご褒美をくれてもいいよね?」
言葉の抵抗も意味は成さず、服の前面ははだけさせられ。雪国仕様の衣服のまま璃月を歩いていたためか汗でしっとりと濡れた素肌に男の手が触れた。
「…せ、せめて、シャワーくらい、」
「やぁだ。いまさらだろ」
壁に押さえつけたまま乳房を掬い、唇を寄せる。一週間触っていなかったからか埋没気味の芽をひっぱり出して噛みつけば、は痛みと紙一重の刺激に眉を寄せた。
「あは、いい子いい子」
「……ンっ」
ピン、と突起を弾かれ思わず声が漏れる。神経の集中する場所を強く弄られては痛みを感じるものだというのに、はもう随分と、それを快感として覚えてしまった。硬度を増した乳頭を摘んでは引っ張って、タルタリヤは人の気も知らずに好き勝手に愛撫を続けている。
小さな声に男はにんまりと笑って、さらに衣服を脱がしていく。腕に引っかかっているだけにされ、は壁に体重を預けて必死に口元を結んでいた。
「、後ろ向いて、壁に手ついて」
「はぁ…?」
「いいから、ほら」
成されるがまま、力の入らない脚を叱咤して背を向ける。背後から絡みつくように抱きつかれ、ぬるりと内股に熱いものが触れた。
「も欲しかったんだろ?胸しか触ってないのに」
「ば、かなことを…っひ、」
「こんなにぬるぬるで…ほら、もう入っちゃった。奥まで一気に突っ込んでみる?」
「いや、ぁ…っ」
「でも物欲しそうに締め付けてくるよ。どうする?…このまま奥を突かれるか、それともいつもみたいにちゃんと愛撫してほしい?二択だよ、好きな方を選んで」
止める、という選択肢など用意するはずもない。は熱に浮かされた頭を必死に回すが、どちらも嫌、しか思いつかない。しかし首を振ったところでタルタリヤは好き勝手に蹂躙するだけだろう。それは今までのことでわかっている。
好きにしろ、とか。何でもいいから早く終わらせろ、などと言った時には、面白くなさそうにしながらも、が泣き出すまでいじめ始めるのだ。
ならば、と小さく唇を震わせた。
「…や、優しく…して。い、いたいのは…いや」
「……うん?」
「……っ」
羞恥を我慢して言ったのに。タルタリヤは不思議そうに聞き返す。それは用意された選択肢とは少し違う答えを返したからなのだが、の言葉の意味を組み取れたのか、タルタリヤは次第に口角を上げた。
「──ああ。うん、喜んで。優しく、優しくね。じゃあまずベッドに行こうか?」
体勢を変えて軽々と抱きあげられ、慣れた足取りでベッドルームへ向かう。丁寧にベッドに組敷かれ、何を言う間もなく唇を重ねられた。逃げようとする頭をやんわり掴まれ、執拗に舌を絡める。どうしてこうもキスに飽きないのだろう、などと頭の片隅で思うものの、それを聞く余裕も、答えを考える暇もない。
「…でもさ、。俺はいつも俺なりに優しくしてるつもりなんだけど、は何をしても嫌とか気持ち悪いしか言わないよね」
「ん、ぅ…?」
「だからがどんなふうにされたいのかわからないんだ。優しくしてほしい、なら、君がいやがることをするのは優しくないものね?」
意図を読めず目を細める。にっこりと笑みを返され不審に思っていれば、タルタリヤは舌なめずりをした後身を屈めた。
はだけた服を完全に剥ぎ取って、普段は脱がない男もその肌を晒した。タルタリヤのあどけなさが残る顔つきからは容易に想像し難い逞しい肉体だ。いつもは見ている暇と余裕がなかったせいで、まじまじとそれを見るのは初めてで、は思わず見惚れていた─すぐに気付いて顔を背けたが。
