Fate:Catalfining
フェイト・カタルフィニング

 
 
107:12:48



「そういえば、子どもたちはどうしたの?」

 身分に合わない豪勢なキッチンから炊飯器ごと炊いた米を持ってきたサーヴァントに顔をしかめながらそんな会話の種を蒔く。
 根に持たない性質なのか呆けた顔をした後、ああ、と机に炊飯器をおいて着席したあとぽつりぽつりと説明してみせた。
 サーヴァント―しかも破格の存在でなければ出来ないであろうその手法に絶句しながらも、白米を食べ始めるプリーストを見据える。
 …ちなみにこの炊飯器は、商店街のみくじで当てたものだそうだ。この調子で、自然物100パーセントでは作れないものもすでにいくつかこの家にはあったりする。

「…追って探さないのか?」
「してもいいけれど…ごめんなさい、私はあまり重要性を感じないの。とくに教会によって魔術の秘匿がどうとか語られたから余計にね」

 そう話すとプリーストは怒るでもなく、ただ残念そうに白米を食べていた。

「だから、ね、プリースト。あなたには随分助けられているから、ここであなたが動きたいというのなら従うわ」

 とはいっても、には大したことが出来ない。
 強力な魔術が使えるわけでもないし剣が使えるわけでもないため、キャスターの厄介な召喚物を都合良く倒せる方法がない。
 その上サーヴァントと離れることは自身の命の危険もそれなりに高くなるということだ。
 そう話し終えると、やはり白米を食べてはいるものの今度は少し思案してみせた。
 白米を食べ進め、やがて頬に米粒をつけたままぱっと顔を上げた。

「ならば。私が直接自衛の術を教えよう。の素養次第ではあるが、上手く行けば英霊だって怖くない!」
「―は?」

 わずかに残っていた白米を一粒残らず綺麗に平らげた後、プリーストはイキイキとした表情での手を引き庭へと移動する。
 現代風の衣装からサーヴァントとしての衣装に切り替えて、彼女はぴんと人差し指をたてた。





 実は、というか、すでにキャスターとは相まみえている。その魔力の残滓をもとに、彼らの行方を探し当てることは容易であった。
 とはいっても万能ではない。本人たちよりも濃い魔力がそこに溜まっていれば、そちらに突き当たることもあるだろう。
 その通りプリーストは、魔術的工作のしていないキャスターの工房にたどり着いていた。冬木の地の真ん中に走る川の、大きな空洞。
 本来は貯水槽か何かなのだろう。しかしそこには強力な魔力の塊に等しいキャスターの術の召喚物が跋扈していた。
 水と血が混ざった薄い赤い色の液体を踏みしめながら、眉尻を下げながら奥へと進む。
 そこには。

「………………、」

 悲しげに眉尻を下げ口を結ぶ。
 ―ふと、剣を手に持った。背後に忍び寄っていた禍々しいそれを切り落として半歩振り返る。
 それから次々に襲ってくる触手。今までにも何回か合間見たもの―キャスターの召喚物だ。そこにいるだけの栄養が切れたのか、辺りにあるそれらから養分を得ようとでもしているのかプリーストよりもその先にあるものに対して触手を動かしているようだ。


 そうしているうちに、ひとつの殺気が近くまでただよった。辺りにあるそれらは意識を持たない。つまり―考えがまとまるより先に、おおよその地点に雷を落とした。

「うわぁ!」
「―貴様らか。殺気立って来るな、タイミングの悪い」
「いやぁ、やけに静かな殺気が漂って来たので警戒していたのだ…何をしていた?」

 貯水槽の川側からの入り口よりやってきたのは、神威の車輪にのるライダーとそのマスター、ウェイバー・ベルベットだった。
 ライダーの質問に、辺りに視線をめぐらせてから首をかしげる。見て分からないのか、という顔でライダーを見直した。その視線を辿るようにライダーも首を動かしてから、悩むように息を漏らす。
 その横で、魔術を利用して辺りを見ようとしているウェイバーに気づくと、プリーストは困ったように笑う。

「少年、貴様は見ないほうがいいぞ」
「何言ってるんだよ!キャスターがいないんならその手がかりくらい…っていうか、なんでお前に言われなくちゃいけないんだ!」
「そりゃそう思うかもしれんがやめとけ。坊主、こりゃ貴様の手にゃ余る」

 うるさいと大きく返し神威の車輪から降りて暗視の魔術を発動する。ほんの少しだけ経ってから、改めてあたりを見渡すと―ウェイバーは、言葉を失った。
 そこにあったのは肉の塊、血が一部塊となりこびりついている。一歩踏み出すだけでばしゃばしゃと水の音が響いて足を重くさせていた。
 本来ここに転がっているはずのものは、肉ではなく死体であるはずだ。キャスターたちに虚しくも攫われ魔術の苗床とされてしまった、子供達の死体が。

