地上へたどり着くとGHSが鳴る。兄さんからだった。
どうやらジュードと、まで一緒に、トリグラフ―俺たちのマンションにいるようだ。大急ぎでマンション前へ行けば、沈んだ表情のジュードがマンション玄関で待っていた。決心ができたら来い、という伝言を託して、ユリウスは今どこかへ言っているらしい。
ジュードはすでに、カナンの地への行き方をユリウスから聞いたそうだ。
その方法。―強い骸殻能力者の命を生け贄に、カナンの地まで魂の橋をかけること。
「つまり、ルドガーかユリウスを殺せば、ってこと?」
「ユリウスはどこにいる」
「…部屋に、さんが待ってるって」
ジュードの言葉に、俺は走りだした。エレベーターを待つのが惜しくて、降りてくるまで何度もボタンを押す。
自室へ勢い良く飛び込むと、静かに座っていたが俺を振り向いた。
何から聞けばいいのかわからない。溢れる感情を抑えこんで拳を握る。
「ビズリーは、エル…”鍵”の力を手にした。こうなった以上、やれることは少ない。
カナンの地へ入るには、強い力を持ったクルスニク一族の命が必要。命と引き換えに魂の橋を架けること…世界のために命を犠牲にできるかが、最後の試練よ。
…ユリウスは、マクスバードのリーゼ港へ先に行って待っているわ。私の話を聞いて、覚悟ができたら…向かってほしい」
俯く俺の肩に手が触れる。温かい優しい手だ。俺を守って死んでいったあの人と、同じ。
…同じ?
分史世界の。
子供をあやすように規則的に叩かれる肩のリズムで脳が冷えていく。 けれどまだ、情報と感情に整理が付かない。
控えめな声でミラたちが部屋を訪れた。にあやされた状態のまま、俺はそのことを認識だけしてひたすら頭の痛さを解消するため思考を巡らせる。
「…ルドガー。今のあなたには選択肢がある」
「ッ…?」
「ユリウスを使うか。私を使うか」
「また!俺を守るフリして突き放すのかよ!」
の肩を掴んで叫ぶ。の瞳は相変わらず、俺を優しく愛おしげに見つめていた。
「…言ったでしょう、ルドガー。私は貴方を守るために今ここにいる。どんな方法でも、それで貴方を傷つけても」
「本末転倒じゃないか!俺はそんなこと望んでない!」
「それでも貴方は選ばなくては行けない。世界を取るか、エルを取るか、ユリウスを取るか。」
「なんでだよ!なんで俺がそんなこと―…」
エル。エルの涙が浮かぶ。
俺だって強要したじゃないか。父親が殺されることを。狂気に満ちていようといまいと、唯一無二の家族であることは変わらない。
力なく腕を垂らす。霞んだ目でを見上げた。感情が、読み取れない。それはが隠しているからなのか、それとも俺がわからなくなっているだけなのか。
「私はね、ルドガー。貴方に幸せになってほしい。…あんな泣きそうな顔じゃなくて、笑ってほしいの。だからホラ、泣かないで」
「…」
「落ち着いて。ね?…少し頭を冷やしましょう。ジュードたち、ごめんなさい、ルドガーを一人にしてあげて」
間を開けて分かったという声とともに彼らが去っていく気配を感じる。は俺を椅子に座らせると、街で何か食べ物を買ってくると言った。アルヴィンがエレンピオスにも普及させたパレンジを買ってくるつもりらしい。
の背に手を伸ばす。もちろんそれは届かない。
あまりにも遠い。兄も、も。エルでさえ。
俺は何のために力を手にしたのだろう。守るためだったはずなのに。
俺ごときの力では、守りたいもの全部を守るなんておこがましいとでもいうのだろうか。
足元で鳴くルルを見る。
俺が絶対に譲れないのは―
▼
だ。
▼エルだ。