赤月の魍魎

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赤月の魍魎

Character
  • うちはイタル
     うちはイタチ・イオリの息子。ヒツギを養母として育ち、今は火影直轄部隊の若き隊長。自立してからは一人暮らしをしているが、サクラたちうちは家に夕飯を食べに来たり、サラダとは兄妹のように仲良くしている。

  • うちはイオリ
     イタルの母。先の忍界大戦で連合を守るかのようにうちはマダラと対峙し命を落とした女性。

  • はたけヒツギ
     四代目火影の優秀な秘書として里のくのいちから人気を集めていた女性。
     イタルを引き取ってからは引退し、現在はカカシと(縁談避けくらいの気持ちで)結婚し、ご意見番のような立場で里を見守っている。旧姓 遠谷。


  •  古来より世界を転々としていたという謎の戦闘一族の末裔、生き残り。かつて大蛇丸にその血を求めて拉致、記憶を奪われ忠実な部下にさせられていた。
     忍界大戦にて重傷を負い、忍を続けることができなくなったが、現在は大蛇丸のもとでその体質や一族のことを調べるため旅をしている。
  •  雨の降る午後だった。
     しとしとと森の中の木々を濡らしている。 緋色の傘を差し、有用な薬草を採取しながら歩いていた。
     その女―朧は、普通ならば厭われる雨の中こうして散歩するのが好きだった。晴天では出てこないいきものが顔を出し大地に生命をもたらす恵みの雨だ。
     今朝出立したアジトから幾程歩いただろうか。ふと、何気なく振り向いた。雨音が聞こえるだけで外には何も聞こえない。
     視線を前方に戻し―違和感に気付いた。
     何故、雨の音しか聞こえないのか。
     自分が草をかき分ける音も、雨蛙が跳ねる音も、雨粒が傘に弾かれる音も、しない。
     咄嗟にあたりを見渡す。その頃には雨は赤く染まっていき、足元の水たまりが靴を汚した。僅かな殺気に焦りを感じてしまう。
     朧はかつて忍であった。しかし先の大戦で重傷を負い、一命は取り留めたものの忍として生きるには不十分となり、今は自分以外滅亡した一族に関して調べながらほそぼそと暮らしている。
     己の身体からはチャクラを生成出来ないが、それでも奥の手というものがある。傘をぎゅっと握りこみ、まぶたを下ろす。一見無防備に見えるが警戒を解いたわけではない。
     体内の僅かなチャクラを乱されていくのを覆うように、新たな自然のエネルギーを増幅させる。左目の下、頬に雫のような模様を浮かび上がらせた。
     ややあって目を開き、その力を持って辺りの気配を探る―しかしその頃には、殺気も違和感も、赤い雨も消えていた。
    「……………」
     向けられていたかすかな殺気とあの風景を頼りに考えを巡らせる。
     紛れも無くチャクラを帯びてこちらを殺そうとする気。朧自身過去に色々とやらかしているので命を狙われる覚えがないわけでもないが、よもや自分でも気配を追い切れない実力者に狙われるとは予想していなかった。
     雨の止んできた空を見上げ思案する。何やら嫌な予感がする。元々この場所―木ノ葉の里付近へ来ていたのも、ある事を木ノ葉の忍に伝えるためだった。その内容を含め、どうにも一人で解決出来そうなものではない。一番事情に通ずる男に道中会えればよかったのだが、お互いに近況を知っているわけでもなく、そううまくは行かなかった。
    「……、」
     息をついて、朧は再度自身の中に自然の力を貯めていく。十分に貯めきった後、朧は傘を仕舞いぬかるんだ地面を蹴った。


    火種

    「行ってきます!」
     誰もいないんだけど、と一人心の中で苦笑しながらも元気に言った。
     建て直された特殊地盤製の新居。堂々とうちはの家紋を掲げた自宅を見て、サラダは自慢気になりながら木ノ葉の額当てを直し、任務へ向かうため踵を返して走りだした。
     母サクラは隣の小国へ医療の援助のため任務に出て二日目。父サスケは一週間ほど前にSランク任務に出掛けており、寄り道をするのでだいたい二週間かかると聞いている。自分を含め家族三人の説得により一緒に暮らし始めた従兄弟のイタルは、まだ日の登らない真夜中に柱部の任務に出かけていった。
     サラダの所属する木の葉丸班の今日の集合場所にすでに到着していたのはミツキだけだった。おはよう、と挨拶を交わし時刻を確認する。集合時間より十分前、まだ遅刻ではないが、もう一人の班員ボルトと担当上忍木の葉丸はどうだろうか。
     下忍になってもうそろそろ一年が経つ。半年ほど前に行われた中忍試験は乱入者のせいで中止となっており、最終試験まで残っていたというのに、まだ中忍には昇格していない。
     乱入者―モモシキ、キンシキによる被害は凄まじく、七代目火影が身を呈して守ってくれたものの現場となった最終試験会場は見るも無残な状態になっている。現在建て直しが進んでいるとはいえすぐさま試験を再開することはできないでいた。代わりに他国でやるという話も出たようだが、どちらにしても準備を整えるのに時間が掛かるとのことで、それならば一年に二度行われるのだから今回は中止のままという事に落ち着いたらしい。七代目火影の息子でありもう一人の班員であるボルトからの情報だ。さらに噂では、来月には今年度二回目の中忍試験が行われると聞く。眉唾ものだが、それでもサラダは修行に力を入れていた。イタルに手裏剣術を教えてもらったり、父に写輪眼を教えてもらったり、母にチャクラコントロールを教わったり。あの頃よりもきっとずっと強くなっている自信がある。
     そんなことをミツキと話していると、時間ぎりぎりになってようやく木の葉丸が顔を出した。そしてちょうどの時間にボルトが今さっき起きましたと言わんばかりの雑な格好で現れる。時間厳守、といつもしているような小言を飛ばし、木の葉丸のなだめを聞いて―今日の任務に就くため、火影塔へ向かった。
    「今日はそうだな…新しい下忍も増えてくる頃だし、Dランクはそっちに回すとして」
    「父ちゃん、俺ってば護衛任務とか、討伐任務とか、もっとすげえ任務したいってばさ!」
    「バカボルト、まだ下忍の私たちがそんな任務出来るわけ無いでしょ!」
     息子の嘆願に火影ことナルトは自分の過去を思い出して苦笑する。
    「ならこれだ。この任務は、並の忍では耐えられない忍耐力を必要とする難しい任務だ」
     ピラリと任務書を見せながら言えば、ボルトは顔を輝かせた。
    「最近里から東方面、他国への道中で盗賊が出るらしい。と言っても目撃情報によれば盗賊だったり猿だったり家無し子だったりと正体がはっきりしねえ。そこでお前たちにして欲しいのは、現状の把握と被害の調査だ。休憩所で休む一般人や商人を狙う貧しい子供だとか、普通の猿だったらそれ相応の対応をしてくれりゃいい。ただし、相手がお前たちの手に負えねえ強い盗賊だったり忍だったりしたら、必ずその情報を入手した時点で里へ戻れ。決して交戦するな」
    「それくらい俺が―」
    「駄目だ。相手が万が一忍だったんならBランク任務になっちまう。調査依頼と掃討依頼は別にあるから、ちゃんとわけなきゃなんねーの。木の葉丸、サラダ、ミツキ。頼んだぞ」
     ちぇ、とつまらなさそうに唇をとがらせるボルトに、まったく恥ずかしいとばかりに眼鏡をいじり溜息をつくサラダ。微笑ましそうにしているミツキと、困り顔ながらも任せて下さいと胸を張る木の葉丸。その面々を見てナルトは頷くと、書類に任務依頼完了の火影印を押した。
     木ノ葉丸班の出立を見送った後、ぐぐっと背伸びをした。傍に控えている柱部の忍にはまだ今日始まったばかりですよと笑われながらもナルトはふと外を見た。何かが見えたわけではなくただ空を眺める。 ―しかし何かの予感を察知したのかもしれない。
     いつもと変わらないはずの窓の外は、どこまでも青かった。

