278:44:25―この聖杯戦争に関わってやろう、という考えは酷く危ない。
なぜならば、この冬木の地の聖杯戦争とやらには聖堂教会と魔術協会までも関わっている。
噂では、第一回目と第二回目で失敗を繰り返したからこそ、第三回目から聖堂教会より神父が一人監督役として配属されたそうだが…、それもそれでやっかいだ。封印指定を受ける自分が魔術協会に狙われるのはまだ分かるのだが、謂れのない理由で代行者にすら狙われているのだ。
つまり両者の目が届いているこの聖杯戦争に姿を見せるというのは危険にもほどがあるのだ。認識障害の魔術程度は使えるが、それがすべからく有効とはいえない。
サーヴァントが守ってくれればそれでいいのだが保障は何処にもない。現状参戦するということだけは決めた以上信じるしか、あるいは覚悟を決めるしかないのだが。
冬木のホテルで食事を取りながら考える。そろそろ召喚に適するだろう時間に近い、残りをかっ込んで儀式の準備を始めた。
確か、召喚自体は聖杯が行い、参加者はサーヴァントが現界するための魔力の供給を行うだけでよかったはず。
様々なツテのある自分ですら、英霊を呼び寄せることなど出来ない。これを機に是非普段から自分を守護してくれる従者がほしいものだ―という下心から、その召喚の魔方陣に多少の加工を施してから、詠唱を始めた。
「礎に銀と鉄。礎に石と契約の大公。
降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ。
閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する。
―Anfang
告げる。汝の身は我が下に。我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従いこの意この理に従うならば応えよ。
誓いをここに。我は常世総ての善と成る者。我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、…我が願いに手を差し伸べる者よ。抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―」
ちりりと右手に痛みが走る。そんなことを気にしていられないほどに、目の前の魔方陣から風が吹き荒びやがて眩く光る。
煙のような、スモークのような霧を当たりに撒きながら、一人の女が、そこに立っていた。
「問おう。貴様が私を呼んだのか?」
*
目論見は成功したのだろうか。それを判断する術はない。
―問いに対してうなずけば、女のサーヴァントはにこりと笑んだ。
「良し。私はプリースト。正体を告げる必要はないと判断する」
クラスはイレギュラー。…とはいえ、他に七騎確認しなければ本当のイレギュラーかは―基、目論見が成功したかは分からない。
そんな風に考えているのに気付いたのか、プリーストはくすくすと笑っている。一応何事かと聞いてみれば、やはりこちらの考え事に感づいてのことらしい。
「いやな、大抵私を前にした人間はこちらを見下すか救済を懇願するかの二つに分かれるのだが、それをせずに考え事とは、なかなか面白い」
「…それは失礼。この聖杯戦争であなたを召喚した… 。よろしく」
「ああ、心得た。ところで、貴様は聖杯に何を願う?」
突然の問いに軽く拍子抜けしながらも、また少し悩む。困っていることなら多少あるが、聖杯なんてものにかけてまで叶えたいものはない。
そう答えれば、プリーストは少し安心したように息をついた。
「…それが、何か?」
「もしどうしても叶えたいことがあると答えれば、私は貴様を裏切っていたかもしれないな―なんて。
サーヴァント・プリースト。私の矜持に引っかからない範囲内ならば、幾らでも手足となろう、マスターよ」
誤魔化されているようだが、英霊の考え事に興味はない。私はただ、あの夢を頼りに、この戦争に参加するだけなのだから。
269:51:47
222:04:35「時に、まだ戦争そのものは始まっていないのだろう?遊びに行ってもかまわないか?」
まったく拍子抜けだ。
