赤月の魍魎
緋色の花つ月
1
「こんにちは、サクラさん、サラダちゃん」「あ…!イタル兄さん!こんにちは…!」
「イタルじゃない、こんにちは。どうしたの?」
落ち込み気味でアカデミーから帰ってきたサラダは、その訪問者に顔色を良くした。
うちはイタル。彼はサラダの父であるサスケの兄を父とする、サラダの従兄弟だった。事情は複雑なれど、十六歳という若さで上忍になり暗部にも所属する―そしてなにより色々な歴史のあるサスケの兄である両親を心の底から敬愛している、素晴らしい忍だ。幼いころにはサラダが「私、大きくなったらイタル兄さんのお嫁さんになる!」と定番の台詞を最初に向けた相手でもあった。
「長期任務が終わったんで休暇です。ついでにサラダちゃんと修行でもしようかなって」
「!やった! あ…そうだ、ねぇママ」
イタルと一緒にいられる、とサラダは喜びもそこそこに、帰宅したら早々に聞こうと思っていたことを聞くため視線を向け直した。
しかしサラダの問いに、サクラはまず首を傾げた。
「だから…パパってメガネかけてたのかって」
「…かけてないとおもう…多分…」
「たぶん、って…夫婦のくせにたぶんなんだね」
「だって…、昔のパパはずっと里にいなかったから…ま、今もだけど!」
二人の顔を交互に見て、イタルは困ったように冷や汗を流して頬を掻いた。何やら居づらいところに来てしまったな、と少し後悔する。
「ママってさ、本当にパパのおくさんなの?」
「だからさっきから急に何なのよ!今日は少しおかしいわよあんた!」
「可笑しいのはパパとママの関係でしょ。そっちは少しじゃなくてかなりだけどね」
「サラダ!!」
「サクラさ…っ!」
イタルが察知し制止をかけるも虚しく、サクラの拳によって庭の地面が砕かれた。口角を引きつらせ今にも逃げ出したいのを押しとどめる。しかし部外者に近いイタルに言えることは無く、はらはらと二人を見守ることしか出来なかった。
「ごめん、大声出して…あのね、パパは今大事な任務中なの。もう少ししたらパパだって…そ、それにたまに、イタルや口寄せの鷹が手紙を届けてくれるし、ねっ!?パパとは気持ちがちゃんと繋がってるから大丈夫!」
「そ、そうだよサラダちゃん!ボクも2歳になる頃には親元離れてたどころか両方死んでたけど、その事情と愛に関してはちゃんと伝わってるし!」
「イタル兄さんのそれはヒツギさんが教えてくれたからなんでしょ!なんでそんなことハッキリ言えんの!?」
言葉に詰まりサクラがたじろいだ時、地面が割れた。その数メートル程度の穴になっただけかと思えばヒビはうちはの邸宅下まで向かい―
「え」
「そんな―ローンがまだ…」
「あっサクラさん!」
ぼやいてそのまま倒れたサクラをどうにか受け止め、数拍置いて呆然とした顔同士でサラダと視線を合わせた。
ひどいものを見つけてしまった。崩れた家の中から見つけた、両親が二人ならんだ写真だと思ったそれは、瓦礫によって写真立てが壊れ中の重なった写真を露わにしていた。母サクラは単体で、父サスケは他に男二人と女二人と写っているもの。物心つくかつかないか以降会ったことのない自分はともかく、まさかツーショットの写真すらないなんて。
それからイタルが時々届けてくれた、十年近く分の父からの手紙。中々会えない父からの手紙が嬉しくて大切に仕舞いこんでいた箱に望みを賭けるように中の手紙を数えてみれば、十年分だというのに一年に五枚もなかった。筆まめな性格でもないし、手紙を簡単に書けるような生活をしていないというのが合ったとしても、あんまりじゃないだろうか。せめて一月に一枚位は。それに中身を見てみれば、毎回大体同じことしか書いてない。これ、 多分返事読んでない。そんな内容だった。
ぎり、とサラダが歯を食いしばる。
「なるほど、大切なモノって写真と手紙か」
「!…イタル兄さん。 …パパって今…どんな風なの?」
「サスケさん?サスケさんは…うーん、そうだねぇ、写真見たとおりサスケさんって童顔なんだけど、ようやく落ち着いて大人っぽくなってきたかなぁ」
「まさか、サラダって物心ついてから一度も…」
仮住まいを準備するまでの間お世話になりに来たシズネの家。お茶を用意していたシズネが、二人の話を聞いてぎょっとした。イタルも気まずく眉根を寄せていた。
「あの…シズネさんたちに少し聞きたいことが…ママには内緒で」
不安に思った末の仮設を、サラダは話した。みるみるうちに顔色を悪くしていくシズネとイタルに、サラダは自分の不安を掻き立てられるようだった。
「そ、そんなことあるわけないじゃない!」
「じゃあ私の生まれた時の事詳しく教えて下さい!誰が取り上げてくれたんですか?!立ち会った人は?」
「医療忍者の、それもママの先輩までみんなと同じ…!調べて知ってるんです、木の葉のどこの病院にも私の出生記録がないってこと…!」
「そ、それはホラ、ボクだって木の葉に出生記録は」
「イタルさんは黙ってて!」
強く言われ押し黙る。似たような境遇だったとしても、周りの環境や対応が違う。…だと言っても知るべきことを知るまでは、ひねくれていたのは確かだが。だらばこそ逆に、ここでぶつかっておく必要もあるだろう―イタルはそう考え、サラダの不安をごまかしたりしないことに決めた。いい加減、帰ってこずにたまに合って手紙を催促するのも疲れたことだし。