    §
     木の葉丸を先頭に街道を走る。警戒は強くなく、時折見たことのある人ともすれ違う度挨拶をしていた。
     やがて一番被害報告の多い休憩所付近へ着くと、木の葉丸の指示により四方に別れ潜伏する。人通りの多いそこは、気配を紛らわせるにはうってつけだった。
     休憩所を名目通りに利用するのかそうではないかを監視する。―ただ待つだけで、時間が過ぎ去っていった。一時集合の合図によって木の葉丸の元へ集まると、案の定ボルトがふてくされた顔で文句を言い始めた。
    「盗賊も猿も何もこねーじゃん!がっかりだってばさ!」
    「忍耐力の必要な任務、って言っていたからね」
    「うるさいわよボルト。どんな任務だろうと文句ばっかり言ってないで黙ってこなしなさいよ」
     いつもの言い合いを経て、ひとまず昼食休憩と相成った。元々一日で片付く任務だというつもりもなかったが弁当を食べながら作戦の立て直しとなる。
     範囲を広げて捜索するとか、情報収集をするだとか。時々休憩所を利用する一般人や旅人、商人たちを一瞥しながら昼食を済ませると、先ほどの作戦会議に従って散開した。
     午前中と何も変わらない風景。―そんな中で敏感にも違和感を読み取ったのは、上忍である木の葉丸だけだった。
     ふらり、とおぼつかない足付きの男が商人に近付いた。盗賊や浮浪者というほど崩れたみすぼらしい格好ではなく、かと言って商人や旅人と言うほど整った身なりでもない。盗賊に身ぐるみを剥がされたのだろうか?
     目を細めよく見据えた先で見えたものに木の葉丸は青ざめる。赤い瞳に黒の勾玉の三つ巴―紛れも無く写輪眼だった。
     いつだったか前にも写輪眼の奴に襲われた事件がなかったかとか、知っている写輪眼を持つ者が数少なく限られているのにとか。木の葉丸の頭の中を様々な情報と考えと計算が巡った。しかし何を考えるよりも先にやることがあった。写輪眼が本物だとしても偽物だとしても、それがそこにあるというだけで忍が絡んでいるとわかる。すぐさま撤退命令を出さないと行けない。
     しかし散って監視にあたっている現状で、何かしらの動きを見せれば敵も気付くだろう。一度敵の行動を見定める必要もあった。
    「なんだね君は…?」
    「…――……、…」
     ふらふらと歩いている男は、怪訝そうに首を傾げる商人の問いには答えなかった。パクパクと口を開けては閉じて、瞬きもせずゆっくりと商人に近づく。開かれた口からはだらしなく涎がこぼれ、写輪眼と言ってもあからさまに焦点は合っていない。
    「てめーが盗賊だな!俺がぶっ飛ばしてやる!」
    「あのバカ…!」
     勇ましい掛け声と共に男の前へ飛び出したのはボルトだった。意外性ナンバーワンと謳われたことのある七代目火影の息子なだけはある―しかし、今の状況は流石に笑えなかった。自慢気に右手のひらへ小さな螺旋丸を作り始めるボルトに木の葉丸は頭を痛くする。
     気付いていないとでも言うように商人て手を伸ばす男に螺旋丸を向けるボルトに、 状況が飲み込めず男とボルトを交互に何度も見る商人。木の葉丸はその場からすぐさまボルトを止めるため地面を蹴った。
     街道へ躍り出た木の葉丸を見て、判断に困っていたサラダとミツキもそれに続く。
    「ミツキ、とりあえずその人を助けろ。ボルト!相手は忍だ、撤退するぞコレ!ミツキ、サラダはボルトを止めたらすぐに里へ走れ!この事を七代目に伝えて、至急討伐部隊を組んでもらってくれ!―あとできれば、サスケさんを呼び戻すよう依頼してくれ!」
    「―ッはい!わかりました!」
    「なんでだってばさ!盗賊一人くらい、どー考えたって俺達だけで…!」
    「馬鹿ボルト!アイツの目を見なさい!」
     言われて初めてボルトは男の写輪眼に気付いたのか、ぽかんと口を開けて青ざめた。商人をそれなりの場所まで移動させたのか戻ってきたミツキを伴い、男の出方を見ながら里へ向かうサラダたちを背にした木の葉丸を案じながら、命令通りに里へ走りだした。
     敵がその男一人だけだったなら、三人も無事里へ戻れただろう。しかし駆けるサラダ達の前にもう一人、現れた。
     正確には、ようやく立ち上がり一人で走れるようになったボルトを離し、スピードをあげようとしたサラダの背後だった。何の気配もなくするりと伸ばされた手はサラダの首に周り、顎を掴むとゆるやかに上を向かせた。
     そこまで近付いても殺気は感じない。けれど血の気が引いていくのがわかった。赤と黒の三つ巴が、サラダをじっと見ている。背にひょうたんのような形の平べったい武器を担いでいるが、構えてはいない。体の芯が冷えていく中で、サラダは必死に手足を動かそうと、この状況を打開するための何かを講じようとする。
     しかし殺気も放たれていないと言うのは、殺気を覚えなくとも自分たちを殺せるということなのだろうか。痛みを感じる暇もなく、悲鳴を上げる暇もなく殺されてしまうのか。そんな考えばかりが脳裏をよぎって、サラダは声を失っていた。
    「サラダを離せェ!」
     ボルトの咄嗟の掌底が敵を襲う。しかし少し体を捻り背の武器にあたっただけで、次の瞬間にはボルトは強く蹴り飛ばされていた。木にぶち当たり呻きながらなんとか気を失わないようにだけ強がるが、それでもとてつもない衝撃に咳づいている。
     ミツキが伸ばした腕を隙間から忍ばせサラダに巻きつけて掴むと、木の葉丸の影分身が作った螺旋丸が当たるのと同時に引っ張り救出した。大丈夫、と心配し確認の声をかけているが、視線は全員その敵に向けられていた。
    「…面白い。ワタシに歯向かうか」
    「…!お前が親玉か…?」
     木の葉丸が探りを入れる。男とも女とも取れる声をしたそいつは、よく見ると木の葉丸よりずっと背も低く、未成熟な身体をしているように見えた。
     じり、と影分身が再度サラダ達を逃がすため敵の前に出る。三人だけで逃がすのは危険だ。少しでも帰還率を上げるため、影分身でも木の葉丸もついていくのが得策だろう。
    「いいかコレ…俺が影分身を出したらすぐに里へ向かって走れ。今度こそ、絶対にだ」
     木の葉丸の言葉に全員が頷くと、少年の動きを観察しタイミングを探る。コキコキと首を鳴らし気だるそうに左目を細めているが、その鋭い視線だけはサラダを射抜いていた。
     どく様子のない彼らにため息を付いた瞬間に、木の葉丸は声を張り上げると影分身がサラダ達の手を引いて走りだす。ミツキが忘れずにしっかり腕を伸ばしてボルトを回収すると続いて走りだした。 縄で縛り、ひとまず浮浪の男を拘束し終えた木の葉丸の影分身と本体が同時に敵へ向かう。様子見のクナイと本体による火遁攻撃。近距離で打たれたそれにも少年は動じず遠ざかるサラダ達ばかり見ている。攻撃が当たる間合いであるというのに少年は暖簾をくぐるような軽々しさで攻撃を避けると、木の葉丸を一瞥して再びサラダを追い出した。
     一筋縄でいかないことはわかりきっている。せめて彼らがすぐに追われない程度に―この場から目を凝らして見えない程度には離れられるほどに時間を稼がなければ、自分が上忍を名乗る資格はないと木の葉丸は歯を食いしばった。
     倒すことが出来ないならばせめて拘束を。木の葉丸は影分身を増やし四方から相手に飛び掛かった。七代目火影・ナルトほど何十何百といった数の影分身は出せなくとも、十幾つの影分身は出せるようになっている。足元、上空、前後左右からフェイントも含めて一気に襲いかかればどうだ。
     写輪眼を持つその少年は、面倒そうに立ち止まるとゆっくりと一つ印を結んだ。―午の印。
    「火遁・業火滅却」
     少年の口から吐き出された火の壁は、木の葉丸が見たことのあるものの中で一等広かった。一つの印だけでこんな炎を射出されてしまえば、印だけで予測する時間が短すぎて避ける時間も相反する術を放つかを考える暇もない。
     咄嗟に分身が本体を蹴り飛ばし術の届かない範囲まで退避させる。すべての影分身は今の火遁で消滅してしまった。
    「…―邪魔だ」
    「……ッ!」
     すぐに立ち上がりクナイを構えるが、正体もなにもわからない状態で敵として相手取るには不利だった。ただ戦うだけなら、もしかしたら相打ち程度には行けるかもしれないと前向きに考えるが、自分には生きて帰って班員の無事を確認しこの事態を報告する義務がある。
    「…あの子に何の用がある」
    「…………」
     なぜ話さなければいけない、と言わんばかりの顔だ。木の葉丸はどこかのタイミングで撤退を果たすため、少しでも敵の情報を仕入れるために言葉を尽くすことにした。
     もし何かしら誤解があるのならばそれに越したことはない。―可能性はかなり低いが。
     じっと少年の姿を観察する。背はサラダ達よりあった。成長が早いのか同期の中でも身長が高めのボルトよりも上で、顔の輪郭から見れる年は十四、五歳と言ったところか。
     背ほどまで伸ばされた髪はボサボサで、前髪も乱雑に長い。包帯で右目を隠しており、無言のまま見つめる木の葉丸を細めた写輪眼の瞳でじっと見据えていた。
    「お前の名はなんだ!何故写輪眼を持っている。うちは一族は十年以上前に一度滅びた。写輪眼を持つ正当なうちはの者は三人しかいない!」
     木の葉丸の言葉に、少年は初めて表情を変えた。瞠目し、今にも攻撃しようと背の武器に伸ばしていた手を下げる。焦燥したような、絶望したような表情だ。
    「うちはが滅びた…だと…?もしや、父上の言ったとおりに…!父上が築き上げたうちはが!母上が守ったうちはがなぜ途絶える!」
    「…!?」
    「なら…ならば、やはり先程の小娘はワタシが保護しなければ。木ノ葉においてはおけない…」
     ゆらめきながらぶつぶつと呟いた口を止め、じろりと前髪の隙間から木の葉丸を睨み上げる。初めて向けられた殺気に木の葉丸は唾を飲んだ。
     このわずかな時間で、サラダ達はどれだけ進めただろう。元々トップスピードでもここまでたどり着くのに一時間近くかかっている。体感時間で十分稼げているだろうか。手の上でチャクラを蓄積させ頭を冷やしながら木の葉丸は少年を見据える。
     ―しかし螺旋丸が完成するより先に鋭い蹴りが腹に叩きこまれた。ゆうに数メートルは街道を飛ばされる。その勢いを追い越し、受け身を取り着地しようとする木の葉丸の先で少年は次の攻撃の準備をする。
    「風遁・マガツクギ」
    「ッ――!」
     高速で結ばれた印の後、圧縮された風が木の葉丸の腹を貫いた。大きさとしてはせいぜい釘一本程度の穴は見ただけでは大した傷には見えなかったが、傷口がまるで吸収されていくように捻じれ摩擦で熱を持っていくのが分かる。
     細く長く圧縮された風のチャクラは、触れる肉を巻き込んでいる。背面で小さな穴から血が弾けるように飛び、まさかこんな一瞬で、と唇を噛み締めながら片膝を着く。敵を睨みあげても意にも介していないようだった。
     血を垂れ流しながら倒れないように気を張る木の葉丸だが、もう対抗出来るだけの元気はない。
     少年の言葉の意味はいまいち分からないが、理由がどうあれサラダが連れ去られでもしたら、この国は―世界は一体どうなってしまうことか。無垢な少女であるサラダが蹂躙される残酷な可能性もそうだが、愛する家族を、娘を連れ去られたその親が、一体どう言った行動を取るのか。
     手を伸ばし少年の足を握る。サラダ達に近づけさせるわけには行かない。爪が食い込むほど強く握りこみ、振りほどこうと足を引くが簡単に逃げられては困る。木の葉丸は手のひらにチャクラをまとわせた。
     少年は一つ舌打ちし、長く吸った息を吐く。目を大きく開き改めて写輪眼をみせると、辺りの雑木林から十余りの男たちがサラダ達が向かった方へ走りだした。身なりは全員、先ほど拘束した男のようなまとまりのない格好。
     そして気を失わせて拘束したはずの男へ少年がクナイを投げると、結び目以外簡単に巻いた縄を切った。ぬらりと動き、投げられたクナイを握る。のたのたと近づき少年の足を掴む木の葉丸の手へ、それを振り上げた。
    「ッぐ、ゥ―…!」
    「どいてろ。お前ら木ノ葉を絶やすのは、また後だ」