いやにわくわくとした表情でプリーストはそう言い放った。
どういうわけか既に現代風の衣装に身を包み、期待した目でこちらを見ている。
まぁ、別に、呼んだらすぐに来れるというなら、かまない。そう言えば「まかせろ!」と笑顔で姿を消す。早い。そこまで胸躍らせるようなものがこの地にあるとは思えないが、そこは趣味嗜好の差だろう。
サーヴァントが出かけている間に、マスター当人は悠々とティータイム…というわけにも行かず、仕方なく手当たり次第に戦争についての情報を集めているところだ。
といってもそういった方面にツテのないままでは、たいした情報も集まらないのだが。
何より重要なのは、あの夢で見た惨劇だ。轟々とあたり一帯が燃え盛る事態はどのようにして起きたのか。あの男は具体的に誰か。
―何故高々夢ごときにそう考え込むのかというと、ただの体質が原因だ。代を重ねるにつれそういう血が混じったのか、極たまに"本当に起きる可能性のある夢"を見る。どうしてそれだと判断できるかは、そもそも夢を見ないのに見たからとしか言いようがない。
見たところで関わる義務もないのだが、たまにのなかのさらに稀に、数少ない友人がまぎれていたり、単に夢見が悪かったからという感情論もあった。今回の参戦は、夢見が悪かったのもあるし、あの後姿に何かを感じたからだ。
今回の参戦者。分かっている―というか確実だろうのが、この地の聖杯戦争の発端に関わっている御三家こと遠坂、アインツベルン、間桐。
それから元々別の場所で噂を聞いていたのが時計塔講師ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。この男は実はホテル内で見ているから確定だ。
現状分かっているのはこの四組だけ。自身のサーヴァントを本当にイレギュラーとして呼べているなら残り三組いるはずだ。召喚のタイミングも、基本は一昨々日頃には終わっているはず。
すべて推察に過ぎないが、十分な予測だろう。
この程度の材料でこれ以上考え込んでも何も進まないだろう、と決断して、ベッドへと身を投げた。
「……けど…」
思うに、御三家と呼ばれる彼らは生粋の魔術師だ。魔術師とは『根源』と呼ばれるものを追い求めるもの。
そんな彼らが作った聖杯が、外部から魔術師を集め、その魔術師にも聖杯による万物の願いを叶える事の出来る権利を易々と渡すとも思いにくい。
聖杯に不備があり誰かに押し付けようとしているか―あるいは万物の願いを叶えるために七人の魔術師とサーヴァントの力が必要であるか、または何か別の思惑があるか、だ。
しかし考えても埒があかない。もう日も変わる…と今度こそ眠りについた。
221:24:48その日、文字通りプリーストは散歩をしていた。ほぼ初めて歩く道を、目的もなくふらふらと。
サービス品を目当てに飲み食いし、日が上がりかける。寒い時期、遊びすぎた感はある。別段マスターであるから頼まれた聖杯戦争に関する情報は、今伝えてあること以外新たには得られず、地の精霊と念で会話をしながらねぐらへと向かうことにした。
ふと、そこで不穏な空気を感じた。そんな気がしたプリーストは、勘を頼りに順路を変えた。
たどり着いたのは住宅街。静まり返っており、先ほど歩いていた街中の喧騒と比べると逆に薄気味悪いほど―薄気味悪いどころか、なにやら妙な胸騒ぎがする。
既に手遅れかもしれないし、勘違いかもしれない。勘違いであれば一番いいのだが、今起きていることの理由が理由であったりしたらプリーストには手が出せない可能性さえある。
血のにおい。それを頼りにひとつの家に目星をつける。できる限り殺気の立たない警戒をして、玄関扉のドアノブに手を乗せる。結界が張られている様子はないが―悪魔召喚の気配によく似ている。僧侶の側としては受け入れがたい臭いだ。
中の音を確かめる。どうなっていようと、それなりの対処ができるように。
「―ッ!」
扉を開けて視界に入った光景は、外―あるいはプリーストを見て笑顔を向ける少年少女と、その背後に忍び寄る触手。