いい加減、家庭を顧みてもいいじゃないだろうか。いくら目的の脅威が去らないとは言え、常に気を張っていてはいざと言う時戦えない可能性さえあるのだから。
2
不安な要素を感じたというサスケの鷹からの緊急連絡に、急遽里を発った火影―ナルトを追う影があった。それは彼の息子であるボルトから預かったお弁当を届けるという口実でナルトを追い出したサラダと、チョウチョウだ。ハイスピードで目的地へ向かうナルトに、未だアカデミー生である二人では追いつけそうもなかった。一旦休憩しようと音を上げた二人の前に何者かが現れた。サラダにも見覚えのある―写輪眼の目をもった少年だ。うちはシンと名乗る少年は、サラダのみをみて「一緒に来い」と唸るようにしゃがれた声で言った。
「来い…」
「イヤって…言ったら?」
「父様が言った…連れて来いと言った…それ…絶対…!」
巻物を取り出しそう宣言するシンは、一歩も譲る気はないようだ。サラダは預かっていた弁当を置き敵の攻撃に構えた。
巻物を開き口寄せした鎖付き大手裏剣を投げつけられる。サラダとチョウチョウが上下に別れ回避跳躍し、サラダはクナイを飛ばす。伸びた鎖を跳躍した勢いで踏みつけ動きを制限すると、シンの後ろに回ったチョウチョウが一族に伝わる部分倍加の術で地面に叩きつけた。しかしそれは難なく避けられ逆に鎖で体勢を崩され倒れてしまう。経験の浅いチョウチョウではすぐさま起き上がれず―。
「ッ!!」
「子供の喧嘩にしては少しやり過ぎですかね」
「うちの里の子どもたちはしつけはいいほうだと思うんだけどよ…」
いつの間にかシンが攻撃をかました地点から少し離れた場所に二人は移動していた。チョウチョウの背に手をかけうちはシンを見るイタルと、七代目火影のコートをたなびかせた火影ことナルトの二人が、この状況を助けてくれたようだ。
「写輪眼…そうかお前か…。イタル!」
「言われなくても!二人は任せますからね!」
ナルトの掛け声と同時に地面を蹴る。ナルトとイタルを睨みつけるシンは、だんだんと目元に力を入れ―
「!万華鏡写輪眼まで…なら手加減は必要ないな」
後方で大手裏剣の刃が四散しサラダたちを狙うものの、それはしっかりとナルトがガードしている。
イタルは蹴り出した足を勢い良くシンに飛ばす。避けるシンを間もなくイタルの分身がクナイで薙ぐ。しかしシンはなんとかそれを避け、地面を蹴って近くの鳥居へ移動した。
鳥居の上から四人を見下げている。すると丸こい人形のようなものがシンの隣へ降り立つと、今のお前には敵わないと言って退却を命じていた。某氏の―端的に言ってしまえば神威のような時空間忍術で、シンは去った。
九尾仙人モードになっているナルトの確かな気配察知能力により近くに敵のチャクラがないことを確認して、ようやく息をついた。
「もしかして、イタルさんがあちしの本当のパパ?」
「いやぁ、いくらなんでもあなたを仕込むのは年齢的に無理があるかなぁ」
「じゃあ七代目?」
「急に何を言ってんだ!?」
ふゥ、とため息を付いてイタルはサラダを見る。大丈夫?と笑いかけるものの、当の本人は沈んだ表情のままだった。先ほどのサラダの苦悩を知っているイタルは言葉を濁し、ナルトを見る。
「七代目。今のはたしかに写輪眼でしたが、身体はうちはのものじゃない。あれは…」
「わかってんよ。そのことでサスケから連絡があってな…それで俺が直接出向いてるんだ」
言葉で確かめ、アカデミー生二人に伝えられないこともお互いにアイコンタクトを交わした。
「さ、てと…。影分身やイタルを付けたとしても、二人をここで里に返すのは危険だな」
「あー、まぁ、…本人達が納得してませんしね」
「となると本体の俺達と一緒に居るのが一番安全だな。とりあえず俺は峠を越えた塔の方に向かうから、お前らも一緒に来い。それに…、サラダをパパに会わせてやりてーしな」
「はい。ボクも一言言ってやりたいことがありますしね」
「なんか珍しく殺気立ってるな…イタル…」
手のひらに拳を叩きつけたイタルに口角を引きつらせながらも、ナルトは目的方向へ足を向けた。チョウチョウのパパを探すとかなんだと言っているが、チョウチョウの父を知っている二人に取ってはなにがいいたいのかは理解できなかった。
「サラダのパパって…どんな人?あちし一度も見たことないんだけど」
「俺がどーこー言うより、サラダに説明してもらえ」
「…できないよ。イタル兄さんに教えてもらって、私…覚えてないもん」
ナルトとイタルは気まずげに顔を見合わせ、やれやれと息をつく。しかしいざナルトが説明しようとするとチョウチョウが空腹を訴えた。サラダは手に持ち直していた弁当をナルトに渡し、イタルも思い出したように口寄せで弁当を取り出した。
がつがつと勢い良く弁当を食べ尽くした後、サラダが再度話を切り出した。パパがどんなひとなのか―と。旅をしている今のサスケに関しては、時々イタルが話してくれるが、それでも無口で、忙しいからとすぐに帰されてしまうのでその人柄だとか性格に関してはわからない。イタルの方も気になるのか、興味ありげに耳を傾けていた。
曰く、アカデミーでくノ一にもてまくり…ナルトと同じで。
曰く、かなりのイケメン…ナルトと同じで。
曰く、アカデミーで忍術の成績はダントツトップ…ナルトと同じで。
曰く、愛想が悪く独りよがりで口が悪い。ナルトと違って。
最後の一言を聞いてサラダは上げかけていた気分を少しを沈ませた。
「つまり、俺のライバルだ!それは今でも変わんねぇ!