     容赦無い痛みに怯んだ隙に、少年は木の葉丸を蹴り飛ばした。遠のいていく景色の中、すでに少年も男たちも里方面へ駆けていた。
     気を失う瞬間まで自分の実力不足を悔いて、まぶたを下ろした。

    「…これは…」
     倒れる木の葉丸の首筋に指を当て、ひとまず息があることを確認する。腹部の血は未だ流れ続けており、放置すれば出血多量で死ぬだろう。
     あいにく医療忍術は心得ていない。どうしたものかと眉根を寄せるが、悩んでいる暇はなかった。木の葉丸の死を確認しないままということは、相手は木の葉丸には用がないのだろう。
     戦いの跡だけですべてを察するには情報が足りないが、とりあえず素早く応急処置を行なうべく朧はポーチの中の巻物を取り出し中を開く。口寄せによって取り出したそれは、友人からもらった便利な医療道具だ。
     その患者に対し一番にすべき処置が何かを判断した上で、いくつかあるうちのそれを選ぶ。朧が取り出したのは急ごしらえの止血を行なうもの。特に肉をえぐられるほどの大きな傷にあてがうもので、海に生息するクラゲのようなブヨブヨとしたものを密封パックから取り出し患部に取り付けた。
    「…ひとまずこれで大丈夫でしょう。口寄せの蛇で見張らせます、休憩所ですから誰か通るかもしれませんが…すみません、僕は行きます」
     聞こえていないだろうが、朧はそう会釈して再び里へ向かう街道を駆けた。
     木の葉丸のこの惨状が、自分の感じた嫌な予感に関するものかどうかはわからない。けれど上忍である彼が倒されるほどの何者かが現れたとなっては、関係なくても足を踏み込まざるを得ない。
     走りながら、朧は自身へ自然エネルギーを溜め始めた。
    §

