Fate:Catalfining
フェイト・カタルフィニング

 
 
78:23:55



 セイバーの宝具でキャスターとその海魔を消滅させた後。ランサーはなにかの違和感を感じていた。
 仮のマスターとなったソラウに微弱ながらも異変を感じ探し回っていた時だ。それまで令呪によって感じ得ていたその気配が、突如途切れたのだ。
 違和感を感じたままソラウを探す。しかし冬木の街をひたすら探しても、ソラウは発見できなかった。

「…!プリースト!」
「どうした、ランサー」
「それは…… マスターがいなくなってしまったんだ。令呪による気配も、先ほど完全に途切れてしまった」
「…ほう」

 ランサーは敵でありながらもプリーストが害をなす相手ではないと信じ簡単にそう説明した。すると興味深げに息を零し腕を組んでプリーストは空を見上げた。

「一度家に戻ったらどうだ。恐らく…まぁ、いい。戻れ」
「プリースト?」
「はやく行け」

 促されるまま、ランサーは夜の闇に溶けた。





72:43:28

 そこでは、騎士同士―基、ランサーとセイバーの戦いが繰り広げられていた。気配を断ちその場に現れ隠れ見ていたのは、紛れもなくプリーストとそのマスターであった。
 その隣には、本来ランサーたちと共にいるはずの人物、キャンティ・クランがいる。彼女はランサーのマスター、ケイネスの部下である。元々魔術協会に所属し、その実力からケイネスの補佐、助手、護衛としてこの冬木に来ていた。
 今こうしてプリーストたちと取引しているのは、ただ純粋にケイネスに生きていてほしい…という気持ちとは、少し違った。

「…本当に保護してくれるんですか」
「まぁ、頼まれればね。そういう約束をしてしまったのだし」
「……令呪が今ここにあるとは言え…ケイネス様が言峰神父から奪い取った令呪は、確かにまだランサーの令呪としてあの手にある。衛宮切嗣が一体何を目的としているかがまだわからない」

 キャンティが悔しそうにそう零す。

「まぁ目的は明確よね。魔術師殺しは他のサーヴァントを消そうとしているんだから」
「…!じゃあ、衛宮切嗣はランサーを…?」
「あの性質からして、セイバーに勝たせるためというつもりでもないでしょうね。今この場に姿を現していないことを考えて、直接手を出すのはマスターの方でしょう」

 ソラウがすでに令呪のある手を残して行方不明のままであるという事は、キャンティも耳に入れていた。その事実からも、次命が危ういのは考えるまでもなくケイネスだ。
 強く拳を握るキャンティを一瞥して、プリーストはに目配せして一度その場を後にした。

「…とにかく、私も休んで回復はしたから、ランサーに無理やりにでも主従契約を結ばせることは簡単よ」

 今、彼女たちが何をしているのかというと。
 半分は慕う気持ち、もう半分は本人も理解しようとしていない私的な感情から、キャンティは己の雇い主でもあるケイネスを救おうとしていた。
 完全な魔術師であるケイネスよりは、いくらか戦というもの―基魔術師に対する戦い方というものを知っているキャンティは、現在ランサーを狙っている"魔術師殺し"である衛宮切嗣が、正々堂々とした戦いを求めているセイバーと戦わせて勝ちを信じるような人間でないことは重々承知していた。
 しかし、かといって、孤立無援と成り果てたも同然の状態のキャンティでは、聖杯戦争での勝利を捨てると宣言した所で状況が好転するはずもない。
 だから、藁にもすがる思いで、あるツテを頼った。
 それが、今キャンティの目の前にいる聖杯戦争のイレギュラーでもある一人のマスター、だった。

+*+

 紅茶がまだ残っているカップを置いて、はふぅと息をついた。

「…ま、かまわないわ。ケイネスの保護を条件にランサーを受け取る。ちょうど、うちのサーヴァントが引きこもるには最強のねぐらを用意してくれたから、そこにいればおおよそ誰にも手出しは出来ない」
「―そうか」
「で、問題は、どうやってそれを実行するか。ランサーは騎士道云々うるさい人のようだし、令呪移譲しただけじゃ主替えに同意しないでしょう。令呪で命令すればいいとはいえ、わだかまりがあるのは面倒よ」

 スコーンに手を出しつつ、少し考え込み始めたキャンティの言葉を待つ。

「…ギアススクロールを使うのはどうだろう。ケイネスの保護の代わりにランサーのマスター権限を移譲した、と」
「ケイネスにそれを書かせることはできるの?」
「今はできない。だが聡い人だから、事が済んだ後改めて求めればギアスを結ぶことは可能だと思う。要は、ランサーを咄嗟にうなずかせるだけの事があればいい」

