Fate:Catalfining
フェイト・カタルフィニング

 
 
130:35:24



「―ここまで埒が明かんとなると、呆れを越して驚きだな」
「あの魔導書だ、ランサー。プリーストのマスターの言葉を信じるなら、『彼は魔術師と言うより召喚士。召喚した時点でこの怪魔はキャスターから独立している』。奴の宝具がある限りこの戦局は変えられない」
「なるほどな、そういうことか。だがあの青瓢箪の手から本を叩き落とそうと思うなら、何はともあれこの雑魚どもを突破するしかないわけだ。あれから本を奪えば一瞬、そやつから目を離しても危険は少ないだろう」


 いくつ斬っても減るどころか増えていくキャスターの操る怪魔。
 二人の騎士に守られるように中心にいるは、せめてもの労力として敵を破る案を考えていた。
 ランサーが助っ人に来てくれたのは僥倖だ。彼の宝具のひとつである『破魔の紅薔薇』で本をかすりでもすれば、少なくとも今展開されている術は終息するはず。

「―なにか思い浮かびはしないのですか」

 一人ごちるように考えていたのがバレたのか何なのか、セイバーが丁寧にそう言葉にした。

「…本を奪わなくても、ランサーの赤い槍で本に攻撃できればひとまずはこちらの勝ち。どうするにもこれを突破する必要があるのだけど―セイバー」
「なんでしょう?」
「あなたの剣の風、それを攻撃に転用することはできる?」

 はた、とセイバーは思いついたように自身の剣を見つめる。そうして意を決したようにランサーに視線を流した。

「それで行こう。ランサー、一度切りの攻撃だが―風を踏んで走れるか」
「ふ、そういうことか。造作も無い!」

 二人の騎士が構える。それをみて、キャスターは皮肉るように言葉を投げかけて来る。

「末期の祈りは済みましたかな?さァ恐怖なさい絶望なさい、武功の程度だけで覆せる数の差には限度がある―フフ、フフフ」

 実力も何もない敵に負ける―確かに者によっては屈辱的であろうが、それは守るものが自分の矜持や名誉だという者位だろう。
 本当の英雄なら、守るものは他にある―キャスターの興奮した言葉を皮切りに、間合いを見ていたのか大人しくしていた怪魔が一斉に飛びかかった。

「―風王鉄槌!」
「いざ、覚悟!」

 セイバーの風による前方への圧倒的な攻撃は、迫り来る怪魔たちを次々に吹き飛ばしていった。
 即座にランサーがそれを背に走り速度を上げ、わずかに残った怪魔を斬り伏せながら―

「抉れ、"破魔の紅薔薇!"」

 その本を、赤い剣先がかすめた。その瞬間守護の手が空いたを襲おうとした触手が、血へと変化しバケツをひっくり返したように次々に地面へとこぼれていった。
 直接その攻撃をしたのがジャンヌ―基セイバーでなかったからなのか、そもそういう予定ではなかったからなのか、キャスターはブツブツと何か言いながら怒り狂っていた。

「いかがかな。今のセイバーに左手が戻れば、まぁざっとこんなものと言うわけだ」
「覚悟はいいな、外道!」

 手持ち武沙汰状態になったキャスターを、セイバーとランサーの二人が挟み、二人の獲物の先がキャスターを指した。



  
 
130:32:31



 キャスターの召喚した怪魔たちが消滅し血の雨となって地面に降る。
 呆然としていたようだが、状況を理解したキャスターが怒りの悲鳴を上げた。
 悪あがきを、とセイバーがとどめを刺そうと駆けた時、地面から間欠泉のように血が溢れでた。

「…これは…」

 否、血ではなく噴霧。生臭い臭いは感じるが、そのように感じる霧、ないし煙だった。
 剣を振るい広がる霧を斬ることで視界をクリアにする。だがそれなりに近くにいたお互いを認識できる程度にそれが晴れた頃、その場にキャスターはいなかった。

「己…どこまでも卑劣なやつ」
「―まぁ召喚にはそれなりの時間がかかるものでしょうから、近接が得意な騎士二人相手に不利だと認識したのでしょうね。
 けどこれで…この後キャスターがどんな準備をしてくるか、わかったものじゃないわね」

 キャスターは贄に子供を使う。今はプリーストが誠意できる限りのことをしているであろうが、それでも考えるだけで頭が痛くなる。
 今助けてこいと命令を出したというのにこの後は手を出すな、とでも言えば、プリーストはもしかしたら怒るかもしれない―それくらいの感情が、なんとなくあの時感じ取れたのだ。

