明鏡覆月影

メイキョウオオウツキノカゲ

01


戦が近付いている。そのせいで大阪城内の空気はとてもピリピリしていた。
私の稽古も、木刀での打ち合いから半兵衛さんが用意してくれた鎧で真剣での稽古となって暫く、次第に慣れ始めた頃だ。
半兵衛さんでさえ、一年もしない内に実用出来るまで成長したのには驚いたらしく、秀吉様に何度も自慢していたらしい。
私も出る事になった次の戦―とは言っても、各地での小競り合いの鎮圧や同盟相手と別国との戦などに三成さんや菊千代さんたちは 参加していたらしいが―は豊臣の今後を決めるかもしれない大きなものらしい。
小田原の北条は今落ち目と言ってもその栄光と、従える忍はかなりの実力で、私が出向く東への牽制は、もし上手に行けばこれから東を統一していく重要な一歩になるという。
これは大層な役目を任されたのだな、と落ち込んでいると、「貴方なら大丈夫だって信じて任せているのだから」と真意はどうあれ軍師二人は笑顔で慰めてくれたのだった。



私は一人で稽古をしていた。婆娑羅が発生することを想定した技を考えつつ、ひたすら反復運動。
三成さんの居合の技を元にしているのだが、刀が重くて上手く模倣出来ないことに悩んでいる所だ。どうやればそう素早く攻撃できるのか、と聞いてもやって見せてくれるだけで具体的な解決法は示してくれないので難しい。

「おい左近!これはどういうことだ!」

汗をかいてきたので、休憩するため鍛錬場の隅に用意していたひょうたんの水を飲んで手拭いで汗を拭こうとした時だ。どたどたと荒々しい足音が響いて何事かと視線を巡らせる。
足音の主は私に気づくと、大きな足音のまま近づいてきた。

「あ、ちょうどいいお前だお前!左近は知らないか!?」
「…知らないです」
「何!?数日前にこっちに戻ってきたって聞いてるぞ!?」

左近、という人を私は知らない。それにしても声の大きな人だ、こういう人は少し苦手かもしれない。というのも、普段話す相手が物静かな人が多いからなのだろうが。…三成さんは怒った時大声で怒鳴りつけるので煩いのだが。
男の人は「何故じゃ!」と唸りながら頭を掻いた。動く度にぱらぱらと白い粉が落ちてきて、思わず声を失った。彼はそれに気付いてないのか、ふと気付いたように私を見て首を傾げる。

「そう言えばお前さん見ない顔だな。新入りか?女なのに兵士修行なんて大変だな、まぁ頑張れよ…どうした?青ざめて。体調でも悪いか?」
「……、」
「小生が怖いのか?安心してくれて構わんぞ、小生はおなごに手を出せるほど慣れちゃおらんからな。それにしてもお前さんその大きな刀は似合わんなぁ!」
「あの…、近づかないでください」

意を決して伝えれば、男の人は「えっ」と呟いて硬直した。
彼が騒いでいたために気付いたのか、小走りでこちらに来ていた菊千代さんを見つけると男の人は振り返ってまた騒ぎ始めた。

「左近聞いてくれ!この娘が近づくなと言いやがった!小生まだ何もしていないぞ!」
「まだって…何かする度胸貴方にあるの?と言うか左近って呼ばないでって」
「お前が小生を名前で呼んだら考えてやる」

やれやれと呆れている菊千代さんは私に気付くと、手招きして呼んだ後男の名を告げる。男の名は黒田官兵衛、秀吉さんに仕えるもう一人の軍師、だそうだ。
…それにしては、初めて聞く名だ。

「何?小生を知らないだと?豊臣兵のくせに頭が悪いんだな!」
「黒」

低い声で菊千代さんが呼び止めると、小声で何か黒田さんに告げる。「…何、三成の?ほぉ…まさか」と彼の名を呟いているということは、恐らく私と三成さんの関係性を含めて説明してくれているのだろう。黒田さん、と苗字で呼んで名前を告げると、この人も「堅苦しいのは嫌いじゃ」と名前で呼んでいいと許可をくれた。
それからしばらく二人が何か話していたが、思い出したように官兵衛さんがこちらを振り向く。