 なるほどね、とは頷いた。

+*+

 偽物のギアススクロール(とは言え、内容は『キャンティ・クランはランサーことディルムッド・オディナの令呪を移譲する代わりに主であるケイネス・エルメロイ・アーチボルトの保護を求めた』…と書かれているのだが)を持って二人はその場に現れていた。

「…けど、衛宮切嗣がランサーに自害を命じていたらどうするの?」
「それは…」

 キャンティは言葉に詰まる。令呪の強制力には抗うことは出来ない。「まぁ、別にいいけど」は浅く息をついて、物陰からランサーとセイバーの戦いを見据えた。
 そこに、ふっと険しい顔をしたプリーストが現れる。どうしたのだと聞くと。

「何、少し個人的に許しがたい非道を見てきたところだ」
「…どういうこと?」

 プリーストはやれやれと首を振って、戦う騎士二人に視線を向けながら話しだした。
 どうやら今現在、衛宮切嗣がケイネスに話を持ちかけているらしい。
 「衛宮切嗣がケイネス並びにソラウに今後手を出さない」ことの対価にして提示されていた条件は、なんと先ほどたちもまさかと思いながら危惧していた事だった。
 ―ランサーの自害。

「しかしな、問題はそこじゃない。マスターが、自分を含めサーヴァントを勝たせるための策である。よくあることだ。しかし衛宮切嗣は、その条件をまともに遂行するつもりはないようだ」
「…まさか!」

 ばっ、とキャンティが振り返る。探すように辺りを見て、まさか、ともう一度呟いた。

「その通り。名前は知らんがあの男には優秀な部下がいただろう。近くに隠れている」

 淡々と告げられたそれに、キャンティは恨みを吐くように衛宮切嗣の名を呟いた。「そう憎むな」困った顔でプリーストは言う。
 それから雰囲気を変えるように、を向いた。

「とにかく、ケイネスはギアスの通りランサーに自害を命じるであろう。尊い英霊の戦いに、そんな水を指してはならない」
「それはそうだけど、でも令呪の強制力はどうするの?衛宮切嗣と接触している現状で、ランサーにもケイネスにもそんなことを説明している暇はないでしょう」
「うん?うーん…ふむ。よし、すこし魔力をいただくことになるがよいな」

 少し唸った後プリーストは一人勝手に納得してそう切り出した。キャンティもも、「はぁ?」と眉根を寄せて唖然とする。

もマスターであるなら見えているだろう。サーヴァント"プリースト"のスキルを」

 …言われて、初めてはサーヴァントステータスを覗き見た。本人からの自己申告によりステータスの把握はしていたのだが。
 軒並みC以上の高ステータスはさておき、そのイレギュラークラスの保有スキルといえば―
僧侶の属する教会は治外法権であり、その代表として英霊にもある程度の制限はあるものの命令を聞かせられるというものだ。

「『強制命令権』。いわゆる教会などといったものが治外法権だから、サーヴァントとして選ばれた中で代表として命令を聞かせられる。わたしのそれは神格に近いものがあるせいかAランク…だが、これではきっと契約の証である令呪の執行力には負けてしまうだろう。なので」

 おそらくは故意的に隠していたのだろう一つのスキルが開示される。…一時的に令呪を取得したキャンティにもそれが見えているようで、不思議そうに眉根を寄せていた。
 スキル名は『変化』、ランクはEx。

「ここで私の正体の一部を晒そう。我が名はロード。大本は"妖精"本体だ。つまりこのスキルは、その姿を再現する」

 自慢気な表情で語るプリーストに訝しげな視線を送ってそのスキルを確認する。
 『変化:Ex 本来の姿に変化する。対界宝具とスキル原初の一を入手し、全てのステータスが敵対する者よりワンランクアップする』―。
 つまり必ず相手よりも上回る力。この場合、ランサーのマスターによる令呪の執行力よりも上回ることで、プリーストのスキルによる命令を優先させる、ということだろう。

「…そんなスキルがあるなら、参加者はあなたをサーヴァントにしたがるでしょうね」
「はっはっは。命令権は当人の信念に従いまっとうな理由のあるものでないとならないし、スキル原初の一はマスターからの魔力供給が万全でないと発揮できない。便利なものではないさ」
「魔力供給だけならどうやってでも賄う方法はあるでしょ」
「…私はに協力しているだけだ。私は温厚と自負しているがその信念が自分のそれとそぐわないなら、仲良くしていた者だろうと剣を向けることはある。  というか、私は人を殺せないからな。敵を倒す事はできん」

