01
ようやく自分の住むトリグラフに戻ってくることができた。慣れた街が一番安心するよね、と話しながら駅から出て自分のマンションに向かう。自分の部屋まで入り食事の準備をしようとした時エルがトマトが嫌いだという"主張"に気を抜かしつつも、三人分のご飯を作った。
食事をしながらエルの父の事を聞いたりしていると、呼び鈴もなしにビズリーが訪ねてきた。
「ビズリーさん!無事だったんですね」
「ああ…私は、な」
意味ありげに言うビズリーに首を傾げていれば次の瞬間天井から何者かが俺に攻撃をしてきた。自室の中という安息の空間であったがゆえの油断のせいで反応が遅れ、防御する間もなく俺は地面に倒れこむ。
すぐさまジュードが捕らえてくれたが―どうやらジュードの顔見知りのようだ。イバルというらしい。
「はっはっは、面白いなイバルくん。その愛嬌を買って雑務エージェントとして雇おう」
「くっ…。ありがとうございます」
一応敵ではないと判断したジュードが手を離し、イバルは身なりを整えながらそう礼を返す。…一体、人の家に何をしに来たのだろうか。
「…何のマネですか?」
「状況がわかっていないようだな」
ビズリーの言葉に秘書がテレビの電源をつける。俺達が巻き込まれた列車テロについてのニュースだ。列車衝突により目的地であったアスコルドという場所は全焼、関係者が合計で2000名以上の死傷。身近で起きたそんな事件に息を飲んだが、それよりももっと重要な事はその後伝えられた。
『テロ首謀者として、クランスピア社社員"ユリウス・ウィル・クルスニク"を全国に指名手配しました』そのニュースと共にイバルが手配書を見せてきた。…手配犯の覚書は、ずいぶん粗末なものだけれど、それどころではない。
ジュードが誤解を解こうと口をはさむが、ビズリーは落ち着いた態度で返す。
「あの状況で私に斬りかかった男が無実だというのかね?」
「警察は複数の共犯者がいると見て、関係各所を捜索中です」
「―当然、君は最重要参考人だ」
その言葉と共にイバルはもうひとつ紙を見せた。…俺、と特徴の似た落書きの描かれた手配書だ。
「エルもルドガーも、関係ないってば!」
「容疑者の弟が事件の日に偶然駅に勤め、列車に乗り込み、容疑者と一緒に消え去った…。これを信じろと?」
「信じてよー!」
「事実なら証明してみせろ。ユリウスを捉えれば、真実は明らかになるだろう」
至極真っ当な意見に聞こえてくる。…いや、誰が聞いても、ビズリーの言葉が正しいと思うだろう。
しかしユリウスは、俺があの槍で―そう思っていれば、ビズリーは腕を組みながらにやりと笑う。
「あの男は生きている」
「数時間前、社長のGHSに連絡が入りました」
「我が社のトップエージェントだ、警察に捕まるたまじゃない。…が、身内になら隙を見せることもあるだろう。どうだ?やるというなら、警察は私の力で抑えよう」
交換条件だ、とでもいいたいのだろう。自社のトップエージェントでありながら裏切り犯罪者となったユリウスを捕まえる代わりに、その兄の尻拭いとばかりに警察に追われる身となってしまった俺を保護する。
俯いて考えて、俺は頭が痛く感じながらも頷いた。やるしかないのだろう。どうせユリウスには話して確認したいこともあるのだし、無実を証明するためにもそれしかない。その間だけでも身分を保護してもらえればよいのだ。
迷いがないな、とビズリーは褒めるように頷いた。ジュードは心配そうにしているが、仕方ないのだと苦笑すればジュードも黙るしかないと口をつぐんでくれた。
「これで君はクランスピア社の保護下に入った」
「現在の有力情報は三つ。前室長は、ヘリオボーグのバランという研究者と交流があったようです。またマクスバードで執拗にユリウスについて探る人物が目撃されています。さらに―最近行方不明の噂がある、ヘリオボーグ研究者の一人である・カートライトと共に行動しているところを、様々な場所で目撃されています」
二人の研究者の名前にジュードが驚く。なんで、と小さく呟いて顔色を変えていた。
一度に言われてもわからない、と怒ったように主張するエルに代わり、要はヘリオボーグとマクスバードに行けということか―とジュードが確認する。そんな中でもジュードは強張った顔でビズリーを見ていた。
ヘリオボーグとマクスバードといえば隣街で、列車に乗る必要がある。またある程度制限が解除されるまで借金を返さなくてはならなくなったのだ。それに気付いたエルが聞こえるように「また、お金が必要になるかも…」とつぶやけば、部屋を出ていこうとしていたビズリーが挑発的な態度で半歩振り向く。
「結果も示さず報酬を求める…ユリウスは、君をそんな風に育てたのか?」
…本当に性格が悪い。言葉に詰まっている間にビズリー達は出て行った。