「何、かっこいい?」
「…ば、ばかなんじゃないですか。せ、戦士が…素肌を、そんな、人前に晒すなんて、」
「二人きりだし、いまさらだろ。…触ってみる?」
「触りませんっ」
残念、とおどけながら、無骨な手指での豊かな胸に触れる。形をなぞり、時折力を加えては寄せ、特有の柔らかさを堪能していた。
強く唇を引き結んで平気そうな顔を繕うに、タルタリヤはまた笑みを返す。乳頭をつまみ上げ刺激を与えれば、油断をしていたは思わず悲鳴にも似た嬌声を漏らした。
「ふぁっ、あッ」
「気持ちいい?」
「ぁ、んっ…!な、い…!よく、ないっ」
「へぇ」
否定の言葉にタルタリヤは手を止めると別の場所に触れた。時折キスをしては、からは見えない場所に肌に朱い跡を散らし、舌を滑らせる。腰を撫で、内股に吐息をかけて、今度は陰核を引っ掻いた。触れる度には「いや、」と声を漏らすため、タルタリヤはついぞ困った顔を向ける。
「は、っあ、」
「どこもイヤイヤって、なら何処がいいのか教えてくれる?」
「ど…こも、いや…っ」
「わがままだなぁ。なんで嫌なの?こんなに腰震えて気持ち良さそうにしてるのに」
ぷい、と顔を背けて、は口元を引き締めた。何故嫌か、なんて。そもそも好きでもない男と行為をしているだけで嫌だし、好きでもないはずなのに体が反応してしまうのも嫌だし。全部嫌なのだ。
「ねぇ、」
「…私の、体のこと…なんて、私より知ってる、くせに」
嫌ではあるが、認めずともすでに快楽に負けている自覚はある。意地悪ではあるけれど、大切なものに触れるように愛おしそうに撫でられれば、どうしても。
だから絶対に、自分から言ったりはしないと誓った。けれど男の─タルタリヤのことを、これ以上拒絶はしないでやろうとも、思った。
とはいえそれはそれだ。行為中のやり取りにおいて簡単に言いなりになるつもりはない。自身のプライドと性格の問題だ。
「…じゃあ俺の判断でやっていいね?安心して、今日は意地悪しないよ」
「どの口が…っきゃ、」
の言葉をどう受け取ったのか、タルタリヤは舌なめずりの後に女の体を転がした。うつ伏せにさせて後ろから抱き込むと、腰を持ち上げさせて脇から手を滑らせる。するりと恥丘を撫で割れ目に触れると、蜜を絡めながら指を挿し込んだ。
「っぁ、う、」
「ほら、ここ好きだよね?」
「ちが、んっ」
「俺の指を締め付けて、とろけさせておいて?腰動いてるよ」
枕に顔を押し付けているの首筋に吸い付いて噛みつけば、ぶるりと白い肩が震え、息を呑む声が聞こえた。
「いつも挿入るまでイくの我慢するのに指でイったね。も溜まってた?」
「うるっ、さっ、い…!」
「仕方ないなぁ」
何が仕方ないというのか─は頭の片隅で思うものの、それについて考察するほどの余裕はない。
先程から自分の内股に擦りつけられていた熱い肉棒が陰核を掠める。数度いりぐちを滑り、耳元で男の甘い声が囁かれた。
「、息を呑んでさ…挿入れられるの、期待してただろ」
「し…て、な」
「吸い付いてくる。ナカも震えて…はは、気持ち良さそうだ」
耳を噛まれ、そちらに意識を奪われていれば、じれったくうろついていた陰茎がの体の中へと侵入する。ゆっくりと、しかし遠慮なく突き進み、ぴとりと密着した。普段ならばそのまま激しい抽出が始まるところが、最奥を擦るように軽く揺らすだけで、タルタリヤは女の首筋に唇を這わせていた。
「─っは、ァ…っ」
「気持ちいい?」
「っはぁ、はっ、う」