 苦笑しながら告げられた言葉に、とキャンティは渋い顔で返して、それから視線を動かした。
 どうやら丁度、騎士二人の戦いに変動が訪れたようだった。



  
 
72:36:24



 本来なら聞こえるはずもないほど遠くのまじないの言葉を、プリーストは鋭く聞きつけた。

『令呪を持って命ずる。ランサーよ―…』

 顔をしかめる小さな変化にが気付く頃には、既にそこにプリーストはいなかった。
 柔らかな風があたりを包み、全員が、動きを止めた。

「―ぐ、ぅ…?」
「、―?」

 ばしゃ、と正面にいたセイバーに血が跳ねた。何事かは、その自分の赤い槍が胸に突き刺さっているランサーでさえ理解できていないようだった。
 それを目視したは、まさか間に合わなかったのかと眉根を寄せる。

「残りの令呪を持ってランサーを自害させる。確かに―…!?」

 建物の影から、ぐったりとしたソラウを抱いて車椅子で移動するケイネスと、数歩分ほど離れた場所にいる衛宮切嗣が姿を表した。
 ランサーが足元の砂利に膝を付けて呆然としているのを見て何か呟くが、その瞬間目の前に舞い降りた謎の存在に、息を飲んだ。

「"彼の者の不当な死を許可しない"」

 そう、意味は伝わってくるが、耳に入る音は確かに人の言語ではなかった。
 だがそんなことを気にするより、その場の全員は目の前の光景に言葉を失う。
 がらんと音を立ててランサーの赤い槍は何もなかったように地面に転がり、しかしその胸から血は流れ続けていた。しかしその傷も、夜闇に相応しくない謎の存在が手を向けただけで一瞬で治癒したことが伺える。
 わけがわからないとばかりにゆっくり顔を上げたランサーは、その姿を目にした途端、片膝を上げ頭を垂れる―さながら、騎士が主に額づくように。

「ロードよ…!御慈悲感謝致します…!」
「顔をあげろディルムッド。この加護は周りの悪に対しての守りであるのみ。次からはない」

 そんな様子を、全員が顔をしかめて眺め見る。特に、上手く計画を遂行しきったと考えていた衛宮切嗣は、無表情ながらも苛立ちを隠せていなかった。
 懐からタバコを取り出し火をつける。―それが何かの合図だったようで、次の瞬間どこからか幾多の銃弾が飛来する。それに気付き驚くのは、それが向かう位置にいるケイネスと、最初から彼の安否を気遣っていたキャンティ。しかし両者共に、それをかわすだけの余裕はなかった。
 だが心配も必要ないほど自然に、その銃弾はケイネス達に振りかかることなく透明な壁に撃ち落とされていった。

「随分な対応だな衛宮切嗣。…我がマスターよ!」

 したり顔で目を細めてプリーストはを呼ぶ。
 それなりの修羅場をくぐり抜けて来たでさえ呆然としていた時、突如名を呼ばれ我を取り戻したは、呼ばれたとおり足早に彼女たちの元に移動する。
 心底不愉快そうにする衛宮切嗣を一瞥して、未だ片膝をついていたランサーを見下ろし、二人分の令呪を見せた。

「あなたは…まさか、ロードがサーヴァントとして召喚されていたのか」
「その話は後。サーヴァント・ランサー、あなたはマスターケイネス・エルメロイ・アーチボルト及びソラウ・ヌァザレ・ソフィアリの保護を条件に、私がマスターとなります。同意なさい」
「何か事情があるのですね。ロードのマスターよ、御意に」

 ぱしんと光が弾けるようにプリーストは元の見知った姿へと戻る。そこに、一丁の銃口が向けられた。

「さすが魔女だ。よくわからないサーヴァントを召喚したんだな」
「…そうだったみたいね。で?私を殺すのかしら」
「ランサーを打倒出来ないままのこのこ帰れないからね。君を殺せば、サーヴァントを二人も使いこなせるやつはいなくなるだろう…と、思ったけど」

 衛宮切嗣は向けられるいくつかの殺気に、やれやれとばかりにその銃を地面へ落とし両手を上げた。

「僕はここでの戦いの負けを認める。少なくとも君のサーヴァントは、そんな奴相手に剣は向けないだろう?」

 にやりと切嗣は笑う。この場を切り抜けることを考えたようだ―殊勝なことだ。

「そうだな。別に負けを認めなくても私は手出ししないが…キャンティとは先に戻れ。私は騎士王と少し話がある」
「…はい」
「僕には手出ししなくてもサーヴァントは潰しておこうってことかい?」
「いや。話があるだけだ。私の個人的な趣味として剣を交えたいとは思っているが、この間言いそびれたことをな」