    「ハァッハッ…」
    「なんなんだよアイツ…!なんで写輪眼持ってんだ、写輪眼持ってるのはサラダと、サスケのおっちゃんと、イタル兄ちゃんだけじゃねえのかよ!」
    「そんなの私に聞かないでよ!わかるわけないでしょ!」
    「―とにかく、木の葉丸先生の影分身が消えてしまった以上、あいつらはもう僕達―いえ、サラダを追ってきているでしょう。敵の機動力がどんなものかはわからないけど、とにかく急いだほうがいい」
     そんなことわかってるよ!とボルトが叫び、強く蹴られたせいで痛む腹に時折眉を 寄せながら地面を蹴る足に力を入れた。
     必死に逃げながら、サラダは先程の少年のことを思い出す。大人びた風体のイタルよりは子供らしい顔つきで、大きな目を開いてサラダを見下げていた。サラダに対し敵意は持っていないようだったが、連れ去ろうとする彼を妨害する木の葉丸やボルトたちには容赦なく攻撃を叩きつけていた。
     サラダを狙う理由は何か。あのうちはシンのような、写輪眼を集めているのだろうか。けれどうちはシンよりも余裕を持っていた。自分の力に絶対的自身を持っていた。あのような人物を相手どれるのは、伝説の三忍と言われたサラダとボルトの両親たちくらいではないだろうか。
     焦りと恐怖で、通常走っているだけよりも早く息が上がってきているのがわかる。このままでは辿り着くまでにスタミナ切れを起こす可能性があったが、かと言って休んでいる暇もなかった。
     里まで半分ほどまで戻ってきただろうか。ちらりと恐いもの見たさで後方を確認すると、一人の男が走ってきていた。追手だとすぐに感づく。男たちの人数もどんどん増えていき、十人近くがみるみるうちに近づいて来ていた。
     全員がそれに気づくも、それ以上スピードを上げることは出来ない。あの一番危険な少年は見当たらなかった。
    「一時応戦したほうがいいかも」
    「けど!」
    「まだあの写輪眼野郎はいねえ。一度あいつらのしちまって、それからまた逃げる!」
     急ブレーキをかけてシャトルランのように勢い良く男たちに立ち向かう。影分身で三人に増えたボルトは、焦点の合わない男たちに親直伝の体術を叩き込んだ。抵抗もなく殴り飛ばされており、それでも構わず何度も立ち上がってはサラダに手を伸ばしていた。
    「こいつらどんだけサラダを狙ってんだよ…!」
    「写輪眼で操られているからキリがないですね。それこそ殺しでもしないと倒れない…。立ち止まったことで多少回復出来ました、そろそろ行きましょう」
     どういう過去があるのか、ミツキは落ち着いた様子でそう判断した。
     一度敵達を蹴り飛ばすと、再び里へ向かって走り出す。 ―しかしどうやら、一度立ち止まったことが判断ミスのようで。写輪眼の視力ではサラダ達を捕捉できるほどに、相手は近づいてきていたのだ。それが見えてしまい、全員が息を飲んでなけなしの力を足に込める。
     それでもみるみるうちにあの少年が近づいてくる。すさまじい速度で、たとえ立ち止まり応戦していなくてもあの速度なら遅かれ早かれ追いつかれていただろう。
     ボルトとミツキはアイコンタクトをすると、サラダにだけは何も言わず足を止めた。驚き立ち止まるサラダだったが、ボルトたちは顔を向けず少年に対して攻撃の準備を始める。
    「あいつの目的はサラダだ。お前は先に逃げろ、そんで父ちゃんかだれか呼んでくるんだってばさ」
    「何いってんのバカボルト!木の葉丸先生でも倒せなかった相手に敵うわけないじゃない!」
    「時間稼ぎだよ!ちょっと捕まえられてればいーんだ!いいから早く行けよ!」
     迷っている暇はない。悔しげに歯を噛み締めながら走りだした。
     立ちはだかる二人を無視してその合間からサラダに向かう少年をボルトが蹴り飛ばす。軽く吹っ飛んだもののすぐに体勢を立て直し苛ついたようにボルトを睨みつけながら埃を払った。
    「火遁・豪火球!」
    「うげっ!」
     大きな火の玉を咄嗟に避ける。そのまま回りこみ二人で挟むように掌底と蹴りを食らわせた。両手でがっしりとその攻撃を捕まれ、そのまま前方へ投げ飛ばされる。
     すぐにクナイを握って立ち向かう。体術特化の母親に鍛えられた柔拳でも、動きを見切る写輪眼を前にしては下忍の術などまともに避けるまでもないとばかりの余裕の顔で少年はいなし続けた。
     伸ばされたミツキの腕にも巻き取られるより先に抜け蹴り飛ばし一歩一歩サラダに近づく。ボルトの影分身とミツキが少年を攻撃する後ろで、ボルトはあの小さな螺旋丸を作った。影分身が消され、ミツキが殴り飛ばされ対象が単独になった所で、その螺旋丸を投げた。
     ―性質変化を伴っているそれは、ぶつかる前に収束し消え失せた。少年は鼻で笑い黒目に戻し視線をそむけると、次の瞬間には背の武器に強い衝撃が生じる。上体にぶつかった衝撃破は少年の体勢を崩し片膝と掌を地面につかせた。
    「………消える攻撃か…チィ」
    「てめー一体何なんだってばさ!あれもこれも意味わかんねー…!」
     舌打ちした後ゆっくり立ち上がり、初めてボルトを見た。七代目火影にそっくりな姿だが、彼の父親の存在もボルト自身の存在も知らないようで、少年は写輪眼ではない黒目でじっと睨みつけるだけだった。
     ボルトが対峙している後ろでミツキはサラダが里へ向かって進んでいくのを確認しながら敵を観察する。
     担当上忍である木の葉丸を倒すほどの実力と写輪眼の持ち主。木の葉丸が特別な血継限界を持ち合わせていなかったとしても、三代目火影猿飛ヒルゼンの孫という箔と才能に溢れており、七代目火影から直々にその超高等忍術螺旋丸を教わった人物だ。そこいらの忍に易々と負けるほど弱い人ではなかった。
     ミツキ自身は、写輪眼や血継限界に関する知識はあまり持ち合わせていない。父親に聞けば一から十まで教えてくれるのだろうが、今の父は言われる前からそこまでするほどの強い興味を持っていないため、ミツキには教えていなかったのだ。
     しかも、それが写輪眼の事となればさらに情報は機密事項扱いされる。詳しい真実は語られないが、アカデミーの教科書には『取り急ぎ戦争を鎮めるため、一人の男が心を殺し奔走した結果一人の少年を残し一族は全員虐殺された』と短く語られており、深く聞けば『一人の忍が"戦争を止めるため"という木の葉の命令に従ったのだ』と一部の教師は答える。
     とにかくその件があったために、写輪眼を持つうちはの生き残りは、事件当時の生き残りであるサスケと、命令に従い事件を起こした当人の息子であるサスケの甥のイタル。そしてサスケの娘のサラダの三人のみとされている。