「激しく突いた時の、快感に怯えて泣いてるの顔が俺は好きだけど。君はこういう、じれったいのが好きなんだよね。考える余裕が出来て、これが快感なんだって理解して、感じてる自分が恥ずかしくなって、余計に気持ちよくなっちゃうんだよねぇ?」
「ちがっ、っん─…はっ、あ…っ」
じわりじわりと胎の奥に熱が籠もる。快感を逃がそうと身動ぐことで、身の内に咥え込んだモノの熱さと形が妙に感じ取れてしまい、余計にの頭を痺れさせていた。
傍らでは胸や腹に触れ、服を身に纏っていない素肌から直接体温を分けられる。作業だと割り切ろうとしていたにとって─少なくとも今のふやけた頭では、その温かみは不思議なことに、快感への助長となっていた。
「っん…はぁ、はは、気持ちいいんだ?締め付けすごいよ」
「ッあ、ちが、ちがう…っや、あ、──…っ!」
揺さぶりが少しだけ大きくなったと思えば、子宮を潰すように奥へと強く押し付けられた。溜まりに溜まった快感が溢れ、頭のてっぺんからつま先まで駆け巡るように全身が痺れた。しばらく収まらず、けれど普段のような荒々しさがなかったせいか、目の前が白く弾けるような強い衝撃はなく。自身の身体が長く震えていることに、は混乱と羞恥で熱が上がっていた。
こつん、と再び奥を叩かれ、また背筋を震わせる。ごつん、ごつん、と揺らされて、まるでその度に絶頂へ押しやられるような感覚に、がそれまでなんとか立たせていた腕から次第に力を抜かれ、ベッドへと沈んでいった。
「んん、ん…っああ、気持ちいいね、。突く度に震えて、締め付けて」
「…っは、ァ…っや、やだ、も…」
「何?」
「や…っも、それ、やめて…」
快感と揺さぶりで頭が痺れる中でどうにか言葉を絞り出すも、タルタリヤは動きを止めずに身を屈めてつむじに口付けるだけだった。
「やだ、も…おかしくなる、やだぁ、」
「…じゃあ素直に気持ちいいって言えよ、そうしたらやめてあげる」
ぼやけた頭でもその要求が、本来にとって絶対に認められない内容であることは理解出来た。故に言葉を詰まらせていれば、休んでいた手が乳房に触れ。それが均衡を崩したのか、の唇が震えた。
「……気持ちっ、いいっです、気持ちいいからっ、もうやめっ、でちゃ、」
「気持ちいいなら止める必要ないよねぇ?」
「な、──っあ、やぁああ…っ」
一気に引き抜いたと思えば、の体を転がし、仰向けにさせた後、真っ赤な顔ながらも呆然とするの膣口に再度陰茎を挿入する。先程までとは違う箇所への強い刺激に、普段ならば口を噤んで耐える大きな絶頂を、あられもない声でタルタリヤへと知らせた。
おおよそ初めて耳にするその甘い声に、当のタルタリヤは勿論興奮を抑え込めるわけもなく。の反応を見るためだけに堪えていたものが、白濁となって吐き出された。
「─ふ、ぅう…っや、もうやだぁ…」
「っはァ……あれ、、漏らしちゃったんだ。そんなに気持ち良かった?」
厳密には尿のようでいて尿ではないのだが─ちょろちょろとタルタリヤの腹にかかる液体に、恍惚気味に口角を引っ張った。快感の果てにあるものだと詳しく知る由もないは、羞恥から逃げるように涙を零す。その雫を舐め取り、顔中から首筋へと口付けた。
「…っ、も、やめ、抜いて、」
「もう一回」
「─っ貴方は、一度しかイけてないかもしれませんけど!私はもう疲れました、この遅漏!」
「──……へぇえ?優しくしてって言うから優しくしたのに、わざわざ俺を怒らせるようなこと言って…やっぱり本当は激しく抱かれたかったみたいだね?」
ついつい口に出た言葉に、はすでに青褪めている。