マスターに指示を仰ぐよりも先に、何か考えるよりも先に、プリーストは子供の手を引きマントの中に隠した。標的としていただろう子供を見失ったその触手は、ならばとプリーストを捕縛すると、強い力で引き摺り始めた。
悪夢が終わっていない、と子供達は悲痛な顔をする。恐らく枯れたのだろう涙は出ていない。
触手に抗うには女一人の力では足りない。マントを子供にかぶせて引き摺る力に従った。
―勢いよくその触手は腕を噛み千切るが、プリーストにとってそれを即座に回復させ反撃することは造作もないことだった。
空いている手の指先を動かせば、空間が揺らめき赤い炎が出現する。直後それは触手を伝い燃え上がった。悲鳴のような音が耳に届く、醜いそれは見る見るうちに炭になって行った。
舞った灰と埃を払いながら、プリーストは一階へと降りた。階段を降りきって廊下に足をつければ、玄関の手前で先ほどの子供達が震えていた。それを一瞥してから、半開きになっていたリビングへ続く扉を蹴り開ければ、今まで感じていた不穏な空気の正体だろう何かがいた。
「あーあ、何てことしてくれちゃってんの。にしても旦那、COOLだったよ!」
真ん中分けにした短髪の青年は頭を掻きながらため息をついたと思えば、奥にいた蛙顔の長身の男に笑顔を向けた。
そいつが持っている本からして―先ほどの触手、基魔物はこいつが呼び出したのだろう。希望と絶望がどうとか、プリーストにまるで興味がないかのように話をしている。
プリーストはそっと部屋を出て、玄関で震える二人に近づいた。マントを返してもらい、何があったのかを問う。しかし幼い精神にこの惨劇は記憶したくないことだろう、混乱で言葉を紡げないでいた。
少女に手を伸ばす。
「―!」
途端、少年が少女を庇うように体を翻した。警戒されたのかと一瞬思うも、それは違うことに気付いて―次の対応をするまでの時間がないことに舌打ちを打つ。
少女をかばった少年は、先ほどの触手とも似た何かに射抜かれていた。庇われた少女は忘れかけていた恐怖を奮い起こし顔色を変える。
プリーストは伸ばしていた手をそのまま少女に近づけ触れると、指先で印を描き背中を押した。「教会へ」そう暗示をかけ見送ると、ゆっくりとその犯人に振り向いた。
「其は何物なるや?その帯たる魔力にしても…キャスターは私です」
「そんな問いはどうでもいい。貴様サーヴァントであるならば名のある武人であろうに、力を持たない子供の命を奪うなど、このような悪道に堕ち恥ずかしくはないのか?」
「恥?―かの聖処女を守ることができなかった私に…いまさら」
蛙顔の男、基キャスターは心底分からないと首を傾げる。その様に眉をひそめ、プリーストは腕を組んで彼らを見た。
「あーのさぁ、あんた何者ですか?ここ人の家ですけど、不法侵入ですよー?いやまぁ俺の家でもないけど」
「…なるほどな。貴様ら揃って、真の快楽のためだけにやっているわけでもないのか。ならば仕方ないと納得せざるをえんなぁ…」
うーん、とプリーストは先ほどまでの怒気を忘れたかのように考え込む、それを目の当たりにしたキャスターと青年は、顔を見合わせて首をひねる。
「そうさな、聞いておこうか。青年、名は」
「あ、雨生龍之介っす」
「そうか、では龍之介。何故こんなことをしていた?」
「え?えっとー死って何かなーって思って人を殺してました」
龍之介の返答に、またプリーストは考え込む。
「死、なぁ…。貴様、本当に分かる気があるのか?」
「もっちろんっすよー!スプラッタ映画とか見ても全然わかんなかったんで、とりあえず本物見てみてるんすけど」
「そう…か。 して龍之介、貴様に家族はいるか」
突如、龍之介は眉根を寄せた。気に食わなさそうに、軽くではあるがプリーストを睨んでいる。彼を守るサーヴァントであるキャスターは、黙って様子を見ていた。
「私の定義する死は、忘れ去られることだ。肉体の死と魂の死は別物であるが、目に見えない魂がどうやって生きるのかとなれば、それは人の記憶に他ならない。赤の他人であればただ話しただけなら記憶になど残らない。しかし愛した者、家族ならば何をしようと記憶に残るのだ。先の質問に答えなかったから分からんが、真の"死"となれば、誰にも知られず生きひっそりと息絶えること。―その顔を見れば、きっと貴様が命耐えれば、死の意味もわかるだろうさ」