「ランサー。どうかしたのか」
「―…、我が主が、危機に貧している」

 暗い表情で俯いていたランサーに気づき声をかけると、彼はしばしの間悩んだ後ポツリとそう呟いた。
 ランサーのマスターは単身セイバーのマスターのもとへ向かったらしく、その末で何かしら危険に見舞われているようだ。
 その言葉に一寸気まずい顔をしながらも、おそらくは自身のマスター…衛宮切嗣のしわざだろう、と対峙するランサーの雰囲気を真似するように申し訳なさげに口にした。

「ランサー、急ぐがいい。己が主の救援に向かえ」
「騎士王、かたじけない」

 槍を持ったまま軽く礼をする。

「よい。我ら二人は、騎士としての決着を誓ったのだ。ともにその誇りを貫こう」
「……」

 再度ランサーは軽く礼をすると、霊体化しその場そ去った。
 静かに様子を眺めていたが、小さく息をこぼす。悔しげにうつむくセイバーが握る手を視界から遮るようにずれてもいない眼鏡を直しながら、呆れ気味に言葉をこぼした。

「あなた、衛宮切嗣と上手く行ってるの?」
「……は?」
「さっきの判断はどうかと思うわ。ランサーがもしあなたのマスターを攻撃したらどうするの?」

 騎士として誓った誇りを貶されたと感じたのか、セイバーは目元を鋭くしてを睨む。

「そんなことはしない。彼は騎士だ」
「あなたのマスターが影に隠れるように、ランサーが騎士でもマスターがそうとは限らない」

 セイバーの返しに呆れを強くさせながら更に返す。
 ―マスターの機微に気づけない程度のリンクでさえわかるほどの危機。
 ついでに相手は魔術師殺しの異名を持つ魔術師。
 さらにランサーのマスターは時計塔の天才魔術師。
 つまり相性は最悪なのだ。

「衛宮切嗣の武器はその起源によって生まれた魔術師にとって最悪の弾丸。運良く命が助かっても、魔術師としてはもう再起不能でしょうね。それだけのことをされても死なない限り令呪は使える。―魔術師として死んだのにまだランサーが余裕を持って現界できていたということを考えて魔力炉は別。つまりそっちの魔力が切れない限りランサーは死なない。
―なんのための令呪かしら」
「――!」
「それに倉庫街のことを忘れたの?ランサーのマスターはプライドが高い。さらにセイバーを危険視している。騎士としての何かを彼と二人掲げるのは結構だけど、それを理解されてないマスターに押し付けられてもね」
「…あなたは魔術師だ。騎士ではない。ならば騎士の魂というものがわからなくても仕方ない。あなたには関係のないことだ」
「まぁ、そうね。私はただどこかで衛宮切嗣と話がしたいから、そんなことで死んでほしくないっていうだけなんだけど」

 ふぅ、と息をついてから踵を返す。
 セイバーにその背を見られながらも、深い森を適当にざくざくと歩いた。方向などは分からないが、いざとなればプリーストを呼び出して上から行けばいいだろう。

「…切嗣のことを、どうしてそんなに詳しいのですか」

 ぴたりと足を止める。

「あなたの名前は知っています。 。切嗣が長く探している人物で、協会の封印指定を受けている魔術師。生年月日は不明、魔術の大家ではないが代は長い。現代にまで宝具を伝えているという噂を持つ。
―アイリスフィールから聞いたものですが、衛宮切嗣はあなたにやけに執着している。あの男が何故、あなたのような女性に執着するのでしょう」
「…さぁ。私が聞きたいのはそこの事情なのよね。 …私が衛宮切嗣を知っているのは彼を知っているから、としか言いようが無いわね。厳密的には、私ではないのだけど」

 振り向かないままひと通り答えると、ぐっと息を呑む音が耳に届く。視線だけちらりと一瞥した後、小さく手を振りながらその場を後にした。



  
 
147:46:35



 封印指定を食らっているは、その特徴自体は結構知れ渡っていたりする。
 白銀の髪。金とも虹色にも見える不思議な光彩をした瞳。
 任を受けを殺しに来る執行者でも、なぜ封印指定されているのか知らない者も多いのだが―危険視されているのは紛れも無く、その"不思議な"瞳だった。
 いうならばそれは魔法的な創造物。神話の世代から受け継がれている宝具だとも噂があった。
 死の線が見えるわけではない。目を合わせた者を魅了するわけでも、見た者を石にするわけでもない。
 ―ただ、"害あるものを除く"だけの効力を持つ。
 上手く御しきれないと自身が魔術で身を守ることすら出来ない代物だが、そこはそれ、友人から譲り受けたとある眼鏡で都合よく使いこなしていた。
 かれこれ数十年…途方もなく、詳しい年月も思い出せないほどだが。