     ―つまりどう考えてもあの少年は異端であった。うちは一族に詳しいサスケ本人や七代目等に聞けばすぐにわかることもあるのだろうが、伏せられた情報を特別暴こうとしていなかったミツキでは、得られる情報は極端に少なかった。
    「面倒だな」
     少年はつぶやくと同時に分身を作り並び立った。
    「火遁・豪火球」
    「風遁・狼空破」
     同時に繰り出された火遁と風遁。狼を模った風は炎を追い回すように加速し肥大化させ、先ほどの豪火球とも比較にならない大きな火の玉を作り出した。
     ボルトもミツキもそれを回避する術を持ち合わせていなかった。属性による強弱のことは知っていたし、そうじゃなくても小さな螺旋丸を投げたところで襲い来る炎はどうしようもない。涙を浮かべている暇もなく、二人は目を瞑った。全身大やけどでも、死にさえしなければなんとかなる―そう思って。
     しかし、痛みは何も襲ってこなかった。ただ近くにあるような熱気が肌を撫でている。恐る恐るまぶたを上げた。
    「なんとか間に合ったみたいですね…。ミツキ、その子を連れてサラダちゃんを追ってください。僕が誰かをかばいながら戦うのが苦手なのは知っているでしょう」
    「…―知ってるって言っても、実際お姉さんが戦ってるの、見たことないんですけどね。 わかりました、行こうボルト」
    「なっ、なん、どういうことだよミツキ!?アイツ誰!」
     説明は後です。とミツキは腕を伸ばしボルトを引き摺って里へ向かって走りだす。
     ボルトをかばうために投げた傘を拾い、肩に担ぐ。少年は戦闘態勢にある朧を見て眉根を寄せた。一方朧も、写輪眼を出した少年をじっと見据えた。幻術を仕掛けてくる 様子はない。面倒くさそうに睨みつけている。
    「…僕は話をするのは苦手なんですが…貴方は何者ですか?」
    「どいつもこいつも、それしか言うことがないのか?ワタシは気高きうちはの血を引く者、ユウダ!面倒だ、全員始末してやる。うちはの献身を忘れた者など皆敵だ!」
     子供が癇癪を起こしたかのように頭をかきむしったあと、少年―ユウダは再び印を結んだ。素早い火遁の結びに朧は傘を構え、体内で生成したチャクラを込める。チャクラの量を張り合った所で勝負は見えているので、大概の攻撃は傘で持ちこたえるしかない。
     豪火球の術を傘で受け止め、横に弾く。カウンターを狙い間合いを詰めクナイを振り上げるとユウダは間髪入れずに地面を蹴り回避する。それを追い手裏剣を投げ、傘で手元を隠しながら水遁の術を放つ。ほんの一瞬遅れながらも別の火遁の術で相殺され、撒き散らされる水蒸気の中で背の不思議な武器で風を仰ぎ蒸気を晴らした。
     一秒ほどの睨み合いの後、今度は両者共にクナイを投げ合う。その合間に朧の分身体が開いた傘で突進するも、強固な傘を踏み台にジャンプしたユウダは加重し勢いを増して地面に足を突き立てた。
     ―そんなやり合いはほんの数十秒にも満たない。めまぐるしいスピードで忍具の、担ぐ武器の、忍術の応酬が繰り返されていた。少しずつお互いの術のレベルが上がり、街道横の雑木林はすでに一帯がただの荒れ地と成り果てている。
     ユウダは中々倒せない朧を相手に舌打ちをした。お前を相手にしている暇はないのに、と憎らしげに唇を噛むと数歩下がり間合いを取る。一つの印を結ぶと―彼を守るように青色の光が揺らめいた。
    「須佐能乎―"大通連"!」
     突如として現れたチャクラ体の巨人が、印を結んだ後両手を広げる。順に現れた三つの武器を、両手を振り下げると同時に射出した。朧は目を見開く。さすがのいわれを持つ傘でも、うちはの一番の秘術であろう須佐能乎の攻撃を防ぐことは出来ない。
     しかし揺らめいた一部の違和感に、朧はハッと閃いた。同時に武器を手放し幻術の解印を組む。
     切り崩し割れていくような感覚の後、朧は膝をつく。―幻術だった。正面には、疲弊した様子で両目を抑えるユウダがいる。
    「ッ―…オマエ、ワタシの幻術を破りやがったな…!」
    「あなたも随分疲労が溜まっているようですね。おかげで叩き殺されずに済みました」
     皮肉げに笑ってみせると、ユウダは指の隙間から朧を睨みつけた。痛むらしい目に眉根を寄せ、歯を食いしばりながら耐えている。
     ゆっくりと立ち上がり傘を掴み直す。今にも倒れんばかりのユウダは、じりりと後ずさった。そして朧の後方に目を向けて何かに気づくと、一歩一歩下がり始めた。
    「…名は覚えた。木ノ葉の里…うちはサラダ。必ず迎えに行く…!」
     いかにも悪役といったような台詞を残し、ユウダは瞬身の術で姿を消した。
     気配が近くにないことを確認して、朧はふっと力を抜く。傘を杖になんとか倒れずに踏ん張るものの、ずるずると地べたに腰を下ろす。
    「随分な惨事だなァおい」
    「見事に平地になってるね。…大丈夫?朧」
     膝を付いている朧に手を差し出したのは、墨で描かれた鳥から降りたサイだった。辺りの惨状を見ながら冷や汗をかくシカマルとサイの二人は、どうにか里までたどり着いたサラダ達の要請と七代目の命令によって急遽出発した二人だ。能力も実力も未知数な相手を確実に倒せる者はそうはいない、ただ木の葉丸とボルトやミツキ達を回収し里まで逃げ切る事ができる能力に長けた人選である。
    「…ミツキたちは」
    「合流後僕の鳥が里へ送ってる。木の葉丸は?」
    「…向こうに。出血多量一歩前でしたが、応急処置をして口寄せに見張らせています…が、もうそろそろ…切れます、あとは…」
     おねがいします。と最後まで口にできないまま朧は気を失った。頬に浮かんでいた印は消え、ヒュウヒュウとまるで病人のような呼吸音で横たえている。
     惨状を改めて見据え、シカマルは頭を抱えた。ひとまずはサイに朧を運ぶ鳥を用意させた後この先で倒れているらしい木の葉丸の保護に向かわせる。シカマルは正直の所、朧の能力値がどんなものか詳しくは知らなかった。
     下忍時代―大蛇丸による木ノ葉崩しが起こるより前に大蛇丸にさらわれ、何らかの術で意思を奪われ忠実な僕になっていた事と、その当時は天才と謳われたサスケにも負けない力を持っているという噂くらいしか情報がないのだ。大戦後には、世界のラスボスと戦った影響だかサスケをかばった影響だとかあるいは元々の体質だとかなんだとか様々噂を聞くが、とにかくなんらかの理由で忍としては再起不能になったらしいと医者でもあるサクラから伝聞していたくらいで。
     そんな人物が、正体不明の相手と戦えばそれは死にかけもするだろう。里一番の医者は今いないというのに、なんともタイミングが悪いものだと歯噛みしながら、シカマルはサイの鳥で飛び立った朧を追うように里へ戻るため街道を駆けた。