「…ぜんっぜん意味分かんないんですけど」
「分からないから探しているのだろう?」
薄く笑ってそう言えば、龍之介はあっけに取られた顔をする。それを知ってかしらずか、プリーストは手のひらに再度炎を浮かべる。呆然とする龍之介を伴ってキャスターが去っていく―それを視界に入れて、プリーストは辺りの魂を祈り、浄化の炎を広げた。
197:35:22英雄王、と口にしたのは、その金色のサーヴァントのマスターである遠坂時臣だった。この地に召喚され早々、アーチャーたるそ のスキルを活用し、姿を現して外へ出歩いていた。
一人バックアップも無しでは危険なのでは…という心配は微塵もないが、時臣にとって不安なのは、単独行動のスキルランクの高 さゆえ念話などをするためのパスを切っていることだった。これでは、もしうっかり時臣が敵により危険に晒されたとき、呼び出す ことができない。令呪を利用すればパスがなくても可能だが、できるだけ使用を抑えたい理由もある。
そのことを軽く説明すると、当のアーチャーは不機嫌そうに時臣をにらみつけた。くどい、と切り捨てても、時臣も譲歩するにで きない立場だ。頭を下げ尊重に扱うとしても、譲れない。
それを理解はしたらしいアーチャーだが、ただ面倒そうに空間を波立たせた。
「それ以上この我に意見を通そうと言うのなら、我直々に貴様を切り捨ててもかまわんのだぞ」
「―…、」
「……?」
宝物庫から剣を取り出し脅しに使おうと思ったアーチャーは、場にそぐわない時臣の気の抜けた顔に気付きつられるように手元を 見た。
確かに触れたのは、剣の、鉄の感触だったはずだ。それを外に引き釣り出したのも間違いはないはず。しかし、そこにあったのは 、アーチャーの手をとりひざまずく全体的にあかい色をした女。
「此度はお呼びくださり光栄に思います、我が王よ」
何事か、と攻撃するべきなのか悩んだ表情で時臣は持っていた杖を握る。
一方アーチャーは、珍しく余裕そうな顔を崩しひたすらに驚いている。しばしの沈黙の後、ニヤリと口角を上げた。
「―面白い。時臣、こいつを暫く貴様の護衛に回してやろう」
「は、王、何故―」
「…感謝します、王よ」
状況をなんとなく理解した時臣は再度頭を下げる。不思議そうにしているあかいろの娘を置いて、アーチャーは姿を消した。
173:22:33それはことの起こる一時間ほど前。
ぽん、と軽快な音が聞こえたかと思えば、そこにプリーストが現れた。やけに笑顔で。
「…頬の汚れくらいとったらどう」
丸一日以上連絡もなしに遊びふけっていたらしいプリーストはその頬に食べかすをつけていた。この一日、何もなかったので思わずホテルのバイキングを楽しんでいたためあまり人のことは言えないのだが、そこだけ指摘しておいた。
「む?おお!これは失敬。いや、そんなことよりもな、面白い話を聞いたのだ。アーチャーの自邸でなにやら余興をするらしい。楽しいコトだといいな!」
どうやら動きがあるようだ。
…なぜそんな情報を手に入れたのか。聞けば、街中で同じく遊びふけっているアーチャーに聞いたらしい。
「なぜそれを伝えないの」
「敵意はなかったからな。サーヴァント同士ではなく、日本に遊びに来た外国人仲間のスタンスでだな…」
「…まぁ、もうどうでもいいわ。で、アーチャーの自邸って?」
そうしてプリーストから得た情報によれば。
アーチャーのマスターは遠坂の当主。その当主の弟子である神父・言峰綺礼はアサシンを召喚したらしい。
さらにキャスターはおそらく一般の少年で、アインツベルン・間桐・アーチボルト、さらにライダーのマスターは未だ不明だとか。
得た情報を噛み砕きながら思案にふける。するとプリーストはつまらなさそうに唇を尖らせたあと、優雅に紅茶を飲んでいたの正面のソファに腰掛けた。
「…それじゃあ、その言われた時間までに遠坂邸に向かってちょうだい」
「むぅ、それは構わんが…」
「何か問題が?」
プリーストは言いにくそうに視線を泳がせる。