 切嗣は黙ってちらりとセイバーを見た後深い溜息をついた。「始めに消しておくべきだったな」と呟き背を向けた。

「好きにしなよ。どうせもう夜が明ける」
「き、切嗣!」
「そちらの白銀の姫君は、決闘の勝敗を決めてもらうため残ってもらいたいのだが、よろしいかな?」
「かまわないよ。戦わない相手に手は出さないだろう」

 背を向けたままそう返して、切嗣はその場を去っていく。呆然としたままのアイリスフィールと、セイバーを残して。



  
 
72:31:58



 審判を頼まれたアイリスフィールからすれば、すごく短くも感じたその勝負。動きが見えたのは、お互いが間合いを取ってにらみ合っているときくらいだった。それくらい二人の剣撃はすさまじいものだったのだ。
 セイバーの仲間であるアイリスフィールが審判である以上はある程度セイバーを優遇するつもりでいたものの、今目の前で膝をついているのは紛れも無く、セイバーだ。
 プリーストは残念そうに、ただセイバーを見下ろしている。「……哀れだな」とため息とともにこぼした。

「一体どういうつもりだ?決闘などと」
「私の個人的な趣味だ、戦い自体は。勝ち負けに意味も興味もないし、目的は貴様と話をしたかっただけだ」

 言われたとおりに武装して武器を構えたセイバーと余裕を崩さないプリーストが戦いを始める直前の会話はそんなものだった。
 しばらく睨み合い、埒が明かないとアイリスフィールが「始め!」と声を上げた時、二人が地面を蹴り攻撃を始める。
 大きく激しい金属のこすれあう音のせいでしっかりとは聞こえなかったものの、セイバーが戦意を失いかけているのは勝敗方というよりもその時プリーストに言われた事のせいがあると、アイリスフィールは思った。

「まぁ、私の姿に見覚えがないなら、言った所で意味は無いのだろうが。これは私のエゴであり、信念だ。言いたいことはしっかりと言う」
「……」
「私はな、少し憤りを覚えているんだ。セイバーアルトリア、貴様にな」

 セイバーはすっと目を細め、襲い来る刃を受け流しながらプリーストを見据える。何故そんなことを言われなければならないのかとでも言いたげだ。
 その視線に気付いてプリーストは苦笑し、セイバーの攻撃を受け止めた。

「この程度の攻撃では倒れないよ。あの光を放ったらどうだ」
「馬鹿にしているのか!」
「一つ諭そうと思ってな。ライダーほどでもないが、私も貴様の考えは納得できない」

 ぎり、と奥歯を噛み締めてセイバーは攻撃にさらに力をこめる。

「確認しておきたい。貴様は聖杯に"貴様が王としてやり直す"ことを願うのか?それとも"貴様のいない、繁栄した国"を願うのか?」
「……!」
「前者ならまだしも、後者を考えているならば私は認めない」

 セイバーは剣を振り払い間合いを置く。プリーストを睨み付けてフンと笑う。そして今まで添えていただけの片手で剣を持ち直し高く掲げた。
 剣はまばゆく光り輝くと、セイバーはそれを振り下ろした。その輝きを見てプリーストは息をつくと、瞼をおろし光を浴びた。

「やった…!?セイバー!」

 アイリスフィールが駆け寄ろうとしたとき、ぱちりと何かに弾かれる。驚いて足を止めた。
 プリーストが立っていた場所には何も転がっていない。勝利を確認した瞬間、地面に先ほど見たような魔方陣が浮かび、瞬きをしている間には無傷の彼女がそこに立っていた。
 二人は困惑にも似た表情で息を飲む。

「貴様のその剣は、その伝説を揺るがぬものにした星々による聖剣。貴様の強さではない」
「…わかっている。そんなことは!」
「だが、その剣が最強と言われるのは、貴様の力あってこそだろう」

 ―その言葉に、セイバーは瞠目し剣を止めた。
 それまで散々その実力を見下げられていたセイバーにとっては唐突な評価だった。

「その剣があるから王なのではない。貴様が王足りえるからその剣があるのだ。それを違えるな」

 プリーストはかすかな殺気を放って詰め寄る。セイバーは咄嗟にその攻撃を受け流すも、体勢を直している暇ももらえないまま次の攻撃の色を察知した。

「ライダーではないが、貴様のそれまでの行いを覆すということは、その光を溝に捨てるということだ。わかるか?」
「いくつの光を捨てようと、私は聖杯に願ってそれ以上を救いたいのだ!」