    招かれざる者

     ひたすら走る。走る。走る。
     一気に走ったせいで体力も限界に近い。しかしそろそろ里の壁がみえてきて、力を抜きかける。もうひと踏ん張りだと息を吸い込んだ。
    「あの!!…ッ!」
    「なんだ、一体どうした!?」
     門番をしていた木ノ葉の忍にしがみつき、事の次第を伝えようとするが頭が混乱して言葉を紡げない。
    「あの!えっと…!」
    「…落ち着け、まず我々は何をするべきか、単語でいいから教えてくれ」
     どこかで見たことがあるような落ち着いた風貌の女性が、首をかしげている門番を押しのけてサラダの呼吸を整わせながらそう言った。まず何をするべきか。何をして欲しいのか。
     必死の思いで「任務失敗」「写輪眼を持つ人が」「仲間たちが」とどうにか言うと、女性は頷く。
    「想定外の敵が現れ、それがどういうわけか写輪眼を持っている、他の班員によってお前はどうにか一人ここまでたどり着いた。つまりは救出部隊を組んで欲しい、と。―そういう事だ、ここは私が見ているから、至急七代目を―」
    「おい、どうした!?なんでサラダだけ戻って…」
     ちょうどいい所に来た、と女性は口角を上げた。どうやら見回り中の七代目の影分身が騒ぎに気づいて来てくれたらしい。七代目にヒツギ先生と呼ばれたその女性が簡単に事の次第を説明すると、みるみるうちに顔色を変え門番に指示を出す。「すぐにサイとシカマルを呼んでくれ。ちゃんとした討伐部隊は別に組む、ともかく木の葉丸達の救出が先だ!」命令に対し門番達は瞬身で去っていった。
    「怪我はねぇか、サラダ」
    「はい、私は…でもボルト達がどうなってるか」
    「何があったのか、詳しく教えてくれねぇか」
     慌てて今にも泣きそうなサラダをなだめながら、七代目―ナルトは優しく言った。
    「木の葉丸班に与えた任務、要するに標的は盗賊でも猿でもなく忍だった。そしてそいつは写輪眼をもっていた―そういうことか?」
    「ハイ…最初は盗賊っぽい男の人が出てきて…その人の目が、写輪眼で。でも焦点があって無くて、ふらふらしてて…木の葉丸先生の指示を待ってたら、ボルトが攻撃を仕掛けて。指示があって逃げようとしたら、男の子が…私を狙うようになって」
    「怖かったな、ゆっくりでいい。その男の子ってのは?」
    「多分、親玉だと思います。一人だけ落ち着いてる様子でしたから…パパに、写輪眼は幻術で人を操ることができるって聞きました。多分、それだと」
     ナルトはサラダに視線を合わせしゃがみ、話を聞く。その後ろでおそらくはすでに任命を受け終わったのだろう同期であるシカダイの父シカマルと、同じくいのじんの父サイが超獣戯画の鳥ですごい勢いで発っていった。
    「なるほどな…他に分かったこととかはあるか?」
    「私に目をつけられてからすぐに逃げるよう言われたので…あんまり…写輪眼を持っていて、右目は包帯で隠してました。背はあんまり高くなくて…イタル兄さんより低かったと思います。あと、あと…あ、背中に変な武器を持っていました」
    「変な武器?…どんなだ」
    「ひょうたん型の、平べったいヤツです。使ってはいなかったからどういう使い方するのかはわかんないんですけど」
     それを聞いてナルトは目を細めて首を傾げた。記憶に引っかかるような気がしたのだ。しかしすぐに思いつかなかった。
     何処かへ席を外していたらしいヒツギが戻ってきて、ナルトに声をかける。
    「…七代目、とりあえずサスケとサクラに緊急帰還命令を出した。サクラはわからんが、サスケは今日中に帰ってくるだろう。それとイタルの方はもともと夕方までには帰ってくる予定を急がせると危険が増える可能性もある、帰還予定時間を過ぎても帰ってこなければ迎えの部隊を組め。カカシにも事情を簡単に話したから、非常時には使え」
    「わかったってばよ、あんがと、ヒツギ先生」
    「あの…」
     ようやく焦りが解けてきて、何やらこの非常事態に備えていろいろ動いているらしいのだがサラダは目の前の女性や先代火影の名が出てきた事、両親の名が出てきた事などに再び混乱しそうになっていた。
     気付いたらしいナルトが紹介してくれた。彼女ははたけヒツギ、先代火影はたけカカシの奥さんで、三代目・四代目火影の秘書をしていた元・里一のくノ一だという。そして何より、サスケ達に出会うまでの間イタルを預かり育てていた人物。大恋愛があって結婚したのではなく、火影という席について回るその妻という空席に知己という関係で収まっただけらしい。サラダ達より少し上―それこそ六代目火影が着任していた世代では有名な話だ。
     その話を聞いて、この人が、と驚く。イタル当人からヒツギという人の名前は聞いていた。しかしそんな立場にあるとは知らず、思わずぺこりと頭を下げた。
    「サラダ、とにかく敵の力は未知数だ、サスケが帰ってくるまではぜってー一人になるな」
    「私が預かろう。サスケが帰ってきたら教えてくれ。―サラダちゃん、さっきの今会ったばかりでわからないことばかりかもしれないが、ともかく言ったとおりサスケが帰ってくるまで私と一緒にいてくれ」
    「わ、―わかり、ました」
    「よし。後は頼むぞ七代目。見たところ大した怪我はないから家の救急箱で十分だろう。もし見えない所に怪我していたら教えてくれな」
     ヒツギはそう気遣いながらサラダの手を引いて里内へ向かって歩き出す。ナルトの方も手っ取り早く得た情報を本体へ伝えるため影分身を解いた。