「いやな、私は極度の方向音痴でだな。案内を頼める精霊たちはちょっと席を外していて…多分奇跡が重ならない限り私一人ではたどり着けん」
…そんな至極どうでもいい情報に、ため息を付いた。念のため、霊体でもダメなのかと問うが―関係はないらしい。
再度深くため息をつく。使い魔を作ることもできなくはないが、得意ではない。出来たとしても少なくともあと数時間で制作して飛ばす、なんていうことは不可能だ。
戦争に何か動きがあるのなら様子は見ておきたい。かと言って自身が動くのは危険が過ぎる。
「何、私の前では敵などいないも同然。命の危険を考えているなら心配は無用だぞ」
どうやら考えている暇も他の選択肢もないようだ。はコートを身につけて窓を開けた。
場所を調べる必要はないのかと聞かれたが、既に明らかになっていた情報である遠坂の参加に基づきその邸宅くらいは把握済みだ。伊達に世界を回ってきていない。
172:38:15数分後。遠坂邸付近。
夜中らしく静かな、一見すれば何の変哲もない屋敷だ。―魔術師であるが見れば、幾重にもなった魔術結界が貼られていることは容易に視認できるのだが。
認識阻害の魔術を行使しながら息を潜めて待つ。
すると、何か―石のようなものが複数飛び、結界の起点となっていたであろういくつかの宝石を破壊した。それによりブレが生じ、その合間を黒いモヤがするすると通り抜けていった。
「…あれがアサシンね」
たしかアサシンには気配遮断のスキルがあった。いまなんとなくで視認できているのはが優秀だからなのかアサシンが油断しているからなのかは分からないが、とにかく余興とやらで遠坂邸に忍び込んだのはアサシンであることは確定だ。確認のため自分のサーヴァントに聞いても、やはりアサシンだろうと答えを得た。
つまり、魔術の師である遠坂当主を、弟子である言峰綺礼が殺せと命じた。マスターが目当てだろうという推測は、仮にも三大騎士クラスの一角であるアーチャーを暗殺しろ、というのは―よほど慢心してでもいなければ無理だろう。腐っても戦争、死んでも英雄だ。
と。そこでプリーストの纏う空気が変わった。というより突然不機嫌になったのだ。何事かとプリーストを凝視するが、当のサーヴァントはアサシンの動きから視線を動かさない。
次の瞬間、遠坂邸の結界の主軸だろう大きめの灯籠のようなものに安置されていた宝石に伸ばされていたアサシンの手が、射抜かれていた。
「なッ――!」
「シッ」
声を上げそうになった突然の出来事に、プリーストがすかさずの口を塞ぐ。人差し指を立てて静かに、と合図を出し遠坂邸に視線を直す。
「地をはう虫けら風情が。誰の許しを得て面を上げる?」
堂々とした声の直後、雨あられとアサシンに向かって多量の宝剣宝槍が飛ぶ。落ち着いて見ている限りでも同じ形のものはなく、釣られるようにそれらの発射源を見上げた。
遠坂邸、その屋敷の屋根の上。背後に金色の波を浮かべ、そこからいくつかの剣やら槍やら様々な武器が顔を出していた。
アサシンは避けることも出来ないまま、その剣の雨に直撃し血の海に伏した。
「貴様は我を見るにあたわぬ。虫けらは虫けららしく―血だけを眺めながら、死ね」
冷酷で高圧な言葉が止めとばかりに降る。
思わず跪きでもしそうになる声に歯噛みしながら見上げる。アーチャーもこちらのあからさまな気配に気づいたのかちらりと一瞥したあと、金の粒子をなびかせながら姿を消した。
「……」
「…ひどいことをする」
「確かに圧倒的すぎて気が引けるようだけど、これも戦争よ?あんな―」
「アーチャーの攻撃方法の話ではない。奴ら…本当に馬鹿にしている」
プリーストの話は要領を得ないが―落ち着いてから考えよう。いくら日中にプリーストと仲良く話をしたからと言ってこの時間帯までそのノリでいけるはずはない。じっと何かを睨んでいるプリーストに声をかけて、急いでその場を後にした。
のだが。
「マスターよ。私は少し挨拶をしてくる。―大した危険はないだろう、行ってくる」
「え、ちょっと…ッ」
そう言ったきり、返事を聞くより先にプリーストは霊体化して姿を消す。
そんな唐突な行動に小さく小さく舌打ちして不満を表しながら、仕方なく一人で帰路に着いた。