「…あ、いや、ちが、ぁんっ」
「君がそのつもりなら、溜まってた分全部出してやるよ。ああ、何回イくか数えておこうか、時間も数えておく?二度と人のこと遅漏とか言えないように」
「ぅう、いや、」
二人分の体液を掻き出すように、じゅぷ、と淫らな水音をたてながらゆっくり引き抜いた。白濁にまみれたそれを陰核に擦り付け、痙攣し脱力したの上体を起こし、自身の膝の上に乗せる。
「…や、やだ、これ、やだ」
「は座位好きだよね」
「好きじゃない、もうやだ、」
「俺は好きだよ。間近でが感じてる顔見れるし、抱き着いてくれるから」
「やだやだ、も、ぁあっ、あっ!」
いりぐちに宛がえば、あとは自重によって勢いよく根元まで突き刺さる。背筋を駆け上る快感に、もはやは自分を取り繕うことも出来ず声を漏らし打ち震え、男の肩に載せていた手指の爪は皮膚に食い込んだ。「肩じゃなくて背中がいいなぁ」などというタルタリヤの言葉は聞こえていないだろう。
「ほら、呆けてないで動いてよ。遅漏の俺をさっさと射精させてくれる?」
「もうやだ、やだぁっ」
「駄々こねてないで、ほら。人を遅漏呼ばわりするくせに自分は何度もイって、こそ淫乱なんじゃないの?」
「ちがっ、ちがうっ!ちがうもんっ!あなたのせいで、こんな!」
真っ赤になって眉尻を釣り上げることすら出来ていない表情で言葉を荒らげられても、タルタリヤにとって恐怖は生まれない。仕方ないなぁと笑みながら深く口付ける。
「なら今度からはちゃんと、気持ちいいときは素直に気持ちいいって言える?」
「い…っ、………!」
「ただを抱きたいっていうのはあるけど、俺はにも気持ち良くなってほしいって思ってるんだから」
もっと詳しく言うならば、快楽に酔って蕩けた顔や声を聞きたい、というところなのだが、言えばはもっと頑なに唇を噛みしめて顔を背けることだろう。
口を噤んだままのの腰を掴んで揺さぶれば、憤りの感情はすぐさま溶け消えた。しがみつかれているのをいい事に再度ベッドへ押し倒し、先程までとは違い激しいピストンを繰り返す。彼女の整えられた肌に散らばる汗と白濁は、仕事中の冷たい雰囲気を纏う姿を思うととても淫靡だ。
それに興奮したからなのか、タルタリヤは早々に奥へと吐き出す。一息ついて少しだけ身を離せば、は不機嫌そうに男を見上げている。
「………むりやり、あばいておいて。わたしまだ、ゆるしてません」
「……それを言われると耳が痛いけど」
「そ、うやって…人を、ばかにして…っ」
「馬鹿になんてしてないさ、ああでもしなきゃ君は俺を見なかっただろうし。今はこうやって仲良く愛し合えるわけだしね?」
目を細めて「何を言っているんだ」とばかりの表情だが、やはり威圧感は微塵もない。
「こんなにも俺の手で乱されているを見るのは、とても興奮する」
「……へんたい、」
「男なんて皆そうだよ。好きな子の特別な様子はたくさん見たい、………」
ぽろり、と。溢れた言葉にタルタリヤは目を丸くする。
「………、」
「……ふん。もういい加減にしてください、明日の仕事に響きます。これ以上は契約違反です」
などと強い語気で言っているが、身体は動かないらしい。膣口から白濁を垂らし、まだ少し荒い呼吸で睨んでいるが、散々した後でなければ誘っていると判断出来る有様だ。
「シャワー、行こうか?」
「……連れて行く栄誉をあげます」
喜んで、とを抱き上げ、二人はシャワールームへと消える。そこで続きが始まるかは、彼女次第だろう。