…サラダ、さっきお前見ててすっげー昔のサスケとサクラちゃんを思い出しちまった。サスケはメガネをかけてねーけど、お前にソックリだってばよ。特に目元なんかよ…写輪眼になったら余計そうだろよ。でもどことなく雰囲気はサクラちゃんに似てるしな…切れた時が怖そうなところもな。
あ!ちなみにイタル、おめーは普段はイオリちゃん似だけど、いざ任務となると敵として立ちはだかったイタチそのままだってばよ!」
「そ、そうですか?」
ついでながらも自分の話を出され、照れをごまかし笑うイタル。サラダもほっこりと嬉しくなって笑った。
それから、アカデミー生のサラダとチョウチョウの速度に合わせながらも早足で進む。弁当をとった頃は昼直前だったが、目的地が見える頃には大分日が傾いていた。
もうあとほんの少し、飛ばせば五分とかからない距離にまで来たものの、初の遠出となるサラダたちにはその五分頑張るだけのスタミナは残っていなかった。焦る気持ちに少しずつ速度が上がりでもしたのだろうか。しかし、サラダは息を切らしながらも―待ちきれなかった。もう少し。あとすこし。それだけで父に会える―そう思うと、足が止まらなかった。トイレに行くと嘘をついて、サラダは塔を目指していた。―その瞳に、一つの巴を開花させて。
「……七代目、ボクちょっとサラダを追います」
「えぇ?サラダトイレに行ってるのに…」
「いや、トイレにしてはいくらなんでも遠い。というか…塔に向かっている」
え、と顔を歪めるナルトをよそに、飲み水をチョウチョウに渡したイタルは一足先へ塔へ走った。
3
「パ、」
「よくここがわかったな…。………ヤツの仲間か…!?」
呆然とするサラダの顔のすれすれ横に剣を突き刺し、右手を伸ばす。何かを感じるよりも先に、危機を感じ反射的に身を縮こませて目をつむった。
「………お前……サラダ…、なのか?」
「…うん…」
「…そ、ッ!」
気まずい顔で伸ばした手を引こうとしたサスケは、下げるのではなく襲い来る蹴りの防御に回された。油断していたも同然の状況で、サスケは素直に蹴り飛ばされ後ずさる。
サラダの横に刺さった剣を抜きサスケに切っ先が向く。
「…イタルか」
「ぱ、パパ…私直ぐにわかったよ…パパだって」
「サラダ…」
サラダを背にしたイタルと、困った顔で視線を泳がし続けるサスケ。沈黙が気まずさに拍車をかけていた。
どうしようかとイタルも視線を泳がしたところで、休憩を終えたのかトイレから戻ってこない二人を追ったのか、ナルトとチョウチョウが塔の扉を開けて顔を出した。
「サラダとイタルさん何勝手してんの!?」
「すまねぇェサスケ、少し遅れちまって」
「ナルト!コレはどういうことだ!イタルまではともかく、何故子どもたちを連れてきた!?」
意見をぶつけられる相手がやってきて、サスケの八つ当たりが向かう。
「パパに会いに来たのよ! 七代目とパパが合うの知ってたから後を追いかけて来たの…どうしてもパパに聞きたいことがあって…」
「何だ?」
「うん…あのね…その…私のママって…本当のママなの?」
衝撃的な発言に間抜けな声を上げたのはチョウチョウだった。ナルトは真意を確かめるようにサラダを見て、イタルはサラダの肩にそっと手をおいた。
「…何があった?」
「! なにがあった…って…パパがずっと居ないんじゃん!どーしてママと一緒にいてあげないの!?娘の顔も忘れててどーでもいいってこと!?この私と同じメガネかけてるパパの隣の女は何!?こんなこと、ママに娘の私が聞けると思う!?ママは何も言わないしパパはずっと居ないし!イタルさんが手紙届けてくれるけど、毎回おんなじことしか書いてないし!ママもパパももう信じられないし!問題だらけだっての!!」
勢い良く言い切った後、少し息継ぎをして、それから勢いを落としてサスケを見直す。
「いったい…パパは本当はどこにいて何してるの!?」
「……お前には関係のないことだ」
「サスケさん!!」
「…ッもういい!」
冷めた一言を返され、サラダは涙をこらえながら走りだす。ナルトがゆっくりながらも後を追ったのを見て、イタルは肘でサスケを小突きわざとらしく溜息をついた。
サスケは若干眉根を寄せて、面倒そうにしているが―心の中が見た目通りの感情でないことを、イタルはある程度学んでいた。
「サスケさん」
「……」
「チョウチョウちゃんはここにいて」
名指しされた本人は首を傾げながらも頷く。絶対だよ、と念を押し、名を呼ばれながら返事もせず塔の外へ向かうサスケを追う。
外へ出れば、カッターのようなものを投げつけられているサラダとナルト。無論、九尾チャクラによる完全防御があるためふたりとも無事だ。サスケは剣を構えて先ほどとは様相の違う敵の前へ踊り出る。いくつも射出された刃を難なく弾き、合間に入る男を剣で突き刺そうとした。しかし剣先を握られ一時的にでも動きを止められる。男の後方から、先ほどナルト達が交戦したうちはシンが大きな手裏剣のようなものを突き出しながらサスケを襲う。
その間に後ろから迫っていたイタルの位置に飛んだサスケが瞬時に豪火球の術を吹き、サスケのいた位置に飛ばされたイタルは平然とした顔でチャクラをまとわせた二つのクナイで勢いを殺さないシンの手裏剣との鍔迫り合いに備えた。
しかしシンは何かに引っ張られるように男の背後に移動し、サスケの豪火球を背で受ける。生かして話を聞く必要があるためか火力は大したものではなかったが、攻撃された勢いでシンは男にぶつかりながら地面へ叩きつけられた。
「そうか…これがお前の瞳の力か…うちはサスケ…!」
「ちょっと…何も言わずにボクと位置交換しないでくださいよ…」
「お前なら対応できるだろう」
「予測してましたけど、でもびっくりするじゃないですか」
サラダ達をかばうように二人が敵を睨みつけながら並び立つ。すごい、とサラダの感嘆の言葉に、ナルトは自分のことのように得意気に「まだこんなもんじゃねーってばよ!」と笑った。
「それにうちは…イタル…。暁復活のためにぜひともほしい代物だ」
「暁のコート…残党ですか?」
「すぐに喋らせてやる」
男はのそりと立ち上がった。頭にたくさんの目玉をつけ、全身は暁の黒字に赤雲のコートで覆っていた。その目は明らかに、移植された瞳だ。