「えーと、の!左近は見つかった、邪魔をして悪かったな」
「…いえ。すみません、こちらこそ失礼なことを…」
「いやまぁ言われてみれば、小生一週間以上風呂入ってなかったからな」
「ちょっと、私の部屋来る前に風呂入りなさいよ」
「わかってるよ。 ―そういえば、そうだ、お前さん。小生思うんだが、その刀お前さんにはちと大きいとおもうぞ」

それだけ言うと官兵衛さんは「それじゃあ小生風呂に行く!」と意気揚々と去って行った。菊千代さんも溜息をついていた。気苦労が絶えないなこの人も。

「…姫。もう戦が近いから、暫く養生なさいね」
「あ…はい。わかりました」

それだけ神妙な雰囲気で告げて、彼女も足早に去っていった。





官兵衛さん率いる雑賀衆と本隊は、既に小田原に向かって出陣していた。どれぐらいの日数で終わるかは分からないが、基本的には官兵衛さんにかかっているのだという。彼の助言のお陰で、身の丈にあった扱いやすい小さめの刀を用意してもらった私は、強く握り締めながら呼吸を整えていた。多少の恐怖はあるが、どちらかと言うと今では緊張が強い。
東への牽制のため、私が任された一軍が出発する時、いつもの茶化した雰囲気とは違う張り詰めた表情の菊千代さんが、改めて任について新しい情報も含めて説明してくれた。

「奥州伊達軍の忍が紛れていたみたいでね。暫く泳がせていたんだけど案の定、城が無人になる事を知って戻っていったから恐らく伊達軍は攻めてくると思う。彼も婆娑羅者だから、姫が一人で応対するには荷が重いと思う。危険だと思ったらすぐに下がっていいから」
「…分かりました。でも大丈夫です、力の限り尽くします」
「ふふ、心強いわ。この際怪我するのは仕方ないけど、とにかく死んではダメよ。攻めてくるのが伊達のみとは限らないから」

心配そうに言う菊千代さんに、力強く頷いた。

「城に関しては、太閤も大師も葵も蜻蛉も控えてる。蜻蛉には、もし貴方が危険な事になったら貴方だけでも撤退させるよう近くにいさせるから。…変に責任を考える必要はないわ。生きて帰ってくるのよ」
「はい。ありがとうございます」

兵士や刑部、若にもいい含めてあるから。そう言う菊千代さんを安心させるようにまた力強く頷くと、菊千代さんは微笑んで頷き返した。「仮にも私が縁を繋いだ貴女を易々死なせるわけには行かないんだから」だったら戦に出さなければいいのになんて突っ込みは無しよ、とそれまでの雰囲気を払拭するように明るく笑い、振り返って他の兵士に告げた。

「あんた達!仮にも豊臣の兵なら、姫様一人守ってみなさいよ!」

菊千代さんの鼓舞に兵士たちは拳を振り上げる。強い結束を感じる咆哮は、豊臣の力を表しているようだった。
一方大谷さんや三成さんは、殺気というのだろう鋭い雰囲気で沈黙していた。
緊張のあまり一人で馬に乗れないという緊急事態を乗り越えて、無事目的の場所まで辿り着いた。ここを本陣として、少し先に兵を 並べている。分隊長である私はここでおとなしくて置いて、いざとなった時に出ればいいのだと大谷さんは言っていた。
三成さんは自分が行くとずっと言っていたが、大谷さんが本来の役目は私の援護だと一喝すれば思いのほか潔く静かになっていた。

「………」
「恐ろしいか?禍姫よ」
「……はい」

陣の外で、誰のものかはわからないが小さく小さく、うめき声や刃が肉を裂く音が耳に届く。どこかの軍が攻めて来たようだった。緊張状態の上ただ座っている以上その音は皮肉にも鮮明だ。三成さんはおそらく高ぶる気持ちが抑えられないのだろう陣の中で素振りしていた。―私もやろうか。緊張くらいは、解けるかもしれない。