 その言葉に、プリーストは珍しく目の色を変えた。憎憎しげな、そんな表情だった。

「本当にそうすることが数多の救いになると思っているのか?世界は貴様だけのものではない!」
「、…!」
「それが分かっていないから子供だと言われるのだ。失敗を恐れるから進めない、受け入れないからたどり着けない。覚悟を決めたと言うのは嘘か?貴様は理想に準じてこそと語った、ならば何故ライダーの言葉に言い返さなかった?
 王というものの定義も何もかも好きにすればいい、だが王は守る者でも救う者でも無い、導く者だ。貴様はそれを違えた、だから悔やんでいるのだろう」
「…っ貴様に!何が分かる!」
「理解をさせなかったのが貴様の落ち度だ!」

 強烈な振り下ろしにセイバーの剣が地面に突き刺さる。動揺からか息を荒げ、咄嗟に足払いをかけるがかわされプリーストは間合いを取ってセイバーを見下ろした。

「滅んだのは貴様のせいではない。貴様に導かれた者たちによってそうなったまでのこと、貴様が何をしようと、これ以上どうすることも出来ない」
「…だが、出来なくとも、成すのが聖杯の力だ」
「貴様は聖杯を手にする力など持っていない。その程度の心ではな」

 セイバーは剣を引き抜こうとするが、力が抜けたのか片膝をつく。何か考えているのか、顔色が悪い。

「…哀れだな。白銀の姫君よ、勝敗はまだ決さないか」
「え?あ… ……。あなたの勝ちで、いいわ。少なくとも、これ以上戦わせるわけには行かないもの」
「……そうか。なら、勝敗はしっかりと衛宮切嗣に伝えてくれ」

 そういって闇に溶ける。丁度、夜が明けた。



  
 
72:27:41



「一体どういうことだ、これは」

 の屋敷に戻り、実体化しろと命じられたランサーはしばしの沈黙の後隣で俯くキャンティに向けて言葉を向ける。
今、当のは負傷しているケイネスとソラウをつれて奥の部屋に行っている。話しかけられたキャンティは俯いたまましゃべらない。伴ってランサーもなんと続ければいいのかわからず再び静寂が訪れた。

「…キャンティ殿」
「別に、あんたを助けるためにやったわけじゃない」

 短く返されてまた押し黙る。気まずい雰囲気に汗を流した頃、ガチャリと奥の扉が開き、出てきたは二人を一瞥すると「後の看病お願いね」とキャンティに向いた。
 うろたえながらもすぐにうなずき、キャンティは奥の部屋に消える。
 ランサーが座っているものとは反対のソファに腰を据えふぅと息をついた様子を眺めてから、ランサーはもう一度声を発する。説明してくれと問うがはランサーを見つめるだけだった。

「聞きたいなら順番にどうぞ。答えられるだけ答えるわ」
「…あなたは、一体何者なのでしょう。ロードほどの方をサーヴァントとして召喚できるなど」
「それはわからないわ。相性か、プリースト自身の気まぐれとしか考えようがない」

 おおよそランサーが求めていた答えとは違ったが、プリーストのことを知っているらしいランサーからすれば、「彼女の気まぐれ」と言われれば納得せざるを得ないようだ。
 は思い出したようにポケットに突っ込まれていた紙を取り出した。それなりに上等な紙のようで、黒のインクで文字が書かれていることがわかる。それをランサーに見せじっくりと目を通させる。

「ギアススクロール。ケイネスの命の保護を条件にあなたのマスター権及び令呪を頂く。元々はキャンティと結んだものだけど、ケイネスとも正式にギアスを結んだから」
「…ええ。ケイネス殿をよろしくお願いします。このディルムッド・オディナ、あなたの槍として尽くす、我が主よ…それで、俺は一体何をすれば?」

 その問いには一瞬迷う。あくまでもキャンティが提示した条件に対する見返りであるだけで、何かしてもらいたい事があったわけではない。
 しかしランサーは様々な感情が入り混じった複雑そうな顔での返答を待っていた。

「ひとつ言っておくと、私は別にあんたたちが哀れに思って助けたわけじゃない。あと、騎士だろうとなんだろうと、その面倒な思考どうにかしたほうがいいわよ」
「は、…はぁ」
「別に強制するつもりはないけど。基本私の言うことは聞いてもらうし、そのつもりでいて」

 の言葉に何か思い出したのか、ランサーは少し視線を外す。それを見て、は珍しく口角を上げ笑んだ。

「安心なさい。褒美くらいはあげるわよ」

 似合わず頭を撫でられ、ランサーは呆然とする。
 はまた立ち上がって、別の部屋へと入る。呆然としたまま、ランサーはどうするでもなく霊体化して姿を消した。






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