「俺の名はうちはシン」
それを聞いて、先ほど子供の姿のうちはシンと交戦していた面々は顔を険しくした。
ただ子どもと同じ名前なのか。そもそも親子なのか。疑問は増えるばかりであった。
「捕らわれてからゆっくり本当のことをしゃべれ…今は黙ってろ。 ナルト、子どもたちを頼む…イタル」
「ハイ」
サスケとイタルが駆ける―しかし。グサリ、というなんとも不穏な音と同時に眉根を寄せたのはナルトだった。尾獣チャクラに守られているから、敵の攻撃を受けることはないはず。しかし、サスケが握っていた剣は確かにナルトの脇腹に突き刺さっており、視線が集まり明らかにサスケの手から離れているのに剣はズブズブと深く刺さっていった。
「七代目!?」
「どういう…」
「これが俺の瞳力だ。どうだ…お前に負けてないだろう?」
治癒能力が高いことをよく知っているサスケはイタルは、傷の深さには目もくれず何事かとシンを睨みつけた。
その間にナルトはタネを探す。 …おそらくは先ほどサスケの剣を握った時をマーキングとして、武器を操るのがその瞳力なのだろう。
ナルトの動揺によって尾獣チャクラによる防御壁が崩れる。ここぞとばかりにシンの操る刃がサラダに向かう。剣を奪われたサスケは、咄嗟にそれをかばうものの、刃が刺さることが動く生体をもマーキングできるのかサスケは動きを鈍らせた。
「平和は人としての進化を止める…まさに今のお前らだ。進化なき種はいずれ滅ぶ―」
「うちの旦那様と愛娘と大事な甥っ子に何してくれてんだしゃーんなろーがぁ!!」
たくさんの刃の切っ先をこちらに向け、今まさにこちらに射出しようとしていた時。イタルが全員をかばうため印を結びつつ前へ出ると、その瞬間すさまじい音と共にひとつの拳がシンの腹に強く強く打ち付けられた。
桜色の髪に翡翠の瞳。五代目火影より受け継いだ額の菱型―白毫の印と、シンの喀血からわかるとんでもない攻撃力。紛れも無く―
「ママァ!?」
「サクラさん!」
「こいつら何者?」
ずしゃりと力なくシンは横たわる。ナルトはようやく痛みに慣れたのか、俺もいるんだけどもよ…と少し不満そうにしながら九尾の尾を手の形にして二人のシンに伸ばし、捕まえた。剣を抜きながら悪態をつくようになにかつぶやいて、疲れたようにハァ、と息をついた。
「ごめんね、サラダにはちゃんと言い聞かせてるつもりだったんだけど…」
「イヤ…悪いのは俺の方だ、どう考えてもな」
「そうですよ!サクラさんはいつも頑張ってます!サクラさんが謝る必要ないですよ!あれだけ言っても帰らない馬鹿が悪い!」
「おいイタル、少しは口を慎め。……サクラ、だが俺には」
そう家庭の話をしていると、先ほどナルト達が子供の姿のシンと交戦した際、撤退を命じたあの人形のような物体が再び上空から現れた。こいつ事連れて行く―と横たわる二人のシンの直ぐ近くにたサクラごと、時空間忍術を発動した。咄嗟にイタルがクナイを投げるが、悲しくも通り過ぎるだけだった。
4
「よしてくれ…火影に隊長なんて呼ばれたくないよ」
「なんか…やっぱつい…俺にとってはヤマト隊長だからさ」
「話は先代から大体聞いてるよ。悪いがボクはここを離れられない」
ヤマト隊長と呼ばれた男は視線を外さないままそう答えた。―長い関し任務に疲れを感じているのだろうか、年齢よりも老けているように感じる。
場所は合流地点から一番近い、大蛇丸のアジトだった。ナルトが里を発つ前に師から言われた今回の敵の正体について、イタルのような特殊な事情のうちはの生き残りか、あるいは―かの有名な変態研究者、大蛇丸の実験体ではないかという話から、ここへ来るに至っていた。イタルの見聞から見ても、シンという男たちがうちはの者ではない。ならば今考えられるのはもう一つの可能性だ。
かつてそこに所属していたサスケは、多少警戒は見せながらもさくさくと隠れアジトの中を進む。そんな行きつけの店じゃねえんだからと焦ってみせるナルトを無視して、サスケは先頭を歩いていた。
「久し振りだねサスケ…ここは子どもたちと遠足に来るような場所じゃないんだけど」
「! 火影か?」
「大蛇丸のところへ案内しろ」
サラダ入り口近くで待ち構えていた二人の男を見て瞠目した。例の写真のうちの二人の面影があったからだ。思わずぎゅっと隣りにいたイタルの服を握る。
案内しろ、といったものの、言われるまでもなく、目的の人物である大蛇丸が顔を出した。可笑しそうに薄ら笑いを浮かべる姿は女にも男にも見える。
「この人が大蛇丸…!」
「あら…誰かしらこのこ達は?ああ、そこのイタチそっくりな子はイタル君よね。ねぇ、ワタシの実験体に―と、冗談はここまでにしておきましょうか」
後ろではチョウチョウが父親なのかとサラダを巻き込みそわそわしていた。
それなりに長い腐れ縁の大蛇丸は、サスケの機嫌があまり良くないことに気付いているようだ。
「お前の部下らしき男に子供が命を狙われ妻がさらわれた。何か企んでいるなら今のうちに全て吐け」
「ワタシが何か怪しい行動でもしたかしら?外の監視は何のため?」
「なら。写輪眼を体中に埋め込みダンゾウと同じ腕を持つあの男は何者だ?奴はどこにいる?」
淡々としたサスケの言葉になにか言いたげにしながら、大蛇丸は踵を返しついてくるように言いながら奥へ進んでいった。
「…それがシンの能力。イタチに陶酔しただけでうちは一族の者ではないわ。もう私の下から離れてしまったかつての実験体の一人よ。そう…文字通りダンゾウの右腕になってくれた子よ」
大蛇丸の説明は続く。
シンは移植された組織に拒否反応を全く示さないという特異体質を持っていた。大蛇丸はその身体がたくさん欲しくて複製実験を繰り返し、その関係で遺伝子の謎を紐解いていったという。
クローンは消えない影分身のようなもの。チャクラ切れやダメージで消えることもないそれが用済みとなったならば、殺すしか方法はない。
「人間て…そんな簡単なものじゃねーぞ。そんな実験やっていいのか?」
「思ったより人間とは単純なものよ。人間は遺伝子の奴隷みたいなもの…個人もつながりも全て証明できる」
