そろそろ応接間を出ようかとなった頃、俺のGHSが鳴り響く。ヴェルだ。
「ユリウス前室長が、回収したカナンの道標を奪って逃走しました」
「なっ!」
「それから、アーストという人物から、フロント経由で伝言を預かりました。お話があるそうで、クランスピア社前にて待たれるとのこと」
応接間に案内すると言いましたが、フロントに伝言を頼んだのは代理の者らしく、そのように。ヴェルは、兄さんのことに関しては、アーストとの用事が終わり次第追って連絡すると言ってくれた。
俺達は目配せをしてから頷き合って、社ビルの入り口へと向かった。
§
ビルの前へやってきて辺りを見回すと、そんな俺達を見て気付いたらしい誰かが、「待ってた人が来たみたいだぜ」という言葉とともに、アーストの名を口にしていた。
「いい話が聞けた。またよろしく頼む」
また一杯やりながらな、とおおよそ王相手にかわすようなものではない会話をしている。
話しかけようとした時、ミラさんを引き連れたレイアが先に声をかけた。エレンピオスの観光案内をしていたようだ。「本当に黒匣で出来た街なのね」と憂いげに、しかし忌々しそうに小さくつぶやいていた。
「楽しそうに話してたね、ガイアス」
「うむ。話してみれば、エレンピオス人もリーゼ・マクシア人と同じだ」
「…、そういえば、俺に用が、あるんだって?」
早々に話題を切り出せば、アースト…は俺とミラさんを一瞥して頷いた。
「ローエンから全て聞いた。お前が元マクスウェルだな」
「いちいち偉そうだけど、誰?」
「偉いんだよ。本物の王様だし」
「それが?こっちは精霊の主よ」
何故か自分が誇らしげにして答えたエルに、ミラさんは鼻で笑うように返す。
そんな様子を見ながら、アーストは腕を組みながらミラさんを見据えてふむ、と唸った。
「確かに分史世界というものは存在するようだな。―単刀直入に言おう、ルドガー、お前が、世界の命運を背負うに足る人間かどうかを知りたい」
なんだ、それ。
静かに真剣に語るアーストに、複雑な感情が沸く。
「俺が、相応しい人間じゃなかったら?」
「斬る」
「ま、当然ね」
「ダメだよそんなの!」
ミラさんもアーストも、迷うこともなく切り返された末恐ろしい返答に、俺は息を飲む。
俺にどうしろというのか。世界の命運とかいわれたって、俺は、俺は。
「俺を分史世界へ連れて行け。お前の行動を見届けさせてもらう」
「…」
「すでにが、お前のそれと同じようなことをしているのだろう。お前に任せられないようなら、クレミアに無理を言ってでも、俺がやる」
興味や好奇心による冗談という顔ではない。怒りもなく、俺を馬鹿にしているのでもなく、自分ならできると調子に乗っているわけでもなく、アーストはまっすぐに言う。
返答にためらっていると、調度良くGHSが―ヴェルからの通信が入った。新しく分史世界が探知されたようで、アーストはちょうどいいとばかりに笑う。
ミラさんもついでとばかりに同行を願い出て。
他のみんなにも連絡をとって、俺達は再び分史世界へと旅立つ事になった。