「伝令!伝令!―迎撃部隊第三班、壊滅状態!―姫様、どういたしましょう!」

勢い良く陣中に飛び込んできたのは、多少ながら怪我をしている兵士だった。攻めてきたのはどうやら目論見通り伊達軍で、破竹の勢いで侵攻しているのだという。
陣中の空気が冷め、私に視線が集まる。壊滅状態となった現状の後の指示を求められている。

、私が出る許可を」

三成さんが目の前まで来て、鋭い眼光で言い放つ。答えに言いよどんで大谷さんに助けに求めると、相変わらず保0謡に書かれて表情が読み取れないものの答えを示してはくれなかった。

「姫よ、決めるのはそなたよ。菊に補助を頼まれているとはいえ、この戦はそなたの実力を見極めるためのもの。ここで我がすべて決めてやっても良いが、それでは賢人たちはヌシに失望するであろうなぁ」
「……此方は…」
「一騎当千の三成を出すか、兵士を投げ捨て本多を喚びヌシだけ逃げ帰るか。ああ、しかしここで三成だけ差し向ければ賢人たちの命令に背くことになるなぁ」

ひひ、と大谷さんは喉をひきつらせて笑う。大谷さんが言っていることは正しいと思うが、幾分言い方が少し優しくない気がする。

「それを回避するには姫も出陣する必要があろうて。だが命を投げ出すのがオソロシイようなら、無限と思っている兵士の命を差し出しこの本陣まで敵をたどり着かせて、ヌシだけ本多に連れられ城に帰るのが一番よな」

優しくない、のだが、彼の言葉は的を射ている。「命令違反でも構わない、私を使え」そういう三成さんの言葉を胸に留めながらも脳内で思考を巡らせる。
壊滅状態。戦闘出来る人材がいなくなってしまった状態だと、半兵衛さんに教えてもらった。そんな時は、たしか―

「―兵を引かせてください。展開している半分ほどまで。敵がそれと共に攻めてくるようだったらそのまま誘い込み、補給班および医療班は、まだ息のある兵士の介抱を」
「は、はい!」
「それで、ええと…あとは…。誘い込んだ敵を、迎撃…、ええと、あ、此方は…」

未だ鋭く睨んでいる三成さんを見上げた。刀を握りしめて、唾を飲み込み息を整えて、立ち上がる。背の高い彼を見上げて、視線を合わせてから頭を下げた。

「共に迎撃をお願いします」
「―…まぁ、いいだろう」

いささか不満気だったが、三成さんは踵を返し、私の震える手を引っ掴んですたすたと歩き出した。
やはり歩幅が大きく小走りになるのだが―強く握られた手は、自然と私の振るえと恐怖を奪ってくれた。






02


「ひとつ、思ったんですけど、半兵衛さん」
「なんだい?」

布団の上で本を広げながら、半兵衛さんは手元に視線を向けたまま答えた。素人考えで申し訳ないのですが、そう前置きして問う。

「どうして、ここの前衛が全滅すること前提なのでしょう?これだけの差があれば、いくらなんでも持ちこたえられるのでは」
「全滅?ああ…別に前提しているわけではないよ。常に最悪の状態を考えておくと言うだけさ。特に今は、君にここからどうやって勝ち戦にするかを教えている訳だからね」
「…そう、だったんですか。すみません、続けてください」

半兵衛さんはくすくすと笑いながら本の頁をめくる。「そういう疑問を持つことは大事だよ」といいながら、開いたところを見せながら次の説明をしてくれた。

「―というわけだ。あくまで僕ならこうする、と言う程度だけれどね。さて、君ならどうする?」
「…此方は、追い払うことができないならせめて背後から討つことを提案します。実際討ち果たせなくても疲労や混乱くらいは狙えるかなと」
「ふふ、とても単純だね。でもだからこそ敵の裏をかきやすいというものだ。いい答えだよ」
「しかし、想定されやすいのでは?」