「!クローンじゃなくて…普通の親子や兄弟でも…?」
大蛇丸の言葉にサラダが反応する。この味との雰囲気が気持ち悪いのかなんなのか、チョウチョウと二人で握っていたイタルの手を強く握りしめながら、黒い瞳をじっと大蛇丸へ向ける。
「遊んでいる時間はない…そのシンがどこにいるかもわかってるな、あんたなら。教えろ」
「いいわ…あのやっかいなシンを木の葉で捕まえてくれるならこちらも助かるしねぇ…。詳しく説明するからモニターのある部屋へ。また移動してくれるかしら?」
そうして揃って移動していく中、サラダはそっとイタルから手を離す。興味津々にナルトよりも前を歩いていたチョウチョウとすでに手を離していたイタルは、不審に思いちらりと振り返る。
サラダは大蛇丸の配下の一人である水月の袖を引くと、あの写真を見せた。
「この女の人…どの部屋に居ますか?」
「ああ…香燐と朧ね…香燐は別アジト、ここには居ない。けど朧ならちょうどここの先曲がった部屋にいるよ」
「そうですか…あの、もう一つお願いがあって…」
どれから話せば簡潔に分かってもらえるだろうかと思案しながら、サラダはまずは朧という人物がいる部屋への案内を頼んだ。
「朧、ヒマ?」
「ヒマですけど…おや」
ノックをしながら返事を待たず扉を開けると、ベッドのうえで上半身くぉ起こして本を読んでいる女性がいた。水月の言葉に簡単に返すその女性―朧は、水月の後ろに隠れるサラダを目ざとく見つけると、本を閉じてベッドから降りた。
「ちょっと、大丈夫なの」
「日常生活には何の問題もありませんよ。忍者仕事したら死にますけど」
「えっ、え?」
「ああ、気にしないでください。もともとチャクラ生成量が少なくて、直ぐ枯渇して死にかける体質なだけですから…それで、貴方は?ボクは朧。いろいろあって大蛇丸様に助けてもらってる身です」
薄く笑みながら首を傾げる朧にどきまぎしながら、サラダも自己紹介をする。
「サラダ…うちはサラダ、です」
「サラダ?うちは?ってことは貴方、サスケさんとサクラさんの」
「……はい」
「はい、って言う割に浮かない顔ですね」
なにがあったんですか、と水月に視線を向け直すと、水月はかいつまんで事情を話した。いつぞやに逃げ出していた大蛇丸の実験体がサスケに悪手を伸ばし、色々あってサクラが連れ去られたと。
「で…鷹の頃の写真見せて来てさ、香燐と朧はいますかって。…そーいえば、二人がどうしたわけ?」
「…その…―」
サラダは語った。サスケはどうあっても父なんだと語るナルトやイタルの前では言えなかったようなこと。
「………」
「………」
「…ちょっと…サスケさん殴ってきます」
「ま、まさかサスケがそこまでのクズ野郎だとは…!」
「今はまだその可能性があるかもってことです…だから私のママが誰なのか…鑑定して欲しいんです!つながり…調べてもらえますか!?」
そういいまとめたサラダに、朧と水月は困り顔で視線を通わせた。
「別に…いいけど…」
「でも、サスケさんがサクラさん以外の人とってのはありえないですよ。あの人…、…。まぁでも、そんな不安にさせるような過去関係が悪いですね…」
「本当は私、貴方かもって思ったんです…けど、メガネだし…」
朧の部屋から、『調べる』方法のある部屋へ移動する。自分も疑われていたと聞いて朧は心外そうに眉をひそめた。
「それはひどい誤解です」
「でもさぁ。こんな時に言うのもアレだけど、朧って昔サスケと」
「…!」
水月が言いかけた言葉に朧は眉根を寄せ水月を叩く。そんな、とサラダは続きを察し朧を泣きそうな目で睨みつけた。
疑いの眼差しに朧は悲しげに息をついて、サラダに視線を合わせかがんだ。
「僕は色々あって、子供が作れない身体です。ですから貴方を産んだのは僕というのはありえません。それにあの人は…」
「まーとにかくさ、解析すれば強固な証拠が出来てこの子も安心できるんでしょ。やってあげればいーんじゃない?」
解析室へやってくると、サラダの口内粘膜と―水月が見つけてきたへその緒のふたつを解析にかけた。解析中、とディスプレイの真ん中に映る文字に、三人で無言になりながら変化を待った。―しかし。
『―一致しました』
その文字に、サラダは魂が出るかのような細い息を漏らした。
「…どうやら…君のお母さんは、香燐に間違いないね…。まぁメガネも似て …、あ、じゃあ僕はこれで」
「でも逆に言えばメガネしか似た所がないですよ。それに香燐さんは香燐さんで血統があります、サラダさんにはそれがない。そもそも…って水月さん!もう… サラダさん、大丈夫ですよ、具体的な証拠は今出せませんけど、間違いなくあなたは」
フォローの言葉を投げても、サラダは見向きもせず―静かに涙を流していた。少しして、どうやら話を聞いていたらしいナルトとイタルがひょっこりと気まずい顔をだし、もう出発だとやんわり伝える。サクラさんを助けに行かないと、と明るく務めるが、彼女にとってはごまかしきれないことのようだ。
「?サクラさんがどうしたんです」
「えーっと色々あってなー、でもよぉ朧、どうして二人のこと…」
「証明できる一言はあるんですけど…サスケさんの沽券に関わるんで…ちょっと言いづらくて…笑える話でもないし…」
「さ、サラダちゃん、大丈夫だって、いくらなんでもサスケさんがそこまでクソヤローとは」
「…そつき」
サラダが呟く。大人三人が言葉を止め、心配そうにサラダを見た。
「七代目のうそつき!イタル兄さんのうそつき!!なんでアタシがままでもない人を助けに行かなきゃなんないのよ!私をずっと騙してた人達のことなんてもう知らないよ!!」
強く怒鳴って息を切らすサラダはその瞳に両の目に一ずつの巴を浮かべていた。写輪眼が開眼したらしい。その事実にイタルはひどく眉根を寄せた。写輪眼を開眼したということは、この事がそれほどひどく胸に突き刺さっているということ。
それほど強く家族のことを想っていたということなのだ。だというのに―いや、自分が写輪眼を、果てには万華鏡の方までこっそり開眼しているのは、師から話を聞き仕込まれた幻術によるメッセージだったりとか、するのだが。
今さら写輪眼だなんて両親とのつながりを持っても嬉しくない、とサラダは強く言い切った。
