この正史世界の最強の骸殻能力者―"ヴィクトル"であるだけあって、ビズリーの拳一つ一つが重かった。奴の手の内を知っているのだろうの的確な補助と、ジュードとの息のあったコンビネーション、そして俺達にかける治癒のおかげでどうにか勝利することが出来た。
膝を折ったビズリーは、それでも一度俺たちに拳を向けた。しかしそれは、俺が最初にビズリーに吹き飛ばされ破壊された俺の時計の代わりに、エルの持っていた時計と直接契約を交わした俺のフル骸殻による鋭い察知によって防がれた。
ビズリーは強い骸殻を使ったためか時歪の因子になりかけていた。あわや時歪の因子のカウンターが回りかけた時、その強固な拳で自分の心臓を潰すと、ふらふらとカウンターに向かっていく。
「オリジン…俺個人の願いを教えてやろう。あの数だけ…この拳で、お前たちをっ―!」
血濡れた拳をカウンターにぶつけると、数拍の間の後静かに倒れた。
「…ビズリー・カルシ・バクー。この男も、己の成すべきことに殉じた者だったな」
いつのまにか到着していたらしいミラの言葉が沈黙に響く。
俺の腕の中で苦しんでいるエルに近づき頭を撫でたは、その後俺を見て頷いた。カウンターに視線を向けたので、俺も込められた意味に気づく。
エルと二人でカウンターに触れる。まぶしい光が溢れ、目を細めていると―扉が開かれた。
奥の虚空に焔が灯ると、白い子供―オリジンが現れた。俺たちのことも知っているらしい。「早速だが頼みたいことがある」と真剣な顔で言葉を紡ぐミラにオリジンは口角を上げる。分史世界のことと魂の浄化の話だ。
本当に限界が来ているのならば私も手伝おう、と言うミラにオリジン驚いてみせた。具体的に魂の浄化とはどうやるのかは知らないが、それは永く痛みを伴うらしい。
「承知の上だ」
「……君は、本当に人間が大好きなんだね」
「ふざけるな!まだオリジンに浄化を強要するのか!―貴様らは、自分の不始末をオリジンに押し付けているだけではないか!」
怒り叫ぶクロノスにオリジンが手をかざす。先ほどビズリーに貫かれた胸部の傷が癒えている。
「ありがとうクロノス。ずっと僕を心配してくれてたんだね」
「我のことはいい!それより、人間たちに斧が罪業を思い知らさねば―」
「…ふふ。君のそういう所、人間にそっくりだ。僕や、マクスウェル、ロードの大好きな人間に」
朗らかに笑ってみせるので、クロノスは罰が悪そうに口を閉じ視線を逸らした。
オリジンは俺たちに視線を向け直し、声色を変える。
「そして、願いを兼ねる権利はそんな人間たちの代表…ルドガーとエル。試練を超えて扉を開いた君たちにあるんだよ。二人で一つの願いを決めて。
全ての分史世界を消去できるし、時歪の因子化だってなおせるよ」
「ダメだよ…分史世界のこと、お願いしないと」
時歪の因子化が侵食した顔で俺を見上げるエルに、ビズリーの言葉が脳裏によぎる。
オリジンに願うか、他の骸殻能力者が時歪の因子化するか。
エルの不安げな瞳に、後ろから呼ばれ振り向いた先のの僅かな笑み。
「俺の願いは―」
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分史世界を消してくれ