    §

     イタルが請け負ったSランク任務は、密書ととあるアイテムの運搬だった。平和になったこの世の中では要人暗殺の任務はほぼないと言っていいほど少なくなっており、イタルにとってもかなり久々のSランク任務である。
     密書とは、火の国大名の遺言書。未だ亡くなっていないのだが、死ぬ前に引き継ぎを行なうために今依頼したようだ。大名の家へ行きその遺言書を預かり、国境近くで花嫁修業ならぬ大名修行をしているという息子に届ける。そしてそれと一緒に、いわゆる一家の主の証であるお高い指輪と正装着を運ぶ事。それが、今回の任務だ。
     指輪と言っても見た目が綺麗でお高い宝石を使っているというだけで、衣装の方もお高い絹を使っているだけのもの。しかしその値の張るものというのが伝統を重んじる大名一家の家宝であり、盗賊にとっても重要な収入源になるのだろう。
     高価なだけのそれらを狙う組織があるとかそう言った事はなかったため危険は少ないが、何しろ相手が大名家。だから火影直轄の柱部でも精鋭のスリーマンセルを組んで出発していた。
     任務で危険は一つもなかった。里から国中央へ行き、そこから国境へ行くという途方も無い移動時間だったが、早朝から夕方までの十二時間程度で任務完了を設定されていれば従うしかない。軽い荷物を持ってひたすら走る事に疲労は溜めながらも、その荷物を知っていて狙うような盗賊も抜け忍崩れもいなかった。
     そうして無事任務を完遂し、イタルを隊長にナキとヨウの三人で組まれた柱部精鋭ろ班は里への道を走っていた。国境から直接里に行くほうが早く、もう三分の二ほどまで戻ってきていた。
    「ふぅ…。随分飛ばして来たけど、みんなは大丈夫?ここまで来たらあとはもう一、二時間だと思うけど」
    「我々は大丈夫です、隊長。少し休んだら出発しましょう」
     肌寒い季節になり、若干日の沈みが早いなと休憩ポイントで里へ連絡を入れながらイタルは思った。
     水筒の水を飲んだり疲労した筋肉をほぐしたりと思い思いに休息を取る部下を一瞥し、ナキの言葉ににこりと笑って胸を張る。
    「わかった。日が落ちると寒くなるからね、少し無理してでも暗くなる前に里に着けるとありがたいけど。もし疲れてたらおぶるからいつでも言ってね」
    「隊長、俺達部下っスけど隊長よりも年上なんスけど。隊長のこと尊敬してるけど、 そういう甘やかしノーサンキューっす!あんまりいうと俺が隊長をお姫様抱っこの刑に処しますよ」
    「うわぁ、やめて!」
     ちゃかすヨウに割と本気で身を震わせつつ、談笑して肘で小突き合いながらの休息を過ごすと、そろそろ行こうかとまた各自を一瞥し確認して休憩ポイントを出発する。
     それから三十分もしていない頃だ。イタルは僅かな違和感を持つ。隊員を急停止させあたりを探る。裸眼ではわからなかったのか、イタルは渋々と言った表情で写輪眼を発動しもう一度辺りを見回した。
    「―!幻術か。かなり高度な…解!」
     隊員にかかった幻術を順に解いていく。まさか里まであと僅かといった所で忍による襲撃を受けるとは。イタルは心の中で舌打ちして、幻術にかかりにくいようチャクラを整えながら隊列を変えてひとまず進むよう指示をした。
     見る人が見れば柱部の忍とわかるだろうが、今は任務を終えて帰るだけ。暗部の仮面を隠し、道は雑木林から街道へ変更する。敵には見つかりやすくなるだろうが、逆にこちらも発見しやすくなる。
     こんな場所であからさまに里の忍に対し幻術を行なう者がいるとなると、Cランク任務に出る下忍も注意が必要になると火影に進言しておかなければ、とイタルが考えた時、突如として襲った横からの攻撃に、雑木林の奥まで吹き飛ばされた。
    「隊長!」
     ナキが叫ぶ。目的の掴めない敵を捕捉するためイタルはすぐに襲撃地点に戻り、驚き焦る隊員に無事を知らせた。
     イタルを襲った人物に写輪眼を向ける。どこにでもいそうなその男は、虚ろで焦点の合わない写輪眼でイタルを見つけると、一直線に襲いかかってきた。
     攻撃は単調で、殺気や意図を感じられないことを抜けばそこらの中忍以下の力しかないと判断する。クナイや手裏剣を投げ応戦するナキとヨウの二人には目もくれていないのに気づくと、イタルはよりその男を注視した。あの瞳はおそらく写輪眼によって操られている証拠としてのものだろう。そうだとしても正しく写輪眼を扱えるものは自分と叔父しかいない。そこまで考えまたイタルは心のなかで首を捻った。あの叔父が今更写輪眼で誰かを操って木の葉の忍を襲わせることはありえない。そして自分でもなければ、叔父の娘がやったと考えるのも難しい。
     おそらくこいつらと遭遇した者は全員ここまで考え至っているだろう。ならば情報が乏しいまま交戦して捉えるより、里へ戻り情報を仕入れるほうが得策だろうと考える。イタルは男を蹴り飛ばし大きく間合いを開けると、背を向けたまま下がって困惑の色を見せる隊員にまた指示を渡す。
    「アイツの目的はボクみたいだ。…ひとまず君たちは先に里に戻って、七代目に報告して。もしかしたらもう奴らの討伐部隊が組まれる事態になっているかもしれない…そうじゃなかったら、到着して一時間以上してもボクが帰還しなかったら、その時は改めてやつの討伐部隊を組むよう頼んでほしい。じゃあ、行け!」
     囮とばかりに残していくことを不満そうにしながらも、上司の命令にはそむけない。ナキとヨウは合図と共に里へ向かって走りだした。
     それを確認してからイタルは男に向き直す。そういえばこの街道で盗賊が出るという噂とそれに関する調査依頼と掃討依頼が出ていたなと頭の隅の記憶を引っ張り出したものの、実際にその盗賊なのかどうかといった事は詳しくは知らない。写輪眼のまま睨みつけて、手始めにクナイを飛ばした。
     男の焦点は合っていないが、攻撃を処理する動きは中々に素早く正確だった。男の、それを操る者の目的は何か。それを探る必要があるわけだが、相手の規模も何もわからない状態で本当に一人で全てをこなすのは難しい。先ほど指示をしたように一時間ほどであの男を捕獲し、それだけで済めばいいのだが。
     背の刀を構える。男の拳を、蹴りを躱し刃のない峰で胴体を強く打ち付けていく。
     写輪眼を有していれば正確でも単調な動きを読む事は簡単だ。さらにその隙を見つけ素早く攻撃し相手を疲労していく。近接戦に持ち込んで男の顔を見て、ビンゴブックに乗ってはいないかと思考するが見たことのない顔だった、
     殺気はない。次にどこを攻撃するぞ、というような意図―基視線や意識の集中もない。先ほどイタルが軽々蹴り飛ばされたのもそれが理由だった。明確に自分や仲間を狙う意思があれば、研ぎ澄まされた感覚がすぐに察知する。しかしこの男には最初からずっとその意思がない。
     操られているのはわかりきっている。以前交戦したうちはシンとはまた違う系統の敵なのだろうし、―…考え詰まって、イタルは頭を痛くした。
     平時のイタルは捕縛術を取得していないため単純に弱らせてから縄で縛るしかない。男の拳をすり抜け渾身の拳を腹に叩き込むと呻きながら動きが怯む。その一瞬に腕をひっつかみ背負い投げると、地面に押し付けて両腕を後ろ手にしてポーチから取り出した専用の縄で縛り付けた。
     暴れる男の後頭部下に手刀を切り入れ、足も同じように拘束する。
    「…………」
     辺りの気配を探る。手下を一つ潰されて怒るタイプだろうか、それとも気にせず次を投入するか。
     近くにそれらしいものはない。と言ってもそれは"殺気"に限った。自分に対し興味のない動物や、この男のような者だったら少し自信が無くなってしまう。ひとまずは息をついて、男を担ぎ立ち上がった。このまま次がないのなら、宣言通り里に帰還する。
     周囲を警戒したままイタルは地面を蹴った。
    「…オマエ中々強いな。盗賊崩れを使うのも疲れたから手頃な忍を捕らえようと思ってた所だが、昼に見つけた途上の小娘より都合がいい。それに」
    「!?」
    「身内はワタシ自身で大切に捕まえることにしている。オマエ、名前は?」
     突然現れた気配にイタルは思わず担いだ男を落として背の刀を構えた。自分より幼く見える少年は、ウキウキと嬉しそうな表情でイタルを見上げている。
    「ああ、名を聞く時は自分から名乗るんだったな。母上に教えてもらったのに忘れていた。ワタシはうちはユウダ。父はマダラ、母はユウマと言う」
    「は、……、」
    「どういうワケかは分からないが、うちはは滅んだと言われたんだが…二人目、か。
    しかし父上の石像もないし、ワタシの知ってる木ノ葉の里でもない…何より父上も母上もいないんだ。つい一週間前まで栄えていたうちはが滅んで、世界に何も変化がないわけがない。…本当は生き残りのヤツに話を聞きたいんだが…オマエは知らないか?」
     一瞬で手に入れたありえない情報にイタルはキャパオーバーしそうになっていた。
     うちはマダラ。その名を知らないはずがない。実際に会ったことはもちろんないが、かの第四次忍界大戦のきっかけとも原因とも言えるその人物のことに関してしっかりと学んでいるからだ。
     この際母親のことは置いておく。うちはオビトという人物がマダラを名乗っていた時にヘッドハンティングされた女性が身籠ったということだろうか?少年の年齢がおおよそ自分と同じだとすればそれもおかしくは―いや。
     彼にとって一週間前までうちはが栄えていたという。父マダラの石像が破壊されて今はないことを知らない―と言うよりはうちはマダラの石像がある事が普通だというのもおかしい。そして父と母とつい最近まで仲良く過ごしていたような発言。
     すべてがおかしい。
    「…オマエもワタシがおかしいと言うのか」
    「…………君は…一体、どこから、来たんだ…?」
     イタルの言葉に少年―ユウダは悲しげに目を細めて、ゆっくりと印を結ぶ。
     ぎゅるり。色と模様の変わっていく瞳に、イタルははっと気付いて写輪眼を用意する。
     ―しかし、それでは遅かった。
     うちはユウダの万華鏡写輪眼に太刀打ちするには、同じ万華鏡写輪眼でなくてはいけなかった。
     その強いチャクラの奔流に、イタルはゆっくりと膝をついた。
    §