「…どうする気だ?」
「…二人には関係のないことですから!私一人で旅を続けます…もう木ノ葉隠れの里には帰らないと思います…ではいろいろとありがとうございました…!」
「そんな事言わないでよサラダちゃん…!サラダちゃんが行くなら、ボクもついていくからね」
振り払うようにそっぽを向いて部屋を出ていこうとするサラダの腕を掴む。ナルトは一寸躊躇った後、静かに思っていることを告げた。…大切な親友の娘だから。大切な―木の葉の家族だから。
「悪ィけどさっきここでの話は聞こえちまった。けど…オレには関係ねーとか…そういうふうには行かねーんだ」
「聞いてたんならわかるでしょ!事実七代目にも、親戚でしかないイタル兄さんにも関係ないことじゃないですか!」
「そんなことない。少なくともボクはサラダちゃんを、ただの親戚の子だなんて思ってない!大事な家族で…」
「ボルトにも、」
話を聞こうとしないサラダに、ナルトは掴んでいた手を痛くない程度に握り直し視線を合わせた。
「ボルトにもよく言って聞かせんだ…火影ってのは里の全ての人が家族みてーなもんだってな。先代の、三代目火影もよくそう言ってた」
「だから何ですか!?それはただの方便ってやつでしょ!? パパは全然里に居ない。娘の私の顔さえ知らなかったし、手紙の返事をくれててもこっちの手紙の中身を読んでもいない!ママはずっと私を騙してた。それに…血が…繋がってもいなかった。
私には本当の家族なんていないんだってことがよーくわかりました。それから…七代目もイタル兄さんも私じゃない。これは紛れもない事実でしょ?…だから、私の心のなかもわかりっこない。アナタは私と家族じゃない」
腕を振り払おうにもナルトはサラダの腕を掴んだままだった。
ナルトとイタルの脳裏にかつての記憶が流れる。家族だとか、つながりだとかそういったものを求めてやまなかった頃の記憶。
朧は申し訳なさげに隅っこで会話を見守っていた。
「お前のとっちゃパパやママとの繋がりは、その程度のもんなのか?繋がりってのは時間や血だけじゃねーだろ?それより強えーもんがある!」
「じゃあ!なんだって言うんですか!?」
ふ、とナルトは悲しげに、けれど微笑むように目を細める。
「想い。それさえありゃあいい」
「……」
「そんだけだ。もういっぺん、…自分にそれがあるか確かめてみろ」
サラダはうつむいて目をつぶる。思い出したくなくても、自然と母サクラとの会話が脳裏に過ぎる。
熱を出した時にずっと看病してくれたサクラ。帰ってこないパパに不満を言うサラダを抱き締めて、笑顔で話してくれたこと。パパの代わりとばかりにいっぱい遊んでくれて、アカデミーに入った頃にはいっぱい修行に付き合ってくれた従兄弟のイタルのこと。
人差し指と中指でこづかれた額に手を当てて、サラダは静かに涙を増やす。ママ、とつぶやいてぐっと唇を噛み締めた。
「うっ…う…私…やっぱりママを…助けたい…。でも…もう昔みたいには…どうしたらいいの?」
「偽物だろうが本物だろうがそんなのはどうだっていい。助けてーって思いがあったんなら、それが本物だ!」
「…さ、行こうかサラダちゃん。サクラさんを助けに」
強く見つめ合い頷いたサラダを見て、ナルトたちは急ぎ外へ向かった。
5
「!お前たちどこに行ってた…!?」
「あら朧、アナタもついてくいくつもり?一応万年安静患者なんだけど」
解析室からいつのまにやら姿を消していた朧は、ナルト達が出入り口に戻ってきた頃同時に、鮮やかな緋色の傘を担いで出てきた。それを視界に入れたサスケは驚いてみせたが、直ぐに眉根を寄せた。
それもそうだろう、もう忍を続けることは不可能と聞いている朧が、忍び装束ではないものの軽装をして自分の武器である傘を担いでいるのだから。
「いえ…少し、お話しようと思ったんですけど。サクラさんの危機と聞いてのんきにサスケさんぶん殴ってるヒマはないなと」
「なにがいいたい」
「前へ立ちはしませんけど、子どもたちを護ることは出来ますから。それが終わったら、サスケさん、顔貸してください」
「笑うようになったけどアナタ、そんな邪悪な笑顔身につけなくていいのよ朧」
サスケたちの近くへ向かいながら、ナルトがサスケに人差し指を突き出しながら「オレも後で話があっからよォー!」と強く叫んだ。
「どれもこれも後です。まずはサクラさんを助けに行きましょう」
「もう殺されちゃってるかもねぇ」
「俺の妻はそんなヤワな女じゃない。迎えに行ったら全部片付けてる可能性だってある。…場所は分かった、俺が全員連れて行く。やっと瞳力が戻ってきたところだ」
翼をつけた須佐能乎で雲の上を飛んでいた。なれた様子のナルトや朧以外の、子どもたちやイタルでさえ普通は経験することのない地上との遠さに困惑しながら、すさまじい速度でうちはシンの元へ向かっていた。
「大丈夫ですよ、サラダさん。僕がサスケさんをぶん殴ってでも、三人の繋がりを示させますから」
「えっと…お手柔らかに?」
傘を持っていない方の手でサラダの頭を撫でる。サラダはぎゅっと前を見据えてながら拳を握った。
ナルトに感知を頼むと、即座にシンとサクラが交戦中だとわかる。舌打ちしたサスケは更にスピードを上げその写輪眼で二人を視認すると、今まさにサクラへ攻撃が飛んだ瞬間須佐能乎の腕を極限まで伸ばし、敵―おそらくはシンの片腕を弾き飛ばすとそのまま強く握り込んだ。
サスケ当人の方はサクラに駆け寄ると、腕に刺さっていたそのまま操られてしまう可能性のあるシンの刃をすぐさま引き抜くと天照であとも残らず燃やしてしまった。傷跡は自分で治せるな、とサクラを立ち上がらせながら仏頂面で言う。
同じく駆け寄ろうとしたサラダは母の無事を確認すると、泣きそうな顔で笑う。ポン、と朧が寄り添い肩に手を置き微笑みかけ、人差し指を唇に押し当てる。首を傾げ、そのまま指さされた方を見やった。しかし朧の伝えたいことは、その時はまだサラダにはわからなかった。
「骨をやった…もう動けん。お前はこれから木の葉でいろいろと調べさせてもらう」
「ボク、先に暗部の方に準備依頼してきます」
