侵入した先にたどり着いたのはカラハ・シャール、リーゼ・マクシアの街だった。ミラ、ジュード、ローエン、に、何故かどうしてもと言ってついてきたという五名と一匹という大所帯は、中々視線を集めているようだった。
出店を見て回りながら情報収集をすることになる。出身地のような親近感があるというローエンが朗らかに懐かしいと嬉しそうに笑むミラの後ろで売り物を眺めていると、その出店の主人が焦ったような顔でローエンを凝視していた。
指揮者イルベルト。そう呟かれる。過去軍人としてそんな異名で名を馳せていたらしいローエンが頷くと、出店の主人は売り物の載ったカウンターを忘れたかのように突如としてローエンに殴りかかってきた。
「いきなりなにを」
「こっちのセリフだ!どうやって化けたか知らないが、ふざけるな!」
化ける?どういう意味だろう。後ろではらはらと見守りながら首を傾げていると、出店の主人は驚くべきことを口にした。
指揮者イルベルトは、八年前に死んだ―殺されたと。
まさかローエンほどの実力者が殺されるなど。人違いでないかと口にしようとすれば、出店の主人は首をふる。ガイアス王が国葬までして送ったのだから確かだと。
犯人についてはわかっていないという。わかっているのは遺体がエレンピオスのウプサーラ湖に浮かんでいたことだけ。
それらの名称に腕を組んで首を傾げたエルを横目で見ながら、悪趣味な悪ふざけをするならさっさと消えろと叫ぶ出店の主人に追われその場を去ることになってしまった。
一片ながらも得た情報に考察を重ねるローエン達。俺もそれに参加しようと思ったが、遠くで空を眺めているが気になって思わず視線をそちらに集中させていた。
そんな傍らで、この分史世界は自分達の時系列より進んでいる軸だと結論がでて、次の情報を集めるため今度は遺体が見つかった場所に向かうこととなった。しかしはそこで、何やら深刻な顔をして別行動を申し出た。エレンピオスに行くより先にクレミアを探す、と。不満気にしながらも内輪で相談し、ジュードも一応納得したようだ。
ごめんね、と申し訳無さそうにするを見送って、俺達はウプサーラ湖に向かう―前に、気づいたエルの一言で、正史世界で埋めたタイムカプセルがあるか、カラハ・シャールの領主邸に寄り道することになった。
そこには確かに、ローエン達が埋めたタイムカプセルが存在した。中に入っているものまで同じようだ。
「この世界が僕達の世界と途中までは同じ時間軸だったって証拠だよね」
「私の死が、歴史が別れたきっかけなのでしょうか?」
「一国の宰相の死…可能性は高いな」
これらの情報も視野に入れて、俺達は改めてウプサーラ湖を目指した。
§
エレンピオスへ渡るため海停へ着いた。人波、喧騒は変わらず賑わっている。
考察を重ねる俺達の前へ一匹の小動物が駆け寄ってきた。しかし猫とも犬とも違う不思議な耳と尻尾をしていた。なにより輪郭が少しぼやけている。
俺がしゃがみ覗き込むと人懐こくおすわりしたので、そっと頭をなでた。
―すると、エリーゼやミラが精霊術を展開するような立体的な魔法陣が俺を囲む。驚き身構えるも、歩きづめで疲れていた身体から痛みが抜けていることに気付いた。
それを見て一番驚いているのはジュードだ。あんぐりとその小動物を見下ろしている。
「ああ、こんなところにいた!ダメでしょ、勝手にいなくなっちゃ」
飼い主らしき女性が早足でこちらへ向かってきていた。ジュードが感極まったのを必死に抑えながら、女性に声をかける。「それって、源霊匣ですよね?」女性は不思議そうにしながらもうなずいた。
「制御できなくなること…ないんですか」
「まさか!すごくいい子ですよ。たまにやんちゃだけど、ね」
「どこに行けば源霊匣について詳しくわかるんでしょう?」
「それは…やっぱりクランスピア社かな?でも、多分聞いても無駄ですよ。製造と販売を独占してて、秘密主義で有名だから」
ジュードとが必死に研究を重ね、未だ実用化に至っていない源霊匣が完成し普及している世界。ジュードは嬉しそうな顔をしながらも、すぐに険しい表情に戻る。きっと、今までの工程や可能性を思い返しているのだろう。
この世界のジュードたちに聞けば源霊匣完成の方法がわかるのでは、というローエンの言葉に、ミラは女性にジュードの名を聞いた。学校で習うほど有名な人物となっているようだ。
「けど、何年も前に亡くなったのよ、ジュード博士。ほら、大騒ぎになった大量殺人事件。ウプサーラ湖に何体も死体が浮かんだあの事件の被害者」
女性の語る言葉に絶句する。老いが勝ってしまったと言い訳が聞くローエンだけではなく、その程度の差違ならばまだまだ現役だったろうジュードさえ殺されているというのだから。
「…それならば、・カートライト博士は?」
「女史は、たしかマティス博士の奥さんで…マティス博士が亡くなったことで、その、気が触れてしまったって話よ。そんなことは教科書に載ってないから、噂に過ぎないけど…。でも、マティス博士と作り上げた源霊匣を普及させた後からは、研究からも身を引いているらしいわ」
―女性に礼を言って別れると、青ざめるジュードを落ち着かせるような声色でミラは「ウプサーラ湖に急ごう」と次の目的を定めた。