ほんの少しでも褒められたのがむず痒くそう言えば、そうだね、と容赦なく半兵衛さんはうなずいた。

「けれど君、君はまだ軍略を学び始めたばかりだし、実際の兵士達には思考力がある。恐怖か、あるいは驕りから、言われてもいないことをする人もいるんだ。君自身言っていたじゃないか、"工夫するのは、こうやって教えられたものを破る方法が考えられるようになってからでいい"とね。だから次は、君が背後に回られた側としてどうするか、考えようか」




「何を考えている」

目の前で私の手を引いていた三成さんの声に、飛ばしていた思考が戻る。立ち止まり、わざわざ振り返ってこちらを見ている。
城で稽古をつけてもらっていた時と違う、より鋭く殺気に満ちた瞳。―とは言っても、思い返してみれば今日までのこの数日間顔を合わせるのは稀だった。戦が近いから休めと言われていたのもあるが、最近は稽古も三成さん以外につけてもらう事が多かったのだ。
何がいいたいかというと、つまり私は彼の瞳に怖気づいているのだ。この人は今味方なのだからという重要な事実が除かれていれば、恐らくこんな思考の余裕さえなかっただろう。

「貴様も自衛くらいは出来るようになっただろう。近くに気配がする、ここで待っていろ」
「え、いや…」
「死にたいのなら止めはしない。秀吉様にも半兵衛様にも菊にも、貴様を守るよう言われている…が、私は守りは不得手だ。私が特攻した方が早い」
「…でも、此方は敵を確かめなくてはいけません。経験も何もない此方に任せることは不満だと思いますが、譲れません」

三成さんの目の鋭さが極まる。萎縮してしまうが、それがわからないようにと気丈に振るまい睨み返した。少しの間そんな状況が続くが、前方―三成さんの後方に敵の旗印が見えて、握る刀に力が入った。気付いたらしい三成さんも、舌打ちして刀を持ち直した。私をかばうように手を伸ばしていたが、ゆっくりと振り向き私を見る。

「そうまで言うなら前を行け。しかし私が、貴様では役不足だと判断したらすぐに下がらせる」
「…分かりました」
「だから―…、背くらいは、私が守ってやる」

そう言って視線を戻し伸ばしていた手を下ろす。私は意を決して、こちらに進んでいる敵軍を見た。
馬の顔の横に持ち手のようなものが取り付けられている。そんな馬に乗っている三日月の兜の男は、私達を認識すると進軍を止め、すぐ近くにいる頬に傷がある男に言葉を投げていた。

「誰だ?こんな奴豊臣にいたか?」
「武器を持っているところからして兵士なのでしょうが…しかし、女ですな。しかも覚悟が座っていないと見える」

三日月の兜―恐らく伊達軍の総大将、伊達政宗はふうんと馬上から私を見下ろした。

「おい女、てめぇここに何のようだ?豊臣の兵士ってんなら斬って捨てるまでだが…」
「しかし政宗様、先ほど対峙していた一軍が一斉に引いたところを考えると奥の手の一つという可能性はあります」

敵のわずかな殺気に口を噤んだ。口調は軽いが、確かに歴戦の武人の目。刀に手をかけようとすると男の目が動いて恐怖なのか手が止まるのがわかった。

「…貴方方こそ、ここまで何の用でしょう」
「豊臣のオッサンは忍の侵入も見過ごす簡単な奴みたいだからな。今のうちに大阪城を奪って、一泡吹かせてやろうと思ってな」
「それは、させません。倒すことは出来ずとも、貴方方にはここで引き返してもらいます」
「Han?てめぇがか?笑わせるぜ」

伊達政宗は馬から降りて、六つあるあるうちの一つの刀を抜いた。こちらを睨みながら構えている。
彼に続いて後ろに控えていた頬に傷のある男も、兵士達も一部が馬から降りた。馬一頭に対し数人乗っていたので、今の兵士の数はそこそこだ。未だ手が震えているが武者震いなのだと唇を噛み締めて敵を睨みつけた。