着地すると口寄せの印をしながら外へ向かうイタルを見送り、サスケは一歩一歩シンへ近付いた。
「フッ…どうかな。お前たち…やれ!」
手を振り上げそう指示する大人の姿のシン。―しかし、ぞろぞろとたくさん出てきた子供姿のシンは、サスケたちではなく倒れるシンへその武器を突き刺した。シン自身も驚愕している。
「もう…いい…父様、今は…古びた…使い捨ての肉…父様の瞳力…もう弱い…これからは俺達が…進化させる…」
「…こんなことになるんじゃないかと思ったけど」
シンに宣告した少年シンの声と共に、さらに多く子供シンが姿を現した。丸くふとましい者、痩せてガリガリな者など個体差がある。―どころか、それこそ尾獣と同じ位のサイズの者もいた。
傘を開きサクラと子どもたちを背にかばう朧と、多重影分身で負けない数を作り各戦いを始めるナルト。そして須佐能乎の拳で巨体のシンを殴りつけるサスケ。口寄せの鷹で里へ報せを飛ばし終え、騒ぎに気付き戻ってきて早々クナイを構えるイタル。これだけ上忍以上の実力を持つものがいれば、負けることは早々ないだろう。
―その傍らで、息も絶え絶えだった大人のシンが静かに時空間忍術を展開しようとしていた。そしていつぞやの一つ目人形もサクラと子どもたちの近くで同じく時空間忍術を展開していた。
「サラダ!」
「わかってるってば―このォ!」
大きく後ろを振り向き、サクラ直伝のチャクラコントロールによる怪力によって人形を叩き潰した。それが本体だったらしく、大人シンは完全に息を引き取ったようだった。
しかし大人シンからの支配を抜けていた子供のシンたちはまだたくさん残ったままだ。
「下がって…サラダ」
再び影分身をし直すナルトと、娘をかばうため朧の隣に出てきたサクラ。―けれどその心配もなかったかのように、サラダは地面を蹴った。壁へ跳び彼らの上空へ行くと―
「―しゃーんなろーがァ!」
かつてのサクラのように、拳によって地面が砕かれ隆起する。その衝撃で大半のシンたちが倒れ吹き飛ばされていった。
こらえたらしい、子供シンの中でリーダーをしていたらしい分体は、ナルト本体との殺気の飛ばし合いで怯んだようだった。これ以上何もしないならこちらも何もしない、と言う言葉につばを飲み込みながらうなずいた。
「サラダ、無事でよかった…」
「く、苦しいよママ…」
「あ!ごめん… ……大体の話はシズネさんから聞いたわ。しゃーんなろーよ!正真正銘私の子に決まってるでしょ。馬鹿な子ね」
一度短気に怒鳴りつけてしまったサクラは必死に語気を抑えながら言う。
「うん…わかってる。もういいの、ちゃんと想いがあって…気持ちがつながってるのが一番だから」
「? そういえば、イタル!あんた分かってんでしょ、なんでここまで…こら、そっぽ向くな」
イタルはサスケを一瞥した後つんと無視して顔をそむける。サラダはそわそわした後、サスケを呼んだ。
「パパは…ママと気持ちがちゃんとつながってると思う?」
「…ああ」
「パパはなんでそう言い切れるの…?」
少しの間を開けた後、振り返る。
「お前がいるからだ…サラダ」
ようやくまとまったかと息をつく周りに、暖かな雰囲気が包む。そろそろ帰るか、とナルトの一声で一同は帰路へとついたのだった。
6
「それで…サスケさん」
「………」
「いいましたよね、僕」
木の葉への帰路、サスケの数歩先を歩く朧は、どこか冷たく感じる声で言った。名指しされたサスケは視線を泳がせながら足を動かしている。何も言わないサスケに周りの面々もハラハラと見守っている。
「僕自身、別に貴方に未練があるわけじゃない。けどだからこそ、サクラさんとサラダちゃんを悲しませないでくださいと」
「…すまない」
「すまない、じゃないですよ。何ですか十年って。十年で手紙が五十枚以下?帰宅ゼロ?」
「いや、」
「朧、サスケ君だってそんなすぐに帰れる場所にいるわけじゃないし、しかたが…」
「サクラさんがそうやって甘やかすからダメなんですよ。どうあがいたってこの人貴方しか見えてないんだから、もっとつよくいっていいんですよ」
「おい朧」
「こうなれば仕方ありません。サラダちゃんいいこと話してあげましょう」
「…?」
「簡潔にいうと、僕とサスケさんはいわゆるモトカレモトカノというものです」
「え」
「けど、昔の話です。この人が僕を見た理由は、ただ生い立ちが似てるからっていう仲間意識ですから。僕も別に色恋に興味なかったんで流されてたんですけど」
「えっと…」
「おい、いいかげんにしろ」
「サスケさんは黙っててください。―思い出した中で一番最初はそうだなぁ、僕が七班に臨時加入した時。僕がある程度強かったってのもありますけど、常にチラッチラとサクラさんを気にしてましたからね」
「おい…」
「サスケさんが里抜けした後初めて七班と再会した時、『ナルトなんて知らねぇな』とか言っておきながら直後『サクラか…』ですからね。まぁ、サクラさんを遠ざけたかった心情は察しますけど、その分尽くせって言ったのに」
「………考えてみれば…サスケェ、お前」
「黙れナルト」
「…パパ、そんなにママにベタぼれだったの?ベタぼれなのになんで帰ってこないの?」
「多分、一緒にいると腑抜けになる自覚があったんだろうな」
「イタル!」
「サスケさんはどうあがいても次男坊ですからね。あれだけのことされてそれでもまだ好きでいられるサクラさんしか、サスケさんの手綱は握れませんよ」
「わ、私は手綱を握ってなんか…」
「口止めされてたんで言わなかったけどさ、たまに任務中無理言ってサスケさんに会うと、第一声『サクラは元気か』ですから。その次に『サラダは元気か』。その割に顔は覚えてなかったみたいですけど、でも赤ちゃんの頃の写真は懐に入ってるみたいですよ」
「こらイタル!」
「そういえば今科学班で、雷遁で充電できる端末機を開発してもらってるんです。それができたら、毎日連絡しましょうね」
おわり
おまけ
「………、さっぱりわかんないわ…」
「サクラ、母上は勉強はできるが人に教えるのが壊滅的に下手だ。今の説明でわかるのは父上くらいしかいない。実演してもらうか的を絞って質問してはいかいいえの二択で答えてもらったほうがいい」
「理解できるかって、そういうことか…」