「…お前が、やったのか?」
「まぁ、そうなるな」
「お前…!どうしてこんなことできるんだよ!プリースト、僧侶ってクラスなら、もっと慈悲深い英霊じゃないのかよ!?」

 八つ当たりとも取れるウェイバーの叫びに、プリーストは心外そうな顔をする。ライダーに視線を向けてくすりと笑うと、ウェイバーに向き直した。

「慈悲深い僧侶などいないさ。僧侶は神に仕え命を聞いているだけで、誰かのため何かのためになどと行動はしない。知っているか、その意向にそぐわないというだけで人を殺すのは、神とその使いだけだ」
「そんな…」
「だからやめておけと言っただろう。覚悟も決心もない子供が、魔術だの魔法だの…そんなもので無理やり使役され守るべき存在をただ無残に殺すだけとなってしまった我らを何だと思っている」

 プリーストの大きな独り言にウェイバーは首を傾げる。一体なんの話だ、そう思いながらも周りの惨状に対する避難の目を向け続けていれば、ふと気づいたようにプリーストは顔をあげた。すまない、そう口にして血糊のついた剣を払う。

「まだここに何か用があるか?私はもう、ここを燃やしてしまおうと思うのだが」
「…キャスターの手がかりを探している。後始末はしといてやる、マスターから呼び出しでもあったのだろう、早く行け」
「…そうか、すまない」

 視線を交わしお互いの意思を通じさせて、プリーストは去って行った。

「…なぁ坊主、勘違いしとるんだろうが、この惨状は」
「うるさいわかってる!キャスターの魔術は高度だ、全員手遅れで、入口にいた奴らみたいになって襲って来たんだろ」

 そしてそれを倒したというだけのこと。ウェイバーもわかってはいるし、プリーストに暴言を吐いた際も頭の隅ではきちんと理解していた。自分が他に助ける力を持っているわけでもないなら、それをとやかくいう資格はない。

「この惨状、おそらくはキャスターの召喚した魔獣だろう。だが見たんならしっかり見てみろ。人間の肉片なんて一つもあるまいて」
「…は?」
「プリーストの正体についてはまだ仮定だがな。この世のものならざる嫌な臭いはせど、人間の異臭はせん。詳しく仕組みはわからんが、あやつはプリーストのクラスに属せる者の中で最も慈悲深いだろうよ」

 厳密に言えば、宿り主を食い破って出て来たのだろうから大差はないし実際に人間の肉片があるのかないのかはわからないが。ぱしゃり、ウェイバーは血溜まりの地面を踏みしめた。



  
 
106:10:46



 ―襲い来る触手を薙ぎ払う。薙ぎ払う。足首を捻って背後を狙うそれを両断して、下から襲ってきたものを魔術で貫いて、燃やす。

「キリがないな…」

 ほぼ無限とでも言うように再生し、こちらに切断されることによって増殖していく。
 自身だって魔力も体力も無限のようなものだが、その様子にだんだん呆れを覚えていた。
 これほどのものを倒し切るには、高出力か持続性のある術を使うのが簡単だろう。
 そういった術も持ちえているが、次々に襲い来る触手を前には、色々と制限がかかり弱体化しているも同然な今の状態ではそんな大掛かりな術を展開することは出来ない。
 ―だが。

「"Versammeln Flamme"!」

 プリーストならば、下級術を上級術さながらの出力で作り出すことができる。
 大きな炎を操り触手を燃やし始め、一方で後ろで苦しんでいるその者たちに視線を向けた。
 惨たらしいその状態は、大きさから言って確実に子どもたち。ひゅうひゅうと浅い息でありながら確かに生きている。ぎゅっと口を結んで、両の手を彼らに向けた。

「ここまで入り交ざっていると、もうどうにも出来ない。欠けてこの場にないものもあるだろう。順に分解してやる」

 ぽう、と子どもたちが淡く灯る。手術台のように鎮座している大きな机に横たわる子供の表情がすっと和らいだ。
 溶けるようにその肌が透けて行く。光と共に小さく小さく空中へと消えていく。

「…すまないな」

 誰にともなくそうつぶやく。少女は悲しげながら嬉しそうに笑って、まぶたを下した。
 周りにいた全ての人だったものがそうして安らぎを見せながら消えていった。



  
 