 さておきそんな過去を一人ごちるようにぼんやりと考えていた頃。妙にはっきりとした殺気を感じた。
 正しく言えば、殺気と言うよりは苛つきや怒気ににたものだったのだが、従者であるプリーストは現在爆破されたホテルの代わりにねぐらを用意しに行っている。
 相手が遠距離攻撃派だったらまだどうにかしようがあるのだが、近接だったりした時には長らく逃げてきたでも正直危ういものがあるのだ。
 場所を変更しても念話なりで伝えればいいだろう、と立ち上がり移動しようとした時。
 見に覚えのない銃弾が飛んできた。
 銃―ならば中距離から遠距離。そう身構えた時、影が懐へと入り込んだ。
 何度も言うようだが、魔術的ステータスがある意味で高いは肉弾戦など出来ない。つまりどう切り抜けようと考えている間にも、自ら近づいてきた敵はの足を弾き地面へと転がした。
 このやり方は銃を使うことを知っている人物―衛宮切嗣ではない。
 銃に若干の魔術的強化の痕跡は見られるが、それを解いたところでどうにかなる戦力差でもない。
 殺気のゆらぎと銃口をみて咄嗟に首をひねる。の倒れた先の地面に硝煙と銃弾が残った。

「……」
「……」

 を襲った人物は、知らない女だった。
 だが―

「その魔力の残滓…ランサー?」

 その女は銃をぴっとの首に添わせて眉根を寄せる。

「…お前は、爆破されたハイアットホテルに宿泊していたはずだ。何故ここにいる?」
「何故と言われても。ちょうど外食をしていたからだけど」

 睨み合ってしばらく間をおいた後、女はチッと舌打ちをしての上を飛び退いた。
 銃は手元に出したままであったが、やれやれと起き上がり砂を払いそういえばと口を開いた。

「あのホテル爆破されたのよね。犯人は衛宮―セイバーのマスターだと思うけど…そうだ。
あなたランサーのマスターの仲間でしょう。彼生きてる?もしランサーだけ生き残ったのなら、私が―」

 チュン、と頬を銃弾がかすめる。先ほど収まりかけた殺気はまた、に対し八つ当たりのように広がっていた。

「時計塔の神童を舐めるな。あんなもので死ぬはずがない」

 すっと目を細めて相手を観察する。
 たしかにランサーのマスター、ケイネス・エルメロイは神童と謳われる天才だ。たかだかホテルが倒壊した程度を生き延びるくらいの術や礼装くらいは持ち合わせているだろう。
 それなのにこんなにも焦りを見せているということは―なにか他に、彼の実力の足を引っ張りかねない事情がある、とか。

「―それもそうね。でも悪い話じゃないと思うわ、魔術師と騎士ってあんまり上手く行かないものよ」

 意味を含ませるように口角を上げて言えば、女は不愉快そうに顔を歪めた後、高く跳躍して去っていった。



  
 
121:58:36



 この展開はよくない。
 自分が守るべきはずの主人は、あの魔術師殺しに無謀に挑みそのまま魔術回路を破壊されて死に掛けのまま戻ってきた。まだなんとか命はあるが、やはり命令通りにソラウの護衛などしているべきではなかった。
 確かに魔術師として実力のあるケイネスと、サーヴァントに魔力を与える役割としてついてきたソラウでは、護衛の必要があるのが誰かは一目瞭然だ。
 主人であるケイネスは、この聖杯戦争を決闘かなにかと間違えている。いくらサーヴァントが騎士道を掲げるランサーであったとしても、これは決闘などではなく、どれだけ卑怯な手を使おうともかまわない"戦争"なのだ。
 最初にしっかりと伝えておくべきだった。部下だからと当人はまるで耳を傾けなかったが。
 
「・・・・・・」

 ぎり、と奥歯を噛み締める。ランサーが連れ帰って来たケイネスは、今眠っている。応急措置は済ませたが、目を覚ます様子はない。
 ちらりとケイネスの右手の令呪を見る。サーヴァントとの契約関係を明確化するその赤い線は、今ケイネスの体調を繋ぎとめているのか、それとも悪化させているのか。

『もしランサーだけ生き残ったのなら、私が―』

 とある敵方の言葉を思い出した。本当にそうできるだけの力があるのだろうか。
 しかし、この人を失いたくはない。
 そう決意して、少女は令呪に手を伸ばした。






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