※ママのお話は擬音とジェスチャーばっかり
「うわあああああああ!!???」
「どうしたのボルト!?」
「お、おまっ、お前!女だったのか?!」
「…ああ」
「「「………!」」」
※気付いてたのはサクラとイタル、朧とミツキだけ
「ん?」
「…………、」
「……なんだ」
「いや…ちょっと…違うのはわかってるんですけど…」
「あー…イタルの母ちゃんを殺したのはマダラだからだからなぁ」
「…?父親ではなく母親をか。一般人か?」
「色々ややこしくはあるが、立派なうちはの女だ」
「十五年前の戦争で穢土転生されたあんたを相手取って、連合軍かばいながら戦ったんだ」
「ほう…俺に渡り合うなら万華鏡開眼者か?」
「ああ。俺がイタルの父親を殺したことで、俺とイタルの母親が万華鏡を開眼した。
…俺の兄だったから」
「ふむ。そいつは俺が直接殺したのか?」
「綱手様の話では五影が一撃で瀕死になるようなマダラの攻撃に耐えて、反撃しようとしたところにとどめを刺されたそうよ。綱手様が医療忍者だったから、その場でなんとか守ってくれたから見てたんだって」
「俺がわざわざとどめを刺したんなら相当強い女だったんだろうな。惜しいことをしたが、その遺伝子が受け継がれているのなら充分だ」
「!……へへ」
「なんだ」
「母さんが褒められて嬉しい。母さんは、ずっと誰も見てないところで頑張ってた人らしいから」
「…お、おう」
「イオリねーちゃんは美人…いやかわいい系かなぁ今思うと。そんで優しくて、強くて」
「イタルに遺伝しちゃった心臓疾患はあったけど、それひきずって戦ったっていうんだからすごいわよね」
「…あの時マダラにホモ野郎って言ってたんだけど、そういや実のところどうなの?」
「それは酷い誤解だどうしてそうなった」
「マダラが男尊女卑な発言ばっかしてたから、イオリねーちゃんが怒った」
「父上は女子供は守るものと定義しているんだ。だからワタシも写輪眼を開眼するまで修行をつけてもらえなかったし…あと男でも力の弱いやつは攻撃しない。こちらを殺そうとしてきたり邪魔してきたら殺すけど」
「マダラ様が大好きなのは男じゃなくって柱間殿です。そう、私やユウダよりもね」
「いやそうじゃないだろユウマ。そういう発言はやめろ」
「…うちはの男はだいたいそういうもんなんじゃないかしら。サスケくんもナルトのこと大好きだし」
「「!?!?」」
※突然の流れ弾がサスナルを襲う―!(決して腐ではない、申し訳ない)
「なぁイタル、オマエはどうやって万華鏡写輪眼を開眼したんだ?こんな平和な世で」
「ボク?ボクはサスケさんに会った後に両親の話を聞いて、母さんの目に仕込まれてた月読の幻術で両親のメッセージを聞いて一緒に二人の過去をダイジェストで見た時かなぁ。月読の幻術ではあったけど、親しい者の死を見たからなのかな。それから母さんの目を移植した」
「親しい者の死?」
「え、うん。…ユウダは、どうやって開眼したの?」
「わ、ワタシは…いつの間にか…」
「え?」
「普通の写輪眼は四歳の時に開眼して、万華鏡は九歳の時。
母上が誘拐されて私と父上と柱間殿で助けに行ったんだ。二人の戦いを見てたら、ワタシが二人に敵う気がしなくって…悔しくて仕方なくて、それからずっと修行にふけってたんだ。そんでぶっ倒れて一週間寝たままで…母さんでもわからない原因不明の昏睡状態だったって聞いた。それで起きたら」
「万華鏡を開眼していた、と」
「扉間の話では特別な条件に当てはまると脳内で特殊なチャクラが吹き出しそれが視神経に影響して写輪眼ないし万華鏡写輪眼を開眼するようだ。"親しい者の死"が条件だと思っていたからユウダにその話はしなかったんだが…ユウマを殺されでもしたらかなわんからな」
「そんなことしません!」
「可能性の話だ。だがまぁユウダの場合…、悔しいという気持ちが微量ずつ、その特殊なチャクラを生成したんじゃないか。それがたまたま視神経に影響が出た。お前の従兄弟のサラダとか言ったか、あれもユウダと相当条件が近い、開眼する可能性もあるぞ」
「…七代目とサスケさんに強く憧れて?」
「そう。しかも母親は医療忍者で、あのしち面倒な額にチャクラを溜める術も出来るんだろう、それほどの精密なチャクラコントロールを出来るなら、特殊なチャクラを生成することもできるんじゃないのか。推測だが」
「なるほど」
※っていう妄想
「…口寄せの術!」
「うん?なにやってんだ…ッ?」
「やっぱり駄目か…九喇嘛に修行に付き合ってもらいたかったんだが」
「…、九喇嘛をどこで知った?」
「? 柱間殿の奥方、ミト様が腹に封印している尾獣だ。父上が木ノ葉崩しをしようと探してきたものらしい。ワタシがもう少し大きくなったら、ワタシの腹に封印し直してもらうんだ」
「へぇ…どういう関係なんだ?」
「…ワタシは、友達のつもりだ。赤ん坊…いや、母上のお腹にいる時から殺気が向けられててな。最初は怖かったんだが、父上のせいで人間を恨んでると聞いて、たくさん話をしたんだ。それで…父上が居ない時は、ミト様にほんの少し九喇嘛の力を分けてもらって、修行したり…。犬塚家の忍犬程度の大きさしか見たことないんだけどな」
「…へぇ…」
「父上と母上にはずっと仲よくいてもらいたいから、たまに一人になるんだ。そういう時に一緒にいる。あったかいし、小言はうるさいけど優しいんだ、九喇嘛は」
「……………」
「ワタシが万華鏡を開眼した時、九喇嘛もずっと修行に付き合ってくれたんだ。高熱を出して倒れたワタシを家まで運んでくれて、母上でも原因がわからない症状を『大丈夫だ』って安心させてくれて。…夢の中で泣いてるワタシとずっと一緒にいてくれたんだ。皆あの力を怖がっているけど、いいやつなんだ!」
「へへ。知ってるよ。なぁ九喇嘛?」
「…?」
「俺が、その九喇嘛の人柱力だからよ。俺も九喇嘛のことで小さいころは苦労したけど、今は良い友だちだ」
「…オマエも? …そうか。九喇嘛がワタシ以外に友達を作れるなんて思わなかったな!」
「オイ、それはどういうことだ」
「!」
「ハハ、九喇嘛が拗ねてる」
「………へへ」
※本当はこの系統のやり取りを本編に組み込みたかった