     木ノ葉の玄関、あうんの門の前でナルトはそわそわしながら何度も時計を確認していた。長針がひとつ変わったのを見ると、ばっと顔を上げてシカマルを見る。
    「もうそろそろ時間だ。そんじゃあシカマル、しばらくこっちのことは頼むぜ。行くぞサイ」
    「了解。サスケたちが先に帰ってきたら、そのタイミングに応じてこっちも指示を振る。生きて帰ってこいよ」
     火影にまで上り詰めたナルトにそうそう命の危機が訪れていては堪ったものではないが、シカマルは現状ある情報だけでも敵は相当危険だと見当をつけていた。そのため出た言葉に、ナルトは苦笑しながらももちろんと頷く。
     昼に同じ件で動いたサイも、捕縛術や遁走術に関して評価されナルトと一緒にイタルを迎えに行くことになっていた。
     イタルが隊長を務めるろ班が帰還して一時間。隊員のナキから伝えられたイタルの伝言通り、それだけの時間が経過してから彼を迎えに行くためナルト直々に準備をしていた。 相手は写輪眼を持つ。サスケが里に居ない今、一番安全にイタルを迎えにいけるのは己しかいないと判断してのことだ。何より敵は写輪眼で盗賊や忍崩れを操っているということくらいしか明確な情報が無く、その目的やなんやに関しては、交戦した木の葉丸も朧も現在集中治療室におりとても話せる状態ではない。仲間を信じることも重要だが、下手に危険を増やすのは違う。
     そうしていざ出発しようとした時、里の側から目を凝らして見えるいわゆる視地平線に何かが見えた。胸に大きな袈裟斬りの跡、腕も首周りも血だらけで、どうして立って歩けているのかも不思議なほど凄惨な状態の誰か。
    「―イタル!! 」
    「あ…。ななだいめ…、」
    「ひっでえ怪我じゃねえか!…やっぱり写輪眼のやつと交戦したんだな!?よく生きて帰って来てくれたってばよ、話を聞くのは後で大丈夫だから、―サイ、イタルを病院へ!」
    「だめ、駄目です、七代目、ボクは今」
     息を切らしながらもイタルは何故か首を振る。きっと得た情報を伝えたいのだろうと察したナルトはイタルの頭を撫でて微笑んだ
    「サラダも心配してたんだぜ。サスケとサクラちゃんもすぐ帰ってくっから、今は休んでくれ。な?」
    「でも、」
     それでも渋るイタルの手を引いてサイは病院へ向かって歩き出した。繋がれた手には抵抗せず、イタルは珍しく疲れきった泣きそうな顔ながらも静かについていく。
     病院で待機していたサイの妻・いのが、イタルが連れてこられると同時に処置を始めた。いのはサクラの親友であり、新たな三忍とまで呼ばれるサクラほどでないとしても十分な実力と経験を持つ忍である。外傷を医療忍術で治癒していきながら、内部に損傷がないか確認していた。
    「いろいろ気になるけど…、でも怪我は大したモノじゃないわね。ただやっぱり疲労があるから、少なくとも今日はもうゆっくり休んで、サクラとサスケくんに改めて見てもらった方がいいと思うわ。写輪眼使いの相手がどんな攻撃手段を持っているのか、私にはあんまり予想できないから」
    「……ありがとう、ございます、いのさん」
    「浮かない顔ね。私の診断じゃ不満?」
    「いえ…そういうことじゃないですけど。ただ、ボク―…、」
     イタルは言いかけて、そして忌々しそうに口を噤んで右手を目にかざす。「すみません、もう寝ます」疲れきったイタルの顔は、家族ぐるみでサクラ達と交流しているいのでさえ珍しく思うものだった。
     おやすみなさいと頭を撫でて、静かに病室を出る。一つ息をついて外で待っていたサイに声をかけると、先ほどのイタルの様子を話した。何か隠しているような、迷っている雰囲気。
    「敵と交戦して、なにか重大なことを知ったのかも。それをどう伝えるか、悩んでいるんじゃ?」
    「そういう理由もあるんでしょうけど、なんというか…、言い詰まってる感じよ。言いたくても言えないような」
    「うーん…定期的に様子を見て、それでもおかしいなら七代目に変わろう。僕は一度そのことを伝えてくる」
     いのはうなずいて、診察結果を病院へ報告するためナースステーションへ向かった。
     一方不審な点をナルトへ伝えに火影塔を目指したサイは、窓から病院を出てしばらくあることに気付いた。遠くの空に見た目だけなんとも禍々しい巨人がすさまじい勢いで木ノ葉の里へ向かってきているのである。それを知っているサイは思わず苦笑しながら、手早く迎えるために方向を変えた。
    「サスケ、こっち」
    「…話は聞いている。サラダはどこにいる」
     上空でサイと合流したサスケは、須佐能乎からサイの鳥へと乗り換える。自宅へ―基サラダのいる所へ向かいたそうなサスケに気づきつつ、サイはそのまま連れ立って火影塔へ向かう足を止めなかった。
    「どこまで聞いてるのかな。とりあえずサラダちゃんは今七代目と一緒にいるはずだよ。で、七代目は火影塔にいるはず。サクラはまだ帰還してない、どれくらいかかるかはわからない」
    「…サラダが写輪眼を持つ奴に狙われ、木の葉丸始めボルトやミツキがかばってくれて里に無事帰還した事までは聞いた」
     情報の共有を始めようかとも思ったが、サイはもう目前である火影室でナルトも交えてやるべきだと判断しそれを伝えて先に移動する。
     すぐに目的地に辿り着く。パソコンで何やら打ち込みながら、書類を押しのけて巻物を広げ散らしていたナルトは二人に気づくと焦燥した顔を少しだけ和らげた。
    「おかえりってばよ、サスケ。悪いな急に…任務の方は?」
    「ちょうど終わって帰る所だ。途中気になる所に寄りながら帰る予定だったところを、須佐能乎で飛ばしてきただけだ。任務の報告書は後日でいいな」
    「ああ、構わねえ」
    「それで、状況はどこまで進んでいる?サラダはここにいるんじゃないのか」
     じとりと睨まれてナルトは苦笑した。サイにナルトと一緒にいると言われて先にここまで来たというのに合流できないのでは、サスケも安心できないのだろうと察してだ。
    「―今朝スリーマンセルの部隊でSランク任務に出てたイタルがつい一時間前に帰ってきてな。イタルも重傷で病院にいるんだが、サラダもサスケやサクラちゃんが帰って 来てなかったから不安だったんだろ。俺の分身と一緒にイタルの見舞いに行った」
    「…そうか。イタルの方は大丈夫なのか」
    「怪我自体はすぐに治るものらしいよ。ただ、敵の写輪眼の影響はいのでは判断しにくいから、そこは後でサスケくんとサクラに見てもらったほうがいいって」
     いのから伝えられた怪我の方の状況を同じように伝えると、サスケは頷いた。すぐにでも向かいたいのか踵を返そうとするが、まだ状況報告を聞いていない。ナルトを向きなおして、「それで」と続きを促した。
    「敵と交戦したのは木の葉丸班と、あと朧。あるCランク任務に出向いて標的を認識した際、ただのゴロツキと思い込んだボルトが飛び出し攻撃。ゴロツキには間違いねぇが敵に操られており、木の葉丸が囮となって班員を里へ逃がそうとした所で―理由や原因はまだ不明だが、敵親玉と思われる少年がサラダに的を定め、他を無視してでも捉えようとした。
     一時木の葉丸が引き止め交戦したが、敵わず重傷。敵は木の葉丸の生死は確認せずサラダを追う。その後里へ近付いていたボルト・ミツキが、操られたゴロツキ共と交戦、敵の目的であるサラダを先に里へ向かわせた。
     木の葉丸を倒して追いついてきた奴と戦うって何考えてんだか…んで、敵の攻撃にあわや大火傷って寸前で、朧が乱入し助けてくれたらしい。今度は朧が囮として交戦、 ボルトとミツキは里へ帰還。途中サラダが先に里へたどり着いて俺に状況を報告、即時サイとシカマルに救援に向かってもらった」
    「僕達が辿り着いた頃には、辺りは平地になってて敵は逃げた所だった。朧は見たところ大怪我はなかったけど、随分疲労しててね、すぐに気を失って―今も病院で眠っているよ」
     一通り聞き終えるとサスケは息をついた。
    「朧が何故来たかは聞いたのか」
    「いや、合流して本当にすぐ気を失ったから、何も聞けていないよ」
    「ミツキやボルトは、死なないように戦うので精一杯で敵の見姿くらいしかわかってねぇ。敵の情報を探りつつ戦っただろう木の葉丸と朧は、両方共集中治療室だ」
    「そうか。…まずナルト、朧の方はお前がチャクラを分けてやれ。そうすればすぐに目覚める。アイツがどこまで敵に探りを入れられたかは置いといて、目覚めればある程度わかることが増えるだろう。木の葉丸は―どういう攻撃を受けたのは知らんが、サクラが帰って来ればどうとでもなる。
     とにかく俺はイタルの所へ行く、すぐに確認して敵を討伐する。どうせ前のうちはシンのような、写輪眼を盗んだ輩だろう。たまたま身体がうちはの術に適合し、朧やイタルを倒せるほど慣れたと言ったところだ」
    「討伐はいいけどよ、勝手に出て行くなよ。本当にそうだとは限らねぇし、気になることもあるんだ」
     フン、と苛ついた様子でサスケは踵を返す。「サラダを狙うって事はうちはを狙っているということだ。一族のことはこちらで片を付ける」そう言い火影室のドアノブに手をかけた時だ。ナルトは困り顔を一転し目を見開き、ガタンと椅子を倒して立ち上がる。その突然の様子にサイもサスケも訝しげに彼を見た。
    「―ッサスケェ!病院へ急げ!」
    「どうした、」
    「俺の影分身が消された!―サラダと病院へ行った奴だ!」
     ナルトの言わんとした事に気づくとサスケは荒々しく扉を開けて走り去っていった。ナルトもパソコンを閉じ散らけていた巻物類を片付け始める。慌てているのか手元が狂い巻物を落とている。
    「っあークソ!悪ぃサイ、俺もあっちへ行くからこれ頼む!禁術系の巻物だから放置できねぇんだ」
    「わ、分かった!急いで…!」
     サスケを追うべきか迷っていたサイにそう頼み、ナルトも窓から出て行った。
     彼の影分身が消されたということは、一撃必殺レベルの攻撃がされたということだ。しかしサラダが帰還してから里の警護も結界も強化しており、時空間忍術で割り込みでもしない限り気づかれずに侵入することなど不可能なはずだ。
     ならば一体誰がナルトの影分身を攻撃したのか?しかも、イタルを見舞いに行ったサラダと一緒にいたものを。
     脳裏に浮かんだ答えに、サイは首を振って目の前の巻物を片付け始めた。