「Ha!子猫に睨まれても怖くねえな!」
「政宗様、ご油断されるなと再度申し上げておきます。小十郎めはあちらの男を相手しましょう。 ―おいてめぇら!先に進め!」

頬に傷を持つ小十郎さん、は首だけ振り返ってそう叫んだ。よくわからない言葉で伊達の兵士達は答え、馬を走らせる。

「行かせるのか」
「―いいえ」

今度こそ、今度こそ覚悟を決めた。人の命を奪う覚悟を。死ぬかもしれない覚悟を。誰かを失うかもしれない覚悟を。
それに泣けないかもしれないことも。私は、私が、誰かが一人でも多く生き残るために、敵に刃を向けるのだ。
―伊達政宗は、私を薄ら笑んで見下しながら刃を構えている。

「我が君、そちらを、お願いします」

返事はなかった。だが、素早く地面を蹴る音はしっかりと聞こえている。
刀の柄を強く握り締め、ゆっくり引き抜く。失敗しないよう、冷静に。幸い男は恐らくまだ油断している。本気になるまでは、そこそこいけるはずだ。
三成さんと小十郎さんは既に剣を交えていた。
一歩、二歩、前進。殺気を隠すことで、微量の油断を誘う。何処を狙う?身長差からして、突然首を狙うのは危険だ。ちらりとだが、首に何かつけている。相手の機動力を奪うべきか?
三歩目まで進んだところで思考は途切れ、間合いにたどり着いた。伊達政宗はまだ私を見下ろしている。

「―はぁ!」

何も考えずに途中まで出していた刀身を、相手目掛けて鞘から引き抜きながら上へ振り払う。それがわかったのか、伊達政宗は当たるより早く一歩下がりにやりと笑う。ギラリとした目で私を睨み、地面を蹴り近づいて来る。
相手の刃が斜めに振り下ろされる。返すようにこちらも斜めに振り上げた。重い。刀身を滑らせて地面へ流し、体制を持ち直して逆側から斬りつける。だが下がった剣が、そのまま私の上がった腕目掛けて振り上げられており、咄嗟にその剣に当てるように力を向けた。
両方の刃が弾かれ数歩分の間合いが空く。一度刀を鞘に戻して、構えなおした。
大きく一歩進んで間合いをつめれば同時に伊達政宗も構え直し、刃が合わさる。
押して引いて、初の実戦で敵の総大将とここまでやれれば賞賛モノだろう、と心の中で自賛しながら男と何度も攻撃し防御し合う。

「おいおい女にしちゃよくやるほうだろうが大丈夫か?息上がってんじゃねえか」
「…、…っ、」
「しかも限界近いだろ。やめとけ、てめぇじゃ俺には勝てねえよ」

緊張と、そもそもの体力差。当たり前の結果ではあったろうが、私は既に負けかけていた。
大分手加減されているのだろう、着物が斬られる程度の浅い浅い傷しかない。

「―今降伏すれば命は助けてやる。だから、」
「ぐぁあ!」
「!?」

男のうめき声と、深く肉が裂ける音、びちゃりと血が撒き散る音、そして、納刀の音。
その声は三成さんのものではない。誰のものかいち早く察知したらしい伊達政宗は、私との剣劇も忘れてそちらへ視線を向けていて。
そのあからさまな油断に、思わずそのまま敵の胸を斬り付けた。とはいえ、鎧で防がれているが。数歩下がって安全な間合いを取って同じく視線を移動させれば、鎧ごと斬られ深い傷を負った小十郎さんと、涼しい顔でこちらを向いている三成さんがいた。

「てめぇ…小十郎、―!?」
「こちらは済んだ。貴様はどうだ、
「…、…」

口で大きく呼吸をしながら辺りを見れば、ほとんどの兵が地面に伏していた。その光景に思わず唖然とする。
そこまで集中―というか、敵一人しか見ていることができなかったのか。
そしておそらく油断だけしかしていなかった伊達政宗も、同じく。誰のものかはわからないが―恐らく兵士たちの名前を呟いている。

「てめぇ…てめぇ!」
「―、下がっていろ」

どん、と胸を押され何事かと思ったときには、既に目の前に来ていた三成さんが、伊達政宗を弾き飛ばしていた。
伊達政宗は砂埃を巻き上げてすべるように下がる。憤った瞳で三成さんを睨んで、六つの鞘から刀を全部引っつかんで引き抜いた。