105:55:08




 夜も更けてきた頃。サーヴァントから自衛の手段にしては高等な術を教わった後。
 礼としての形でキャスターを追うため街へと繰り出していたは、プリーストから借りていた風の精を利用して捕捉対象の魔力の残滓を探っていた。
 そこでふと、小さな足音が追ってきていることに気づく。ちらりと視線を傾ければ、寒い中スカートを履き赤いコートを身につけ、髪を両脇に結いツインテールにした少女。
 コンパスのようなものとを見比べ、一定の距離を保ちながら焦ったような顔をしてついてきている。
 理由はわからない―が、の後を追っていることだけは確かだ。
 隣町にあたる新都はそれなりの賑わいがあるが、聖杯戦争の地であり何より一般人にまで被害を出しているキャスターのこともあり、冬木は一層静まり返っていた。
 店は開いているが客もそこそこ。そんな場所を、子供が一人でいるとは何事だろうか。
 は溜息を付いて、仕方ないとばかりに立ち止まり、振り返った。

「―ッ!」
「なにかしら。さっきからついてきているようだけど、迷子?」
「…いいえ!」

 少女は強気に眉根を寄せて、フンッと拗ねるように建物の間の路地裏へと曲がった。それをぼんやりと見送るが、何か危険な香りがする…と風の精に囁かれては、放っておくのも忍びない。
 再度溜息を漏らして、静かに追った。
 コンパスのようなものを見ながら道を進む。入り組んだ道の先に何があるのだろうかと思いながら少女の小さな背中を眺めていると、不意にその足が止まる。

「こんな時間に子供連れ…?」

 角を曲がりきらない位置で少女を捕捉するだけでは何があったのかはわからない。だが少女は走りだし、更に道を進む。
 見回りだろうパトカーの赤いランプの反射を見つけながら、覚悟を決めたようにまた走り出した少女の後ろを追う。
 久方ぶりに走った。そこに少し顔をしかめながらひたすらに追っていると、廃墟に近いような廃れたバーへと入っていく。
 この店に用がある、ということはないだろう。息を正しながら静かに階段を降りた。

「きゃぁあ!」
「―!?」

 突然の叫び声に、隔てていた扉を開く。
 すると。背を追っていた少女の背後に、見覚えのある青年の姿があった。思わず顔を引きつらせ身を引きかける。
 茶髪の青年の両手には、ぐったりとした少年の手をひとりずつ握っていた。
 こちらにはなんとか気づいていないようで、そっと扉の影に身を隠す。

「あれぇ?どしたの、迷子かな?―ちょうどいいや。今から俺らパーティー始めるところなんだよね。でもまだ人手不足でさぁ。手伝ってくんない?」
「―ひ、ぃや、―…!」

 ぱちぱちと弾けるような音を出して少女の持つコンパスが震えた。
 それの仕組みを知っている少女は、やっと周りの状況を把握して悲鳴を上げかける。しかし恐怖が上回りそれをひきつらせた。

「ほら、こういうのってみんないたほうが盛り上がるじゃん?」
「――、ッいや!」

 間近に迫り寄っていた青年を両手で押しのける。すると閃光が弾け―痛みはないようだが、その光は明らかに魔力の衝突による発光だ。
 半分以上は情況証拠であるが、あの青年が冬木の殺人鬼でありキャスターのマスターであることは確定できるだろう。
 運良く―あまりいいとは言えないがこうしてキャスターのマスターを捕捉できたことは僥倖ではあるが、しかしキャスターがどこにいるかわからない以上下手に動くのは良くない。
 これでもはそれなりの魔術師であると自負しているが、プリーストから教わったこの術は、まだ実戦は行っていないに等しい。魔力のかからないサーヴァントとは言え現界のために魔力を消費していることは間違いない。

 きらり、と青年が身につけている紫色のブレスレットが鈍く光を反射する。
 何かに気づいたらしい少女は、捕まえようとする青年の手を掻い潜り机の上に登ると、伸ばされたその腕ごとブレスレットを掴み―魔力を注入し始めた。
 何をしているのだとつぶやきそうになってすぐに理解する。普通ああいったアイテムは魔力を適度に注入するとことで丸めた新聞紙だって鉄パイプに負けないほどの強度にすることが可能だが、それも過剰になれば魔力によって破壊される。
 ただの女子供である以上男である彼には勝機はない。ならば、と魔術を使用したのだろう。

「…と、いうことは」

 はじめから怪しくはあったが―あの少女は、機転の効く頭の良い魔術師少女…ということになる。
 あのコンパスの様子を見ても、ただのコンパスではなく魔力に反応するものであろうとは予想付き何度目かの溜息をつく。
 先ほどあの少女に見つけられた時、はあの魔力を追うコンパスと交互に見比べられていた。もしかしたら隣にいた風の精にかも知れないが―とにかく魔力的な何かを彼女に見破られたということだ。
 どこの娘かは知らないが、これ以上関わるのも得策ではないだろう。とは判断して、一応何か合った時動けるようにとプリーストから預かった風の精にそこを任せて、階段を登り直して見回りをしているパトカーを探した。






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