まさに、死屍累々…というほど死んでもいないけれど。大精霊クロノスは、骸殻能力や、歴戦のジュード達を持ってしても倒せなかった。どころか「汚れてしまった」と俺達の全力の攻撃もまるで意にも介していないようだ。
抵抗の余力も無くしてしまっているのをわかっているのかどうなのか、クロノスは軽く首を鳴らしたあと、右手を振り払う。簡単な動作のはずがその一瞬で青い光のようなものがこちらへ向かってきていた。
エルが不安に顔を歪め、今にも泣きそうだ。エルを抱きかかえながら、どうしたものかと考えている暇すらない。死んでしまうのか、それとも一人どこか分からないところへ飛ばされてしまうのか―一瞬のうちに思いを巡らせている。
しかし、衝撃がやってくるまでの一瞬が、一瞬にしては長い。
「―ユリウスさん!?」
飛び出た名前に恐る恐る目を開けてみれば、そこには襲い来る攻撃を受け止める兄さんの姿があった。
――そして。
「探索者に…逃げ惑う臆病者か…」
クロノスは冷たく告げる。
「ルドガー、ユリウスに時計を!」
「―…ッ!」
ここまでやってきた仲間たちのものとは違う声に身を震わせるも、考えるよりも先に俺の時計を差し出した。時計ごと俺の腕を掴んだ兄さんは全身を骸殻で覆い、クロノスの攻撃を振り払うのと同時に先ほど奴が出したのと同じような黒い玉を飛ばした。
「ルドガー、こっち!」
「…ッ!?」
女性―が、俺の手を掴んで、黒い玉が作った穴へと向かっていく。
いつの間にか合流出来ていたらしいエリーゼやローエンたちも、考えるより先にエルやルルを抱きかかえて穴へと飛び込んだ。
「…運が良かったな」
§
詳しい場所はよくわからなかったものの、都合よく反対側のリーゼ・マクシアにやってこれたらしい。エルとはぐれてしまったけれど、俺はジュードとレイア、エリーゼ…とティポと同じ場所に来れたらしく、この場所について知っている彼らに頼って、俺は他の仲間との合流のためニ・アケリアという村へ向かうこととなった。
その途中のことだ。いつもどおりの魔物と戦っていたのだが、そのキノコゴブリンの親玉なのか、何回りか大きいやつが紛れていた。親玉が何度も子分を呼ぶせいで、なかなか倒せずに俺達の体力はジリ貧になりかけていた。
骸殻でパパっとやっちゃえば、というレイアの案に乗っかって骸殻を発動しようとしたが、何故か不発。
驚き呆然としていると、キノコゴブリンは今まさに襲いかかろうとしてきていて。
「ぼさっとしないで!」
凛々しい女性の声が届くとともに、キノコゴブリンたちは一掃されていく。女性は剣をしまうと強い語気で言った。
「この辺りは私達の聖域よ。部外者は立ち去りなさい」
そのまま振り返ること無く女性は言ってしまう。ジュードが呼び止めたが、制止せず姿は見えなくなってしまった。
「とにかくニ・アケリアに行こう!」
「ルドガーが変身できないんじゃ、と合流しないともう正史世界に帰れなくなっちゃうんですよね?」
それもそうだ。
案外、俺の骸殻は今重要なポストにあるらしい―なにか考えこむジュードを気にしながら、俺達はニ・アケリアへと急ぐ。